第1章16話 決着ぅって、なんだコレ!?
――ズン! ズン! ズン!
続け様に前脚で踏み潰そうとする赤竜だが、間一髪でかわし続けるブルス。
口元に炎をちらつかせ、業を煮やしたドラゴンがくるりと背を向けた。
「ヤバ……尻尾で薙ぎ払われたら、もう避けられない!」
機体を起こそうとするが、酷使された全身の間接部が軋み、機体の反応が鈍い。
「シオっ!」
思わずしがみつくギルを、シオンも庇うように抱きしめて。
その頭上でドラムズが両目を明滅させ、ガイノイドの声を響かせた。
「やあ、苦戦中ですね。でも、もう大丈夫」
「「XCPっ!?」」
――ヒュルルルルル……ドガァアッ!
「ギャウウウウウッ!?」
態勢を立て直した駆逐艦のミサイル攻撃に、大きくたたらを踏むレッドドラゴン。
「私が来ましたよ、マスター」
「アキラメルだ!」「無事じゃったか!」
――ブドドドドドッッ!!
そこに左舷の連装機関砲が、追い討ちをかける。
亀裂の入った赤い竜麟が砲弾に割れ砕け、破片と鮮血が撒き散らされた。
「ガアアアアアッッ!!」
「やったーっ!」「やれやれーっ!」
二人で顔を見合わせ、歓声を上げるシオンとギル。
「ミサイルの次発装填を急ぎな! 全く、主砲も副砲も撃てないなんてさ!」
「爆風に跳ね上げられて、転覆寸前でしたからね。武装が暴発しなかっただけ幸運です」
「そりゃそうか。んんっ?」
ドラゴンをモニター越しに見つめていたジュンコは、怒りに燃える瞳と目があった。
竜がこっちを見て、口を開ける。
剣呑な牙が並んだ口蓋の奥で、赤い輝きが灯り、高熱が大気を炙った。
「撃たれるよ! 回避しなっ!」
――ヴィイイッッ!!
――ズババババッッ!!
狡猾にミサイル発射管を狙った熱線を、姿勢制御スラスターの側面噴射で、辛くも避けたアキラメル。
しかし船体を浮かせる右舷上の気嚢が寸断破裂し、ガクンと高度が下がる。
「浮力が半減しました。下方スラスター噴射を全開にしますが、間に合いません」
「なっ、なんとかふんばってぇぇぇぇ~っ」
「アキラメルが落ちる!?」
全力の下方噴射で落下速度を殺そうと足掻く駆逐艦を狙い、熱線を放とうと鎌首をもたげる赤竜。
「やらせるかぁっ!」
何とか起き上がったブルスが、腰から抜いた自動拳銃を抜き撃つ。
だがドラゴンは油断なく傷を庇い、数発を鱗で弾きながらブルスに振り向いた。
「クハアアアアアアア……ッ!」
「くのっ!」
シオンは反射的に操縦桿を引いたが、背部のロケットモーターが噴射しない。
故障だ。
さっきの痛烈な灼光の一撃は、右腕一本だけで終わらず、背嚢も損傷させていた。
「ギル、ごめん。これ、避けられないかも」
「か、覚悟の上じゃ」
もしドラゴンブレスが直撃しなくても、掠めるだけで、機体が引き裂かれるだろう。
そうなれば中の二人も、生存は絶望的だ。
「せめてギルだけは!」
それでも姫を庇って、彼女の小柄な身体を抱き寄せ、覆い被さるシオン。
「くうぅ! いっそ消し炭も残さず焼いてみい、魔王に媚びを売る火トカゲめが!」
この期に及んで、姫が叩く減らず口。
悪罵の念が届いたか、レッドドラゴンはくわと牙を剥き、大きく息を吸い込んだ。
渾身の熱線を溜め、浴びせようとした瞬間。
――ブォンンッ! ドガァッ!
旋風を巻いて飛来し、竜の右足首に叩き込まれた斬機戦斧の一撃!
