第1章7話 海賊疑惑の女艦長、上機嫌の殲滅機
「きひひ、ポヨポヨだの。良い手触りじゃ」
「どさくさ紛れにあちこち揉むなあっ!?」
「ん? 今日は照れ屋さんじゃのう。昨日は気持ちいいと悦んでぶみゃっ?」
「バカバカっ! みんなが聞いてるーっ!」
隙あらば文字通り、あの手この手で、シオンを幸せにするギルである。
「ぷはっ、お主の破格の魔杖の出番はもうすぐじゃ。準備しておかんとの」
「分かってるけどぉ……お城の魔法障壁は、どうなの?」
見た目は派手な被害なし、何とか初弾は防ぎきった、が。
「ダメじゃ。城壁の魔法陣が過負荷で割れかけとる。異世界の大砲はとんでもない威力じゃな」
「そんな! でも作戦じゃ、あたし達が防ぐのは大砲じゃないでしょ? どーすんの!」
段取りが狂ったと気づいて、狼狽するシオン。
「安心しな。大砲はウチらが何とかするさね。やるこたぁ変わんないよ! 対艦兵装、斉射用意!」
モロトの号令に応え、アキラメル艦首の下甲板が観音開きに開放され、紫電を散らす砲口が姿を現した。
「艦首五百センチ電離気体砲、五十ミリ電磁投射砲、共に最大出力です」
両舷に埋設されたミサイル発射管も装甲がスライドして開口する。
「対艦ミサイル『キハーダ』装填完了。使用兵装の照準を目標に固定。いつでもどうぞ」
木々より高く浮上したアキラメルに気づいて、次弾装填中のアースドラゴンが低く唸り声を上げた。
「こっちを見たね。でも遅い。撃てぇっ!」
ジュンコの鋭い声と共に、露出した主砲から、青く煌めくプラズマが放たれた!
同時に四角い砲身の電磁副砲が、紫電を散らして四連射。
四本の発射管から、ミサイルが噴炎の尾を引いて飛翔する。
発射の反動が船体を揺らし、ジュンコの白く豊かな胸を、たゆんと波打たせた。
――ズビュウウンンッッ!!
――ドンドンドンドンッ!
――ドシュドシュドシュドシュッ!
「主砲、副砲、着弾します」
――ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!
「グガァアアアアアアアッ!」
電磁投射砲の砲弾四発は、直撃せず至近弾となり、地竜の周囲に盛大な爆煙を巻き上げた。
だが灼熱のプラズマは地竜の肩口に命中し、眩い閃光を放ち緑麟を灼き焦がす。
ーーギュボボボッ!
超高熱の光芒に半身を灼かれた怪物が、憤怒の咆哮を轟かせた。
「ゴアァアアアアッ!」
瞬間、ドラゴン目掛けて飛翔するミサイルの弾頭部に、小さな火花が煌めいて。
途端にあらぬ方向へ進路を乱し、空中や地面で爆発する。
「電子妨害? 何とかサーカス? アニメで見た!」
はしゃぐシオンにしがみついたまま、何が起きたか看破するギル姫。
「小癪なトカゲめぇ。迂闊じゃった。矢止めの魔法なんぞ使いおって!」
「ふにゃああああっ!? 八つ当たりで揉みまくるなぁっ!」
「ますますドラゴンの風上にも置けぬ。余裕ぶって当たって泣き叫ぶのが、お約束じゃろうが!」
「ふひぃ。それだと『やったか無傷』のお約束だと思うぅ」
オイタするギル姫の両手を引っ剥がしたシオンに、今の攻撃を評価中だったXCPがふむふむと頷いた。
「今のは魔法でしたか。機械の故障か、新手の妨害かと思いました」
「防がれるとしても、撃ってりゃヤツの手を止めれるんだ。ミサイル再装填、急ぎな! 主砲と副砲は?」
「主砲は砲身冷却とプラズマ充填に三百秒ほど掛かります。副砲は照準修正完了。電力を回せば撃てます」
「なら、とっとと撃つんだよ副砲!」
威力は劣るが小口径で単装、地竜の連装砲より早く、アキラメルのレールガンが発砲準備を終えた。
「狙いは背部の砲塔部。今度は当てますよ」
――ドンドンドンドンッ!
――ドゴッォ! バギャッ! ゴガァアアンッ!
XCPの宣言通り、四発中三発が地竜の背負う砲塔に命中した。
もう一発は顔面近くで爆発し、鰭が生えた横っ面を張り倒す。
「グギャオオオオオッ!」
さすが巡洋艦の砲塔の装甲は分厚く貫通できなかったが、二段四基の砲身に不具合が出たようだ。
ギギギと軋んだ様子で砲身を上下させ、アキラメルに照準を合わせようとするが。
上手く仰角が取れず、照準レーダーと測距儀も破損し、やがて停止する。
「よぉし! 船乗りが大砲の撃ち合いで、トカゲに負けるもんかい!」
「おおー! やったねXCP!」
「うふふ♪ 殲滅です♪」
メガネをキラリと輝かせ、上機嫌で応えたのは、誉められたからか。
あるいは殲滅機の破壊衝動を、見事に発散させたせいか。
「このまま身ぐるみ剥いじまえ。一気にヤッちまいな!」
まるで海賊じみた物言いだが、それもそのはず。
ジュンコ・モロトは戦時徴兵された商船の船長、そう言い張っているが。
「真っ当な船乗りねえ?」
「やはり海賊なのでは?」
「私掠免状、欲しがっとるしな」
――ジリリリリン♪
「おっと? 艦長、食堂からお電話です」
艦内通話も管制してるシープが、不意の着信を告げる。
するとジュンコの燃え上がる威勢が、たちまち消火された。
「うっく。ルウかい? イヤな予感がするねえ?」
初めまして。あるいはお久しぶりです。
井村満月と申します。
第1章7話をお読み頂き、ありがとうございます。
いよいよ始まりました、駆逐艦と大砲地竜の砲撃戦。
まずは城を撃たせて、そのお返しが地竜の砲塔を沈黙させました。
幸先良いスタートに、思わず胸がポヨポヨ弾まされるシオンちゃん。
とは言えドラゴンも、城の防御障壁は破壊寸前、アキラメルが放ったミサイルも無効化してます。
まだまだ侮れない訳ですが、どうやらギル姫は、それも織り込み済みのようで。
一方、見事に戦果を上げたシープは、自身を殲滅機と自称してますが、実際、人類の敵です。
地球を捨て火星に植民した新支配者が、革命を制圧するために放ったのが。
殲滅機と呼ばれる、殺人破壊機械の群れなのですが、これが暴走し野生化しまして。
自律生産、自律設計、自律活動の三機能で第四の勢力となり、人類を襲うようになりました。
ですが元のプログラムに従って、人間に従ったり、助けたりする個体の一つがシープです。
ガリア界がダメになった理由の大半は、超富裕層が結託したニュールーラーのせいだったりします。
ただ何事も金に物を言わせて解決しようとしたため、詰めが甘く裏切り続出で、計画倒れしたんです。
その結果、地球や月周辺はめちゃくちゃにしたあげく、火星で革命されたという。
こんな背景もある本作ですが、皆様にどうか楽しんで頂けましたら幸いです。
それでは次のお話で、またお会いしましょう!