第1章3話 女たちの戦場は姦しい!
ルビィは着地の隙も見せず、GAの突撃銃を構え直した。
短距離走者の如き軽快な足取りで、夜明け前の深い夜空の色の機体を疾駆させる。
「予想より敵さんが少ねぇな。ここらでもうちょい、喰えると思ったんだが」
機体の左胸と左肩には、国章と個人章が色鮮やかに描かれていた。
胸の国章は月軌道条約機構所属を示す、『|三日月と六つの丸を繋ぐ絆の楕円《ムーン&ヘキサポリス》』。
左肩の個人章は『道照らす星』、ルビィが撃墜王である証だ。
「ま、ザコは任せな新米。俺は右に回る。左はガイラだ」
「うん、お願い」
フットペダルを踏み、走る機体を御しながら、ルビィは鼻をこすって独りごちた。
「乗り心地もベスタの方が良いってのに、物好きだぜ、新米は」
両手両足での汎用性と作業性、走破性に優れるのが、装甲機兵の特徴だ。
操縦席の振動が激しいのが欠点だが、魔法界では人と人型の親和性が、物理法則を上回る。
装甲機兵の手足を自分の物のように感じ、通常兵器よりも振動や慣性が緩和されるのだ。
「ガイラの奴ぁ、ドコで油売ってやがるんだXCP?」
作戦進行を補佐する戦術分析官に、もう一人の仲間の居場所を尋ねるルビィ。
「彼女は貴女より前で、大はしゃぎです」
画面越しに応えたのは、石膏めいた美貌と球体関節、水色の透明な放熱髪を持つ女性。
いや、赤縁のオシャレな眼鏡を掛けた、女性型ロボットのXCPだ。
彼女はルビィやシオンたちの後方、レブナ城の側で待機中の母艦から、通信している。
「のんきな油売りは貴女ですよ、キザ野郎」
操縦席の真上、逆さまに突き出した直径三十センチの円筒型情報端末から聞こえる、XCPの減らず口に。
「うるせぇドラム缶!」
ルビィはヘビー級ボクサーもノックアウトできそうな、太く逞しい腕で殴りつけた。
「痛いじゃないですか。壊れたら弁償ですよ」
遠隔操作の子機は、両目をチカチカ点灯させて、不当な暴力に抗議する。
困った人間だと無表情に呆れ、眼鏡のブリッジを押さえるXCP。
艦橋と操縦席の各モニターへ、周辺の地形図を映し出した。
ブルス、ベスタ改の少し先に、十数の光点が明滅する。
その内の一つが、ガイラと呼ばれた赤毛ツインテールをなびかせる女戦士。
「誰がはしゃいでると! 先陣血路の道行きに、血湧き肉踊るのは確かだが!」
彼女は元魔王軍幹部で、シオンの奴隷だ。
解放を謝絶し、シオンに身命を捧げ嫁入りすると誓い、首輪をはめたままのトロル。
ガイラはシオンとルビィより前を、獲物を追う獣のように駆けていく。
岩喰鬼族の、強靭な筋骨が生き生きと躍動する緑肌。
肩当てを跳ね上げる、細くも力強い上腕筋。
小ぶりな胸当ての下でうねる、逞しい縦腹筋。
兜の下は炎狼を彷彿とさせる、赤髪の誇り高い美貌。
しなやかな筋肉が、引き絞られたバネのような、細身の武人なのだが。
意外にも背はシオンより低く、彼女よりも小柄でスマートだ。
ここまでの奮戦ぶりを示すように、全身鎧が破損し脱げ落ちて。
再生中の生傷が浮いた下着鎧姿姿で、戦場を駆け抜けていた。
「ええい! 人間の鎧は脆すぎる!」
細腕で振るうのは、二メートルをゆうに超える、片刃の斬機戦斧。
岩も噛み砕くと評判の、キザ歯を剥いて。
狙う獲物は、彼女の接近に気づいて機関銃を構え直すGA。
体格差は、凡そ五倍以上。
巨銃の連射で、周囲の地面が爆裂する。
だが敏捷な奴隷戦鬼は、臆すどころか溌剌とした笑顔を浮かべた。
「ははっ! 狙いが雑だな!」
左右に銃弾を回避しながら、怯む敵機の懐へ突っ込む。
「でぇりゃああああああーっ!」
裂帛の気勢と魔力が乗せられ、瞬光する大斧の刃。
装甲機兵《GA》の右太股の付け根、股間との接合関節部を下から斬りつける。
――バキィィンッ!!