「ギャオオオオオオッッ!?」
「我が主に手を出すな、赤竜っ!!」
戦斧をぶん投げたのは、水着鎧の胸甲が壊れ、生意気な美乳を慌てて隠したガイラだ。
背面スラスター全開で地面を滑走するベスタ改の肩に乗り、見事な投擲で二人の窮地を救った。
常人ならば即死、あるいは半身不随の大怪我も。
気力魔力の充実したトロルの回復力なら、数分で全快である。
ベスタ改に駆け寄り、蹴飛ばして再起動させたナイスアシスト続きで。
「このまま突っ込む。降りてろガイラ!」
「行ってこい、ルビィ!」
ルビィの決意に一つ頷き、機体から飛び降りる女戦士。
ベスタ改も満身創痍、仇敵相手に突撃銃を失い電磁拳銃も撃ち尽くしたが。
それでも彼女は臆さず、突撃する。
「ガァアアアアッ」
レッドドラゴンが前脚を着き、迫る装甲機兵を睨みつけた。
ブルスを後回しに長い首をしならせ、ベスタ改へ猛然と噛みついていく!
「そうだ、かかってきな!」
ベスタ改が腰を捻る。
左上腕の小盾が変形して手を覆い、固めた鉄拳に宿る星の輝き!
「コイツが俺のッ!」
――ゴッ!
噛み砕く牙から紙一重、かわしざまに大地を踏みしめる。
屈んで下から上へ、竜の顎を打ち抜く猛烈な一打!
「スターロードだッ!」
――ドォオオオオオオオオ……ンンンンッ!!
地響きを立て、仰向けに転倒する巨竜。
「グガッ! ガガァッ!」
苦し紛れにもがいた前脚が、強烈な打撃の反動で動けないベスタ改を吹っ飛ばす。
――ゴッ! ガッ! ゴシャアアアッ!
「ルビィっ!?」
「お、俺ぁ大丈夫だ! やっちまえ、新米!」
二、三度バウンドし仰向けに倒れたGAが、煙を吹きつつ左腕を真上に翳す。
「やるんじゃ。今しかない。シオ!」
「うわぁあああああああっ!!」
再び起きあがろうと、足掻くドラゴン。
その横っ面に、弾の尽きた拳銃を捨てたブルスが、左肩を突き出して体をぶつけた。
「ギャグウウウウウッ!」
ありったけシオンが魔力を込めたショルダータックルに、横倒しに倒れ込んだ竜の顎のやや下。
逆立つ巨大な逆鱗に目掛け、ブルスが腰の後ろから引き抜いたのは、円匙だ。
とびきり硬い鱗の下に、赤竜が絶命する急所がある。
「う……」
覚悟していた、その積もりだった。
それでもシオンが躊躇したのは、当然か?
殺すのを一瞬ためらった彼女から、おそらくそうなると気づいていたギルが、操縦桿を奪う。
「よい! お主にはさせぬ! 儂が!」
どう操作すれば、ショベルを突き出すか。聡明なエルフの姫は見覚えていて。
「民のため、手を汚すのは!」
王族の務めだと、決意と殺意を込めたギルの手を。
「だ、ダメだよっ!」
シオンは振り払った。
「ごめん。でも、これはあたしが!」
この世界で戦うと決めた以上、誰かの命を奪う時が来る。
それなら、先送りにするよりも、今だ。今、彼女がすべきこと。
「やるからぁっ!」
尽きず溢れる魔杖の魔力を操縦桿に込めて。
――ズガッ! ズズズ……ッ!
