第1章2話 タフな爆乳撃墜王はシオンを新米と呼びたい。
と、二人のイチャイチャに割り込んで、夜闇の向こうから放たれる、数条の火線。
「もうこんな近くに敵!? 避けるよ、ギル!」
刹那、照らし出されてまた消える人影に、シオンは驚きの声を上げる。
「ガドが二機に、コリファ!? なんで魔王軍に火星革命軍と地球帝国の装甲機兵が居んの!」
横線状の隙間にカメラとセンサーを覗かせた、スリットアイの不気味な小兵が二機。
重厚な戦車を鎧武者に仕立てた、厳ついデザインの火星革命軍GAが「ガド」だ。
もう一機は地球帝国のGA「コリファ」。
西洋甲冑を着込んだ戦闘機を思わせる、簡素なゴーグル型カメラが特徴で。
転移前の世界では月軌道条約機構と火星革命軍と地球帝国は、三つ巴の戦争中だった。
その激戦中の革命軍と帝国軍のGAが、仲良く肩を並べて機関銃を構えて。
シオンとギルの乗るブルスを、撃破せんと銃撃してくる。
「ああもう、敵同士が呉越同舟ってぇ赤壁かっ!」
LOTO、MRV、EEMP、いずれもガリア機甲界から、次元転移して来た機動兵器の軍隊である。
ここは剣と魔法のロマン魔法界。神話が息づくファンタジーの世界だ。
「食うに困って山賊に成り果てたり、魔王軍に与したりしとるんじゃ」
「デカいロボット乗ってるクセにぃっ!」
三つの勢力の装甲機兵や宇宙艦艇は、決戦中に突然発生した謎の光に包まれ、ガリア機甲界からロマン魔法界に転移した。
ロマン魔法界には様々な種族の王国があり、西から魔王率いる魔王軍が侵略中。
魔王軍の尖兵となった機甲界の軍隊は、人々に銃口を向けて。
ファレンファウスト聖王国の、レブナ城へと攻め込んできた。
シオンは、どちらでもない。
現代日本から、異世界転移した転界人。
波隠紫音と言う名のアラサーオタクだ。
容姿もボサボサ黒髪ぽっちゃり体型な、眼鏡喪女だったのに。
若返って髪がピンクに染まり、無人操縦で魔王軍と戦っていた、ブルスのコクピットの中に出現して。
ギルの窮地を救ったのが、二人の出会い。
「あたしは、みんなを守りたいからさ」
ギルと一緒に以前訪ねた村で、快く歓待してくれた村人たちが。
魔王軍に家や田畑を焼かれて、逃げてきたと聞いて。
「ミサと木イチゴを摘んだし、マーサさんはシチューをご馳走してくれた。ブルスで村の畑を耕した時は、みんな喜んでくれたっけ」
彼らの土に汚れた笑顔を思い出し、シオンは奥歯を噛み締める。
「戦争なんてフィクションで良いのよ! ゲーマーなめんな。撃ってくるなら、撃ち返すんだからぁっ!」
喚きながらシオンは、操縦桿を操作する。
ブルスが両肩に担いでいた、無反動砲を構えさせた。
「どっちも人のマナを感じぬ。無人じゃ、シオ! やってしまえぃっ!」
「そんならあああああああああ」
雄叫びと共に右肩の一丁から、噴煙を引いて放たれるロケット弾。
しつこく銃撃していたコリファを直撃、爆発四散させる。
「あと二機!」
「そいつぁもらった」
背中に背負った背嚢の推進器から噴炎を輝かせ、青いGAがブルスの頭上を飛び越えた。
空中で右手に握る突撃銃を、ゴツい拳銃に持ち替えて。
「電磁拳銃だ。当たるとシビれるぜ」
――ドドゥンッッ!!
大口径の銃口から電光を散らして放たれた、二発の青い閃光を放つ電離気体封入弾丸。
装甲機兵の頭部に撃ち込まれ、スリットアイを深く穿つ。
もんどりうって、後ろにぶっ倒れた二機。
銃創の中で破裂した弾丸から、機体内部へ拡散するプラズマが部品を焼いた。
ガドは上半身のあちこちに火花を散らし、何度か痙攣して活動を停止する。
「よっと。隣に失礼」
ブルスの横に、青いGAがズンと着地した。
声の主、ルビィの愛機のベスタ改だ。
ブルスと比べて頭身が高く、レーシングモデルのような、シャープなデザイン。
折り畳み式の小盾を両腕に装備して、マッシブな印象の後継機である。
「悪いな新米。誰かさんのせいで、ベッドから出るのが遅れた。おっぱい揉んでいいぞ」
「ルビィ! もうっ、カッコつけて!」
毛先が赤い焦げ茶髪、大柄でタフなタレ目の女が、ニヤリとニヒルな笑みを浮かべた。
昨夜、間近で何度も見せられた笑顔だ。
(いいぜ、新米!)