関節部は人型兵器の弱点だ。
それでも合金製、生身では文字通り歯が立たぬはずの駆動装置を。
「ぬぅんっ!」
ガイラの人外の膂力に業物の冴え、込めた魔力で叩き割り、油と破片を撒き散らす。
――ドォン。
右足を失い転倒した、ガドの胸部に素早く駆け上がる女戦士。
「おい、GAの操縦者!」
ぶんと真上に、戦斧を振りかざすや。
ガドの頭部スリットアイの装甲が、シュッと下にスライドした。
複合センサー横に突き出す銃口。
――ヴォンッ!
「うぉっ!?」
数万本の短針のシャワーが、電磁誘導による超音速で放射された。
至近距離ならGAの装甲もぼろくずに変える、短針銃の含み針めいた不意打ちだ。
「はっ! 小賢しい!」
しかしガイラはフンと鼻で笑って余裕でかわし、返す刃を顔面に叩き込む。
――バキャンッ!
「敵を屠るはトロルの誉れ。だが我が主は慈悲深いのだ。命惜しくば機を捨て、いずこなりと逃散するがいい!」
最愛の嫁を誇り、胸を張るガイラ。
幾つもの宝石をあしらい、魔法を付与された際どい胸甲の貧乳が、つんっと跳ねる。
ガクンと頭を垂れたGAが、上体をよじり背中の搭乗扉を開いた。
「本当に生身だ。生身でGAを倒すなんて」
ガイラは転がり落ちて尻餅をつき、呆然と見上げる若い革命兵を一瞥し、快活に笑う。
「五体無事だな。よし、上出来だ」
シオンのために斧を振るい、流血を避け目的を果たすのが、今のガイラの生きがいだ。
シオンの愛が、充分に彼女を報いる。
昨夜の熱い抱擁を思い出し、充実の奴隷ライフと魔力供給に、首輪を撫でるガイラ。
ふと、まだ敵兵が逃げ出さず、見上げているのに気づき、慌てて威儀を正すと。
「私に見惚れたか? ならば想像し鍛錬し創造せよ!」
バンと惜しげなく、鍛え抜いたビキニ鎧姿を誇示する、赤きツインテールの女戦士。
「この魔法界で、鍛錬は裏切らぬ。励めばそなたも美体騎士団だ!」
「えっ? あっ、はいぃ?」
「はっはっは! 縁があれば、また会おう!」
この敵兵に戦意無しと、ガイラは擱坐した機体の装甲を蹴り、新たな敵機に向かった。
初めまして。あるいはお久しぶりです。
井村満月と申します。
第1章3話をお読み頂き、ありがとうございます。
今回の登場は女性型機械のシープと、トロル族のガイラさんです。
シープちゃんは細身のドールみたいな、球体関節がドキッとするお人形さんで。
ちょっと皮肉屋さんで、色々兼業してるツッコミ役だけど、どこか天然だったりします。
シオンちゃんをマスターと呼ぶ理由は、後のお楽しみです。むふふ。
で、ガイラさんは岩喰鬼と呼ばれる、鬼族トロルの女戦士。
でも意外と小柄で、お胸も控えめ細マッチョの縦腹筋さんです。ムキムキ枠そのにー。
元魔王軍で、今はシオンの奴隷になってます。本人が飼われたいと言ってて、聞かないとか。
ビキニアーマーで戦場を駆け回るろしゅ、もとい逞しいお嬢さんです。
実際、族長の娘さんで、育ちは良いんですよ。脳筋だけど。ビルドナイツってナニ?
こんな感じで、すでにシオンちゃんのハーレムに四人も居るんですががが。
皆様にどうか楽しんで頂けましたら幸いです。
それでは次のお話で、またお会いしましょう!