お母さんのカレーは甘すぎる
「お母さん!」
あたしが家に入ると、お母さんはカレーを作ってるとこだった。
「あら、おかえりなさい。どうしたの、トコちゃん?」
「学校帰りにね、ネコがいたから捕まえて、ラーメン屋さんに売ってきた」
「あら。もしかして太平楽?」
「そそ。そこ」
「いいことしたわねぇ」
お母さんは私を、褒めた。
「あのお店のネコ出汁ラーメン、美味しいから。きっとみんなに喜ばれるわ」
そしてカレーをかき混ぜた。
お母さんのカレーは甘い。甘すぎる。
もっと辛いほうが私好みなのに。
そう思いながらも、不平不満のない顔をして、今夜もあたしは食べるのだろう。
お父さんがいればよかった。
お父さんがいれば、きっと辛党だろうから、お母さんのカレーに文句を言っただろう。
「おまえのカレーは甘すぎる! もっとピシッとせんか!」
そんなことをきっと、言ってくれただろう。
だけどあたしはお父さんじゃないから、甘すぎるお母さんのカレーを、文句ひとつ言わずに食べる。
おいしくない……。
おいしくなーい!
こんなのカレーじゃねぇよ、ばしっ!
あぁ……卓袱台をひっくり返してみたい。
いちごジャムと砂糖の味を消して、隙間だらけのカレーの味を、あたしの怒声でビシッとさせたい。
だけどあたしはただの女子高生だから──
学校で鬱憤をただ晴らすだけ。
「お母さーん」
「あら、トコちゃん、おかえりなさい」
お母さんはまたカレーを作っている。
ふわふわの綿菓子を入れて、もこもこのとろみのついたカレーを、今日も作ってる。
激辛にしてやりたい。
「お母さん、今日ね。学校で友達をいじめてきたの。オドオドした子でね、あまりにも顔見てたらムカつくから、友達と5人で、その子のバッグをウンコの浮いてるトイレに投げ捨ててやったよ。いいことしたかな?」
「それはいいことしたわねぇ、トコちゃん」
お母さんはニコニコ笑うと、あたしに小皿を差し出してきた。
「ちょっとカレーの味見してくれる? 今日のはなんか辛い気がして……」
バァカ……。
どーせ、いつもの激甘だろ……。
そう思いながら、小皿のカレーを飲み干したあたしの目玉が飛び出した。
いたい……
いたぁい!
「あらら。やっぱり辛かった?」
お母さんはあくまで温和な笑顔で、あたしの首の後ろに針を刺すと、あたしの皮をあっという間に剥いた。
「辛くなっちゃったカレーは、甘さを戻さないとねぇ」
そしてあたしの肉をお鍋にぶち込むと、にこやかに言った。
「カレーはやっぱり、カレーのお姫さまぐらい、あまぁ〜くなくっちゃ、ね?」