野獣が獲物を貪るように、激しく魔力を求められたのを、思い出して。
(おっきくて重いんだよね、ルビィの。バスケットボールが二つだよ、あれ)
つい、隣に座るギルの平らな胸元を、チラ見してしまうシオン。
これはこれでと思いながら。
(だむんだむん弾んで大迫力。腹筋も六つに割れてバッキバキだし)
要らぬ妄想に耽りかけ、シオンは煩悩を振り払うと、話題を変える。
「新米って呼ばれるのは、慣れっこだけどね。ゲームじゃ何度も世界を救ってるし」
「ははっ! そりゃあ頼もしいな」
にっと白い歯を見せ、ルビィは笑い飛ばす。
「お前を新米と、呼んでいいのは俺だけだ。それとも撃墜王って呼んで欲しいか?」
「遠慮しとく。あたしは新米って呼ばれたいの。ルビィに」
何度も何度も繰り返し、ルビィに色んな声音で新米と呼ばれて。
もう二人の間には、特別な意味が込められている。
蚊帳の外に置かれたギルが、ジト目でルビィを睨み、トゲの生えた声で咎めた。
「お主、とっくに前に行っとるハズじゃろが」
「拗ねるなって、姫さん。アキラメルから無人のベスタを二機、ロケットランチャーも持たせて、前に引っ張ってきた」
後方に着陸中の母艦が、アキラメルという航宙駆逐艦だ。
GAの搭載数は、最大で三機。
ギル姫が雇った貴重な異世界の戦闘艦で、絶対に沈められたくない艦だ。
「XCPだけにやらせたんじゃ、AIの調整が間に合わなくてな」
ルビィは無人機を管制する女性型ロボットのXCPより、GAの戦闘指揮に慣れている。
無人機を上手く行動させるには、撃墜王の豊富な経験と閃きが不可欠だった。
「敵の足留め役だが、あわよくば本命を狙わせるぜ」
「カギュラ鉱山で、乗り手が見つからんかった二機じゃな。ならば文句は言えぬのう」
拳銃を突撃銃に持ち替えながら、ベスタ改が単眼カメラで左右を見渡す。
「リボルバー拳銃のプラズマ弾、ベスタ改はいいよね。ブルスじゃレールガンは出力不足で撃てなくてさ」
「よく言うぜ。その旧式が好きで乗ってるくせに」
薬室内にプラズマを封入した特殊弾は、暴発させないよう低反動の電磁砲で発射する。
銃把と掌の接続器を通じて、機体から十分な電力の供給が必要なのだ。
充電池だけで動く旧型のブルスと違い、後継機のベスタは、発生器も内蔵している。
「あたしは量産型が好きなの。扱いやすいし、よく壊すし」
「それでバケモン退治を買って出るたぁ、命知らずだな。俺なら勘弁だ」
「発電機と推進器の燃料で、誘爆するのも怖くない?」
「それは戦い方次第ってな。腕だよ腕」
ルビィはたわわな胸をバウンと重く弾ませ、太い腕の力こぶを見せびらかす。
「さぁて。給料分の仕事をするか!」
初めまして。あるいはお久しぶりです。
井村満月と申します。
第1章2話をお読み頂き、ありがとうございます。
さて小麦色のタフでニヒルでボインなおねーさん、撃墜王のルビィが登場です。
シオンをルーキーと呼んで可愛がってて、戦い方を教えてる先輩さん。ええ、色々と。
今回のムキムキ枠その1です。もちろん増えますよ?
でも、ベッドから出るのが遅れるなんて、ナニがあったんですかね?
あと本作の世界観が、ちらほらと出てたりします。
舞台は剣と魔法と怪物のロマン魔法界、そこにガリア機甲界と現代世界から、異世界転移してます。
人や装甲機兵が。他にも色々?
ガリア機甲界では、地球と月と火星が戦ってて、さらに厄介な勢力もあったりします。
そのあたりも、しっかり書いていきますので。
皆様にどうか楽しんで頂けましたら幸いです。
それでは次のお話で、またお会いしましょう!