第1章6話 砲撃戦! 駆逐艦vsアースドラゴン!
「殲滅機の本領をお見せします。第五の力が私に干渉しなければですが」
メガネのレンズをキラリと輝かせ、淡々とガイノイドらしく応えるXCP。
彼女もLOTOの白と濃紺の士官服を着用しているが、人外の可動範囲と俊敏さを持つ球体関節ゆえに。
上着は肩が露出したノースリーブに、スカートも大胆な切れ目を入れ、丈が短いミニスカに改造している。
そんなXCPが、八面六臂で操るアキラメルとは。
上甲板に単装砲塔の、電磁投射砲を一門装備し。
下甲板に主砲である電離気体砲一門を内蔵する、メル級航宙駆逐艦だ。
本来は宇宙船だが、大きな二つの《バルーン》気嚢で吊って、飛行船に改造していた。
左右の甲板には連装機関砲が一基ずつ、船体から横向きに張り出して設置されている。
仰角八十五度、俯角五度で、旋回角は三百六十度。
縦方向に旋回し、艦の前後と上下左右を広くカバーする弾幕を張る武装だ。
ミサイル発射管も、前方に向けて両舷に二本ずつ計四本、船尾にも一本を埋設されて。
後部格納庫に装甲機兵を三機搭載でき、機雷敷設軌条も搭載し、汎用性を重視した多用途駆逐艦である。
アキラメルの細身で紺碧色の船体が、ゆっくり浮かび上がるのをモニターで確認して。
「そういや飛行機って、見ないよね?」
魔法界に来て、ずっと浮かんでいた疑問を、口にするシオン。
ルビィとジュンコは、あーと眉を潜めた。
「あんな前世紀の高級品、今じゃ中々お目にかかれねえな」
「大気の状態が酷いからねえ。安定してりゃ、装甲機兵なんか目じゃないけど」
現代日本と違い、機甲界の地球や火星は環境破壊が著しく、大気が不安定で資源不足。
墜落のリスクが遥かに高く、製造運用コストに見合わないため、決戦兵器として温存されているのだ。
「魔法界では燃料も手に入らず、飛行生物の縄張りも多くて、よく襲われます」
「あと風の精霊が嫌がって、落とそうとするじゃよ。礼儀も謝礼もなく、無理やり揚力とやらを作らされるのが、ムカつくそうじゃ」
「世界が飛行機に厳しすぎる!」
思った以上に過酷な異世界の空を知って、シオンは愕然とした。
「ま、誰かが、上手い事するじゃろ。魔法使いはよく飛んどるし。船も浮かんどるし」
高度を上げていくアキラメルを眺めて、しみじみと呟くギル姫。
彼女が生まれた頃は装甲機兵など現れず、剣と魔法の穏やかな世界だったのだ。
「四方山話も、お開きにしようさね。そろそろ本命を何とかする時間だ」
「あたしの出番だよね!」
シオンは両頬をパンと叩き、気合いを入れ直した。
「くくく、もう後には引けぬぞシオ。儂と主は一蓮托生じゃ。胸が高鳴るのぉ!」
可憐なエルフのイメージをかなぐり捨て、不敵な笑みを浮かべるギル姫だが。
モニターに映し出された標的を見たシオンが、思わず指差しツッコミ。
「むむむ無理無理無理っ! アレ無敵で戦艦で大なヤツぅ! なんで砲塔ゲッターなドラゴンなのぉっ!?」
遠くから地響きを立てて進撃するのは、連装砲塔を二段背負い、四足で歩む緑麟の地竜だ。
アキラメルの全長が約百五十メートル、地竜はその半分ほどの体長だが。
それだけに連装砲二基四門の、威圧感が凄まじい。
XCPとモロトも呆れた声で、率直な感想を述べた。
「敵を映像で捕捉。なかなか変わった装甲機獣ですね」
「地球帝国巡航艦の砲を転用したのかねえ。ウチの副砲よりデカいわ」
再利用品らしい砲塔を背中に背負うドラゴンの姿は異様で、怪獣めいた迫力がある。
シオンは竜の亜種と言われる地竜が、聖王国の城を目指して侵攻中としか聞いてない。
「ドラゴンをサイボーグ化する技術は、魔王軍にも地球帝国にも、まだないでしょう」
「あってたまるか、そんなもん。ドラゴン大好き社長のカードゲームじゃあるまいし」
「なので体内に弾薬庫はなく、いわゆる砲塔式で弾数は少ないと推測します」
メガネをチカチカ光らせたlXCPの分析を聞いて、シオンは胸を撫で下ろしたが、まだ続きがあった。
「それでも火力は、アキラメルより上です」
「え~?」
「当艦のプラズマ砲に匹敵する威力の大口径砲が四門、地竜の火炎放射も同様でしょう」
「めっちゃ強いじゃん!」
冷静なXCPの分析に、絶望感が漂うブルスの操縦席。
ドラゴンというだけで、最悪の敵なのに。
大砲背負って火力マシマシである。
悪罵を並べるギル姫のこめかみには、怒りマークが浮いていて。
「機械を背負ってノコノコと、竜の誇りはどこへ捨ておった。それに帝国とやらも、何で魔王軍に加勢するんじゃあ!」
うがががが、と牙を剥く激おこ顔が可愛くて、ついついほっぺをツンツンするシオン。
