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6.悪役3

『風邪ですか?』


『そうなんだ』


 フリッド様とのデート中のこと。

 彼から「ジェニー王女殿下が風邪を引いたから、お見舞いに行かなければならない」と言われたのです。


『お見舞いに行かれるのですか?』


『ああ』


『私も一緒に行きましょうか』


『いや、王女殿下は人見知りなんだ』


 人見知りだから何でしょう。


『王女殿下は昔からあまり身体が丈夫ではないんだ。そのせいか気心のしれた友人がいない』


 ただ単に友人がいないだけでは?とは思いましたが口には出しませんでしたわ。

 そもそも王族ですよ?王族に気心のしれた友人とは一体誰がなれるというのでしょう。親しくできる者も限られてくるというもの。特に王女ともなれば王子よりも制限は緩い代わりに付き合える者は限られてきます。


『兄妹同然の幼馴染の私が守ってあげなくてはいけないんだ』


 何か釈然としませんが、そこは流しましょう。


『そうですか。分かりましたわ』


『申し訳ない』


『いいえ、気にしないで下さいな。私なら大丈夫ですわ』


 そう答える以外ありませんでした。

 だってそうでしょう。

 婚約者とのデート中に、「王女が風邪だから見舞いに行く」と言われたのです。うだうだと言い訳を並べてまで。それは良いでしょう。いえ、あまり良くありませんが……。ただ、行くのならばデートが終わった後でも良いでしょうに。何故、今なのですか?とはいえ、引き止めても無駄でしょう。


『お気をつけて』


 私はそのまま、彼の背を見送るしかなかったのでした。


 それからかしら?

 フリッド様が何かと王女殿下を引き合いに出すようになったのは。


『ジェニー王女殿下が』


『ジェニー王女殿下は』


 王女殿下、王女殿下、王女殿下。

 口を開けば、ジェニー王女殿下。

 フリッド様からジェニー王女殿下の話を聞かない日はないのでは?と思う程に。

 ハッキリ言ってうんざりしましたわ。

 けれど、よく考えればおかしなことだらけですわよね?

 王女殿下と幼馴染なのは別に構いません

 フリッド様は公爵子息。幼い頃に「お友達」として王族に紹介される立場ですからね。

 けれど、何故「兄妹同然の幼馴染」という関係になるのでしょう?

 フリッド様とジェニー王女は同い年。

 普通に「幼馴染」と言えばいいのに、と。


 ジェニー王女殿下を引き合いに出され、茶会やデートをドタキャンすることが続きました。

 時には訳の分からない理由もありましたしね。もっとも、その度にフリッド様は「申し訳ない。この埋め合わせはまた今度するから許してくれ」と言っていましたが、それが実現される事は今日までありません。更に、自分で謝罪することすらなくなりましたので、これから先もそんな日は来ません。今となっては婚約者として最低限の義務さえ果たそうとしない始末。


 フリッド様と王女殿下が親密になればなるほど不愉快な噂がひっきりなしに湧き出る状況下。

 私の耳に入るようにわざと流されているものだと気付いた時は怒りを通り越して呆れてしまいましたわ。


 公爵子息と王女殿下の真実の愛を引き裂こうとする悪女――――


 これが、この国の社交界で囁かれている一番ホットな噂です。

 若い令嬢を中心に広まって、今では高位貴族の間でもこの話が話題に上るほどです。

 フリッド様が否定しないせいでどんどん尾ひれが付いています。

 婚約者である私よりも王女殿下との仲の方が親密だとか、夜会では常に寄り添っているとか、人前でキスしていたとか、挙げ句の果てには既成事実があったなどと吹聴する者までいる始末です。

 まったく馬鹿らしい限りですわ。

 一番腹立たしいのは……フリッド様とジェニー王女殿下が自分達の「悲恋」に酔っていることです。

「悲劇の主人公」を気取っているようで気持ち悪い。


 この二人のせいで私は謂われのない非難を受ける羽目になっているのですから!

 未婚の令嬢などは特にそうです。

 私のことを貶めるような発言ばかりするのですよ。

 それなのに誰も注意しようとしません。

 この国は一体どうなっているのですか!?


 ボルゴーヌ王国の公爵子息と婚約していても、私は他国の人間。謂わば客人ですよ?

 そんな人間に対して失礼極まりない言動をしていることに気付く者がいないとはどういうことです? この国に私の味方はいないようですわ。


 一年近くで本性を現すとは、さすがの私でも予想外でした。

 このままでは婚姻できませんわね。

 大使を通じて帝国に報告が入っているはず。


 フリッド様はご自身の事を理解しているのかしら?そんな疑問を抱きながら私は父に手紙をしたためるのでした。




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