逆鱗を砕き突き破る、ショベルの一撃。
「グガォッ! ガッ、ガハッ! ガガァアアアアアアアッッ!!」
必殺の念、致命の一撃が。
急所を貫かれたレッドドラゴンの弱まるエゴを圧倒し、マナを失わせていく。
ゴボゴボと口から血泡があふれ、巨大な四肢が弱々しくもがくが、急激に失われていく炎気。
「う、ううっ、うわぁああっ!」
機体と一体化したシオンの手に、肉を裂き骨を抉る感触が蘇る。
「また? またってなに!?」
イヤな手応えに感じる既視感と、記憶の断片めいたノイズが脳裏に走って。
「シオ!?」
「やだ、違うっ! 嘘だっ! あたしっ、誰も殺してなんかっ!」
「落ち着くのじゃ、シオ!」
今度はギルが、操縦桿からシオンの手を放した。
小刻みに震える彼女の手のひらに、血はついていない。
「え? あ……な、なんなの、今の?」
全く覚えのない、命を奪う手応え。
平和に暮らし、戦争も犯罪も関わらず生きてきたシオンだ。
それなのに、魂消る悲鳴と肉を裂き骨を抉る感触、溢れる血の生ぬるさを感じて。
「幻覚じゃ。恐らく竜が感じておる死の感触が、お主に逆流したのじゃ」
「だ、だよね。あたしじゃ、ないよね!」
ぎこちなく怯えた顔で、シオンはギルに縋るような目を向ける。
幻覚、錯覚とは到底思えず、シオンは己の肩を掻き抱いた。
(今ので二度目か? 何が見えておるのじゃ、シオに)
マナで繋がるギルにも、微かに伝わってきた心象は、二度とも脈絡のない幻覚のようであったが。
小さな胸に浮かんだ懸念を、垣間見せず押し隠し、ギル姫は頷く。
「安心せい。もう終わる」
ギルはそっと身を寄せ、シオンに温もりと心音を与えながら、前を指し示す。
「ガ、グァ」
苦痛を感じぬのか、力尽きたか。
赤竜は暴れる事なく、ブルスに瞳を向けた。
「あ、あ、あ」
手向ける言葉も無く、憐れに、悲しみに胸を避ける思いで見つめるシオン。
そのまま竜の瞳孔が拡散し、痙攣していた手足、翼も尻尾も動きを止めて……。
――ドムンッ☆
爆煙が爆ぜたかと思った瞬間、レッドドラゴンの巨体が掻き消えた!?
「はぁ!?」
「にゃにっ?」
「消えたぁっ?」
「赤竜の消失を確認。おかしいですね?」
唐突な出来事に、唖然とする一同。
「竜って死んだら、爆発するの!?」
「いや爆発しても、バラバラになった死体は残る。それに大爆発だ。こんなもんじゃない」
こぼした涙も吹っ飛んで驚愕に叫ぶシオンに、こちらも困惑しつつ応えるガイラ。
「鱗は? 骨は? 角とか貴重な素材がぁ?」
「血と肉は欲しかったな。美味しいんでしょ?」
「コックは黙ってな! それどころじゃ」
「グガァ?」
「「「「「はいぃい?」」」」」」
聞き慣れぬ鳴き声に、思わずハモる一同の声。
「今の……まさか、ドラゴン生きてんのっ?」
慌ててショベルを構えなおした、ブルスのカメラが魔力で発光。
レッドドラゴンの亡骸が伏していた辺りに、何かを照らし出す。
それはシオンが両手で抱くのにちょうどいい大きさの、ずっぐりむっくり二頭身。
ぬいぐるみみたいな赤い竜がちょこんと座り、ニコニコと甘えた声で鳴いていた。
「グガァ♪」
初めまして。あるいはお久しぶりです。
井村満月と申します。
第1章16話をお読み頂き、ありがとうございます。
大ピンチに仲間が駆けつけるのは、お約束。
装甲機兵の背中に乗ってGAデサント、ビキニ部分が壊れたガイラさんが一番手柄ですかね。
それともアッパーカットで、ドラゴンをノックアウトしたルビィさんでしょうか?
まず最初にシオンとギル姫を救った、アキラメル組かも知れませんし。
シオンの心を案じ、支え続けたギル姫も負けていませんよねえ。
しっかしシオンちゃん、変な幻覚を見てますね。
一回目は世界樹? そして宇宙に浮かぶ十字架。
二回目は覚えのない、奪命殺害の記憶。
彼女に何が起こってるんでしょうか?
何が、と言えばレッドドラゴンも、ですね。
あれだけシオンちゃんを追い込んで、死んだと思ったらポカンと弾けて抱き枕、もといぬいぐるみに?
本人は全くのんきに、「グガァ?」って鳴いてますけどー。
と言うわけで、本エピソードはもう少し続きます。
皆様にどうか楽しんで頂けましたら幸いです。
それでは次のお話で、またお会いしましょう!