「超転移現象で、この世界にいきなり転移したからねえ。まずは食い扶持を稼がないと、飢え死にさね」
同じ立場だから理解できると、爆乳を抱える腕組みで、うんうん頷くジュンコ。
「ウチだって、姫さんに雇われてるんだ。連中は魔王軍。戦争が飯の種なのさ」
機甲界から転移した三勢力の軍隊は、魔法界の各地に散らばっており、大半が原隊に復帰出来ていない。
GAは専用の充電設備が必要で、艦艇には推進材や飛行を補助する手段がいる。
科学技術が中世レベルの魔法界では、自力で補給も修理もままならず。
味方と合流するにも、先ずは生存戦略。
手持ちの科学知識や武力を、近隣の有力者に提供し、物資を手に入れるのが先決だ。
「だからって設定盛り過ぎぃっ! あんなでっかいドラゴンなんてえええええええ」
「いやぁ驚いたねえ。想像以上にぶっ飛んだ敵じゃないか」
全高十メートルほどの装甲機兵と比べると、地竜は象どころか鯨並みにデカい。
「背中の砲は五十口径二十センチの、火薬式実体弾と推測しました」
背部の構造物の映像を解析したXCPが、砲身を拡大表示して解説する。
「火薬ならば魔法界でも手に入ります。魔法と錬金術を駆使すれば、高性能火薬の複製は当然の事、開発も夢ではありません」
肘掛けに頬杖をついて、ジュンコはあからさまにふて腐れる。
「電磁防壁は、光学兵器より実体弾の方が貫通しやすいんだ。厄介だよ、ありゃあ」
歩みを止めたアースドラゴンの背中で、巨砲が砲身を傾け、方位と仰角を修正した。
「ドラゴンが、砲を操作してるの?」
シオンが怪訝そうに尋ねると、XCPは小首を傾げる。
「怪物に砲の操作を、教え込むのは難しいでしょう。撃てとかの合図を、砲塔の半自律型AIに出しているのでは?」
人が砲塔に乗り込んでる可能性もあるが、ドラゴンの背中に命を預けるか?
シオンはぞっとしない顔で、首を横に振った。
「ムリムリ。あたしなら絶対勘弁」
「さて、撃ってくるさね。お手並み拝見さ」
「レーダー波は感知してません。測距儀の光学照準で、城を狙っていると思われます」
地中の黒瑪瑙に蓄積された魔力溜まり、金属質を含む雷月樺の葉が、電波や視界を阻害する為、狙いを付けるのは難しい。
「こっちも条件は同じ。勉強させて貰うよ」
目が眩むほどの閃光と紅蓮の放火が、周囲を真昼のごとく照らし出す。
一拍遅れて響き渡った轟音。
――ドドォンッ! ドドォンッ!
二段の巨大な二連砲塔から放たれた、四発の実体弾が。
ブルスやアキラメルの上を飛び越え、レブナ城に撃ち込まれる。
「城を撃った! 大丈夫なの!?」
――ヒュルルルルルル……。
――ドゴォオオオンッ!!
堅牢な作りの城の城壁、その前面に張られた不可視の魔法障壁が瞬く。
炸裂する爆炎に結界が激しく明滅し、浮上中の駆逐艦を、そして点在する大瑪瑙を茜色に照らし出した。
――ゴゴゴゴ……。
地震のような振動が、城郭や周囲の木々を揺らし、枝葉を震わせる。
深い堀に河の波頭が砕け、波飛沫が小舟を岸に打ち上げるほどの、凄まじい着弾爆発。
「おおおおおおっ、激しいんじゃ」
衝撃に激しく揺さぶられたコクピットの中で、ギル姫は再びシオンに抱きついた。
初めまして。あるいはお久しぶりです。
井村満月と申します。
第1章6話をお読み頂き、ありがとうございます。
いよいよアキラメルが本格参戦、ギガモンスと砲撃戦です。
その前にシオンちゃんが、飛行機ってどうなの? と質問してますが。
ロマン魔法界では、さらに難しい問題が二つあると説明されましたね。
一つは魔力やマナが、電波に干渉すること。正確には魔力やマナにより、雷気が発生しやすい事です。
この戦場に点在する雷月樺などの木々や鉱物、動物も雷気を発しますし。
魔力だまりが雷気を帯びるのも良くあることで、レーダーが攪乱されちゃうんですね。
そして魔法世界なので、飛行機は精霊のイタズラで落とされるという。
風の精霊は、突然やってきた火気や雷気にびっくりしますし、機械仕掛けに興味津々いじっちゃうし。
揚力作れって無理強いされたら、そりゃあ落とされますわね。うーん、物理法則だけじゃ飛べない世界。
んで、いよいよギガモンスの正体が明らかに。地竜アースドラゴンでした!
羽のない巨大なトカゲみたいな外見ですが、ちゃんとドラゴンです。
それだけでも大概なのに、背中に巡航艦クラスの砲塔を二つ背負ってまして。
これで砲撃しようとしてるんですね。そりゃギル姫も激おこぷんぷんですよね!
さあ、この難敵をどうするのか。
皆様にどうか楽しんで頂けましたら幸いです。
それでは次のお話で、またお会いしましょう!