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4.悪役1

 フリッド・オーファンラスター公爵子息とジェニー王女殿下。


 この二人は幼馴染の関係にあり、しかも婚約の話まで出ていたほど親しい間柄だったらしいのです。

 ジェニー王女に他国との縁組話が出なければそのまま順調に話が進んでいたことでしょう。

 お互いに婚約者がいる身になっていながら逢瀬を重ねているのだから驚きです。いえ、確かな証拠はありません。あくまでも噂。ただの噂。


「聞きました?ジェニー王女殿下、どうやら病気の際にオーファンラスター公爵子息を呼び出したそうですよ」


「それだけではありませんでしょう。なんでも毎日王女殿下の元へ通っていたそうですわ」


「あら、二人っきり過ごされていたと聞きましたわよ」


 王宮の使用人、特に王女殿下付きの使用人の口は随分と軽いようです。

 普通は黙認しておくところでしょう。

 もっとも、二人に注意を促す者が少ないのも問題ですが。忠言するどころか二人の仲を肯定し、応援する者が多いくらいですもの。

 そもそも王女にも婚約者がいらっしゃるのですよ? それを理解しているのかしら?他の男と親しくしているなど言語道断。不貞ですもの。もしこのことが公になったなら、王家の信頼を大きく損ねることになるとは考えないのでしょうか。


「ジェニー王女殿下は、オーファンラスター公爵子息をとても愛してらっしゃるそうですわ」


「まあ!素敵ですわね!」


「ええ!禁断の恋ですわ!」


「秘密の関係、物語のようですわね!」


「憧れてしまいますわ!」


「私もそんな恋がしてみたいものです」


「私もですわ」


「ジェニー王女殿下の恋は応援したくなりますね」


 ……これですもの。頭が痛くなります。

 事の重大さを、当人だけでなく周囲までもが理解していない様子には呆れを通り越して感心さえしてしまいます。

 若いからでしょうか?

 違いますわね。彼女達は私と大して歳は離れていませんし、この手の噂を「素敵」だと表現している頭の緩い方々ですもの。

 恋に恋をしているお年頃、ですわね。


「良いわね。私の時なんて、誰かに恋をするだけで罪人のような扱いだったものよ」


「これも時代かしらね?私達の時は、政略結婚が当たり前だったもの」


「それは今でもよ」


「でも、恋愛結婚も増えてきているわ」


「まぁ、昔と比べると、ですわね」


「そうね」


 ……本当に。頭が痛いですわ。

 若い女性だけでなく年配のご婦人方も、うっとりとした表情で二人について語り出す始末。

 まったく。この国はどうかしています。

 とはいえ、大っぴらにはできない話なのも確かです。

 社交界でヒソヒソと噂をする程度。

 ちょっとした娯楽程度なら、よかったのですが……。

 私にまで飛び火してくるのは困りものですわね。


 相思相愛の二人の仲に割って入った「他国の婚約者達」は、この国では「愛し合う恋人同士を引き裂く悪人」だと認識されています。

 つまり、私は「二人の仲を引き裂いた悪役」扱い。

 何が悲しくてそんなレッテルを貼られなければならないのでしょうか? 私のどこが悪いというのです!? どう考えても不貞する方が悪いに決まっているでしょう!こんな理不尽なことがあっていいはずがありません!

 この国で友人と呼べる人間が少ないのは間違いなく二人のせいでしょう。

 まったくもって迷惑な話です。


 折角、お父様が私のために色々と用意してくださったというのに。


『ブランシュ、どうせならボルゴーヌ王国の教育を受けてみないか?学舎に通えばそれだけ人脈が広がるというものだ。茶会や夜会では得られない経験を積むことができるぞ?きっと良い友人が沢山できるだろう。どうだ?』


 お父様がそう言って私に留学の話を持ちかけてきました。

 それはとても魅力的な提案でした。

 婚約者との交流以外にもボルゴーヌ王国を知ることは将来何かしら役に立つかもしれないと思ったからです。


 お父様に言われるまでもなく留学することには賛成しましたよ? だけど……まさか私がこの国で「悪役」「お邪魔虫」と見做されるなんて思いませんでしたわ!それもこれも全てあの二人がいけないのです!

 溜息が出そうです。


 私のメイド達もフリッド様に憤慨していますもの。


「……どうしてこうなったのかしら?」


 呟いた声に応える者はいません。

 自室にいるのは私一人なので当然のことですけど。

 まあ、愚痴の一つも言いたくなるというものです。


 こうなってしまうと婚約の意味を疑いたくなってきます。


『留学のついでだ。未来の公爵として、また、ブランシュの婿に相応しき人物かどうか見極めてくるといい』


 そう、お父様に言われましたが、もうそんなことする必要もないかもしれません。


 だって……。

 私がこの国で何と呼ばれているのか知っていながら庇う素振りすらしない男ですもの。






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