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29.ロクサーヌ国王side

「父上、婚約者を変更してください」


「……突然、どうした?」


「突然ではありません。常々考えていたことです」


「ヴァレリー公爵令嬢程の存在はこの国にいない。おかしな事を言うな」


「ですが!」


 食い下がってくる息子に仕方なく理由を聞いてみた。そうしないと何時までも執務室に居座られる可能性がある。

 それに息子がブランシュ嬢を嫌う理由を知りたかった。


 何故かは分からないが、息子は初対面の時からブランシュ嬢に好意的では無かった。



「嫌ってはいません」


「では何故、婚約者を別の者にしたいと言い出した?理由があるからではないのか?それともこの前の茶会で誰が気になる令嬢でもいたのか?」


「そ、そんな令嬢はいません」


「なら何だ?理由を話さない事には解決はしないぞ」


「……苦手なんです」


「苦手?ブランシュ嬢をか?」


「はい」


 ふむ。

 どうやら息子はブランシュ嬢を嫌ってはいないが苦手意識があるという事か。ならばソレを解消すればすむ話ではないか。


「では聞くが、ブランシュ嬢の何が苦手なんだ」


「なに……と言われましても……」


「ないのか?」


「あ、あります!」


「ならばソレを言えばいい」


「……可愛くないんです」


「ん?ブランシュ嬢は()()()()()()()だ。百人に聞けば百人全員が『美しい』と答えるだろう」


 おかしなことを言う。

 誰が見ても将来有望な美少女だ。それに淑女教育も順調に進んでいるようで、常に微笑みを絶やさず所作も美しい。息子の視力は悪くない筈だが……。


「笑わないんです」


「微笑んでいるぞ?」


「……笑顔が胡散臭いです」


 はぁ!?

 胡散臭い!!?

 何を言っているんだ!?


「父には優雅な笑みに見えるが?お前には違って見えるのか?」


 分からない。

 これはやはり視力が低下していると考えた方が良いのかもしれない。


「……以前、市内の視察を見に行った時に……その……市井の少女たちは眩しい笑顔でした。それが彼女にはないんです」


 意味が分からん。そもそも眩しい笑顔とは何だ?光り輝く魔力の持ち主でもいるのか?それとも新しい魔道具のナニカを使用しているとでも?


「ユベール」


「はい、父上」


「お前の言う『眩しい笑顔』とは何なのだ?光り輝いているとでもいうのか?」


「い、いえ!光ってはいません!」


「では一体何だ?」


「……その、大きく口を開けて笑うんです。笑い声も大きくて、とても可愛かったんです」


「それは幼児か?少なくとも淑女教育が始まった令嬢の行動ではない。お前はブランシュ嬢に社交界の笑い者にしたいという気か?」


「そのようなことは!」


「そう言ったも同然だ」


 息子との会話は疲れる。

 十歳だからか?


「そ、それに、ブランシュは何かと小言が多いんです!あれは王族として宜しくない、とか。それは王家の為になりません、とか」


「お前の事を考えて助言してくれているのだろう。お前付きの侍従や護衛からも報告は上がっている。出来た公爵令嬢だとな」


「え!?」


「何を驚いている。当然だろう」


「は、はい。そうですね」


 納得していない顔だ。


 もしや――


「ブランシュ嬢に小言を言われるから苦手意識を持ったのか?」


「~~~~っ」


 どうやら図星のようだ。

 はぁ~~~……。


「そもそもお前が小言を言われないように行動すれば済む話ではないか」


「……」


「ブランシュ嬢とて、好き好んで小言を言っている訳ではない。お前の為に苦言を呈してくれているのだ」


「……」


「寧ろ、嫌な事を言ってくれているブランシュ嬢に感謝するべきだぞ」


「…………とにかく気に入らないんです!!」



 ドタドタ、バタン!


 癇癪を起こして退出する息子に頭痛がする。十歳とはこんなに面倒なものだっただろうか。いや、そんなことは無い筈だ。

 一人息子だからといって甘やかした記憶はないが、規律に沿った行動をするように教育を行ってきた。それなのにこのように意味不明な事で癇癪を起されるとは……。

 国王としても父親としても悩みは尽きそうにない。




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