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第一話「スタートライン」

「コウタくん今日もかっこいい!」

「ケッ、どこがだよ」


教室に響き渡る

女子たちの黄色い声と

男子たちの不満の声


少年は退屈そうに

頬に手を置きながら机の上に肘を乗せていた


「コ、コウタくん…その…」


階段の踊り場で女子に声をかけられて

少年は気だるそうに耳を傾けていた


「今、付き合ってる子とか…いる?」

「なんで?」

「も、もしよかったら私と…」


女子が言いかけた時、階段の上から大きな声が響いた


「小春〜、授業始まっちゃうよ〜!」


「あ、ごめん、千夏、今行く!

じゃ、コウタくん、ま、またね、ば、バイバイ!」


そう手を振ると小春は

階段を駆け上がり千夏の方へとまっすぐ向かった


「ぬけがけかぁ?」

「え、えへへ…」


小春は千夏に肩を組まれてぎこちなく笑う

それを冷めた目で見上げる少年


少年はその場から離れようとすると

男子たちが声をかけてきた


「おい、コウタ、ちょっとツラ貸せ」


少年はまたかという顔をした


「ギャハハハ」

「だっせぇ」


中庭、校舎の裏で

ボロボロになった少年が尻餅をつきながら

遠くで笑う男子たちを静かに眺めていた


『世間は僕のような人間を勝ち組と呼ぶらしい』


少年は立ち上がり、頬を拳で撫でた


『欲しいものはなんでも手に入る

何かに手をつければなんでも100点

合唱コンクールも毎年優勝』


『女子は毎日馬鹿みたいに僕に声をかけてくるし

男子は毎日僕を校舎裏に呼んでは殴ってくる』


『最初は反撃もしていたけど

そのうち僕は殴られることになんの怒りも抵抗も湧いてこなくなった

やり返せばやり返すほど、相手が惨めに思えてきたから』


『何をしても周りは誉めてくる

うんざりするくらいに』


『退屈な毎日、つまらない世の中

刺激が欲しい』


放課後、帰宅途中の少年はアーケード店の前で足を止めた


自動ドアを潜り

荷物を床に置いて

アーケード台の前に深く腰掛ける


少年はスティックを掴み

コインを入れてゲームを起動させた


カチャカチャカチャと

ボタンを連打して、スティックをグリグリと回す


「弱い、弱い、弱い、弱い」


KOの文字が画面に浮かぶたび

対戦相手と背景が切り替わっていく


「口ほどにもない、みんな雑魚だ

もっと僕を楽しませろ

苦戦させてみろ」


少年はまるで不満でもぶつけるように

ボコボコにした対戦相手をなじった


そして、ある対戦相手の名前が表示された時

ボタンを押す手はピタリと止まり

少年の顔は険しくなった


対戦が始まると

少年はさっきよりも激しく

ボタンを連打してスティックをグリグリと回した


「くそ、くそ、くそ、くそ…!!」


少年は次第にイラつき始める


画面にKOの文字が表示されると

少年は頭を抱え、「うああああ…!!」と叫び声を上げて項垂れた


「まただ、何度やって…

何度やってもこいつには…」


画面には横たわる男キャラクターとそれを尻目に両手でピースをしながら飛び跳ねる女のキャラクターがいた


『僕はゲームのセンスがなかった』


少年は悔しそうに画面を見つめた


『音ゲーシューゲー何にでも手を出してきたが

どれもうまくいかなかった、今は格ゲーにハマってる』


『初めの頃よりはマシになったが

それでもちょっと強いプレイヤーと当たると

ボコボコにされる毎日だ』


「くそ、死ね!小春!しね!」


対戦相手のキャラは踊り場で少年に好意を向けてきた少女、小春に容姿が似ていた


『あまりにも下手すぎて伸び代もない

そのうえ頻繁に潜るから、その手の界隈に認知されて

ネットでは常に馬鹿にされる始末』


「ザッコww」

「才能ないよ」

「なんでこいつアーケードでやってんの?」

「へたくそがゲームやるな」

「ポ○モンでもやっとけ」

「名前ださっ」


『僕は昔から苦手なものはなかった

触るもの全てが得意だった』


『絵、ピアノ、柔道、剣道、合気道、茶道

全て制覇した』


『父からも母からも民からも各国の首脳や大統領からも

みんなから褒め称えられてきた』


『フェリーにもカヤックにもヘリにも乗った

免許も持ってる』


『僕にできないものはないと思っていた

なのに…』


「くそ、C−から上に上がれない…!!

なんで…!!なんでゲームは…!!ゲームだけはぁぁぁ!!!」


少年はイライラをかき消すようにコインを再び投入口に投入し、ゲームを再開した


『僕は資産家の父と芸能人の母のもとで育った

目に映るものはなんでも与えてくれた、でも

ゲームだけは低俗なものだと今まで触らせてもらえなかった』


「ゲームだと?そんな低俗なもの

我々厳格な一家には必要ない」


「そうよ、私たちは厳格なのよ?

ピアノをしなさい」


『幼少時代から僕は優秀だった

音楽、手芸、勉強、なんでもできた

でもゲームだけは触らせてもらえなかった

だから友達はできず、クラスではいつもひとりぼっちだった』


「コウタくんかっこいいなぁ」

「でもあいつゲーム持ってないんだぜ」

「いいよ別に、持ってない方がかっこいいもん」


『ある時、女子が当時流行っていた3○Sをやってるのを見かけた』


「え、これ?3○Sだよ?今流行りのやつ

コウタくんもやる?」


『僕は女子から借りた3○Sを手に取り、その見たことのない魅力あふれる世界にどっぷりと浸かった

僕はゲームにのめり込んだ…』


「ただいまー、お父さん、お母さん!

ねぇ聞いてよ!今日女子がね、3○Sを触らせてくれて…」


「どうして3○Sに触ったのぉぉぉ!?!?」


「あんな忌まわしきものぉぉおおおおお!!!!」


『そのあと厳格な父と母にこっぴどく叱られて

トラウマになった』


『それ以来、父と母はより厳しくなり

より厳格になった』


『僕には才能がないのかもしれない

そんなことはわかってる』


『だけど』


『それでも僕はゲームに勝ちたい

上手くなりたい、上手くなって

みんなを見返してトップに立ちたい!』


『もしかしたらこれが僕の本当の

人生のスタートラインかもしれないんだ』


少年は再びスティックをグリグリと回し

ボタンをガチャガチャと押した


そして再び画面にはKOの文字が表示され

アーケード店内には少年の絶叫が響いたーーー。

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