第1章15話 今だ突撃! 赤竜、狩るっきゃない!
城の上空に待避していたアキラメルの艦首が衝撃で跳ね上がり、転覆の危機にみまわれた。
「なんだって言うんだい! 被害報告!」
艦長席にしがみついて、転落を免れたジュンコが焦りを露わに叫ぶ。
「ただいま状況が大変混み合っています。少々お待ち下さい」
舵輪を放さず人間離れしたガニ股で、操作卓にしがみついたメカ娘が、髪の束を煌めかせて情報収集を開始した。
「艦内設備が散乱し、乗員に怪我人が出ています。主砲も損傷。城の城壁や尖塔にも被害を確認。ルビィとガイラは……」
「オレぁ無事だ。何とかな。だが吹っ飛ばされて機体が擱座しちまった。動けねえ」
「私もだ。右足がもげて背骨も折れている。げふっ、肺も片方が破裂してるな」
常人なら即死の致命傷も、凄まじい再生力を持つトロルには、大ケガでしかない。
首を刎ねても、新しい首が生えてくるトロルの伝説は、酒場で定番の語り草だ。
「幸い敵もどこかに飛ばされたが、治癒に少し時間が……わ、我が主は!?」
「通信が回復。機体の診断を開始します……マスターも腹黒姫も、お元気で何よりです」
「元気じゃないわよおおおお」
ふらふらの手で鼻血を拭い、弱々しく答えるシオン。
ギルはグリグリとおでこを彼女の操縦服にこすりつけた後、顔を上げて座り直す。
「くひひひ……やってやった。レッドドラゴンのドラゴンブレスを防ぎきったわ!」
こちらも目をぐるぐる回していて、金髪もボサボサ、ひどい有様である。
「くひゃひゃひゃひゃっ! もー二度とやらんぞぉっ! いっひっひ」
シオンから生えた破格の魔杖を掴み、眦と口元と長耳を垂れさせ、すっかり惚けた様子のギル。
「あぅんっ! もう放してぇっ!」
そんな二人の無事を確認して、ジュンコは制帽が飛ばされた紺髪を掻き、呆れていた。
「すっかりラリってんねえ。だけど、もう一踏ん張りだよ。シオン、行けるかい?」
「きっついけど、やれる。作戦通りだよね?」
「そうじゃ。全力でブレスを吐かせねば、ドラゴンなんぞ、何をやっても傷つけられん」
魔杖から手を離す代わりに、わしっとシオンの胸を手すり代わりに掴むギル姫。
「にゃああんんっ!」
「今ならヤツもマナを消耗し、竜麟がゆるんでおるわい!」
これこそギルが命懸けで、竜を煽った真意であった。
GAがマナを宿し、操縦士のエゴで強化されるとの同様に、生物はマナとエゴでその身を堅固にする。
天災に等しいドラゴンほどの怪物ならば、そのマナとエゴも強大で、アキラメルのプラズマ砲すら弾いた。
だが、消耗した今ならば。
「行くよギル。シープも手伝ってね。しっかり捕まってて、胸じゃないとこ!」
言うや否や返事も聞かず、操縦桿をAI支援モードに戻したシオンは、ブルスに無反動砲を担がせ疾走させる。
「ギャウウウウウウウウッッ!!」
見渡すばかり開けた荒野と化し、赤竜との間に身を隠す物はない。
レッドドラゴンは威嚇なのか、翼を大きく広げ咆哮する。
だが空へ飛び立たず、地を踏みしめて突進してきた。
牙を向いて疾駆する速度は、意外に早い。
GAと赤竜の体格差は歴然、頭だけでもGAより大きい程だが。
「ふふん、怪獣映画から竜狩りゲーになったね。慣れたもんだって!」
シオンはむしろ元の世界で慣れ親しんだ光景に、心地よい緊張を感じて微笑んだ。
「さぁ、量産型の意地を見ろぉ!」
十分に引きつけて、引き金を引くシオン。
同時に連射された両手のロケット弾六発を、ドラゴンは避けもせず突っ込んできて。
――ドゴォ! バゴッ! ドォンッ!
「ギャオエエエエエエッ!?」
命中弾の爆発が鱗を割り、肉を爆ぜ散らかした。
激痛と驚愕に足が止まり、身悶えする巨体へ更に接近する装甲機兵。
「くかかかっ! マヌケめ。ウロコを過信し過ぎじゃ! うぷぇええ」
「吐くならエチケット袋の中にね! もう一丁!」
走りながらでも、ドラムズの照準補正があればこれほどの大きな的だ、外さない。
――バガンッ! ドドォンッ! バギャンッ!
「ガゥウウウウウウッッ!!」
再び爆炎を浴びた赤竜が、苦悶しつつ身を翻した。
「その動き、あたし知ってる! 尻尾の凪払いでしょっ!」
瞬間、背中のロケットモーターを点火、大きくジャンプするブルス。
その足下を、轟音を立て地面を削りながら、横殴りに振り回された竜の尾が通り過ぎた。
「これで残弾全部! 最後の一斉射ぁっ!」
湧き上がる高揚感、破格の魔杖の力強さを確かに感じて、シオンが叫ぶ。
「捨てータスッ! インヴォークッ!」
狙うは赤竜の、怒りに燃える瞳。
最も無防備な弱点へ、空中で左右の砲身を揃え、弾体を撃ち込もうとしたブルスが。
ギルから貰ったSランクスキル、『落月の射手』を発動させる!
全弾必中を確信したシオンの指が、引き金に掛かり引こうとした瞬間!
――気高き気骨!!
――鋼の忠心!!
「はえっ?」
シオンの胸中高らかに発動したのは、異なるSランクスキルが二つ!!
『バフアトラクション』が、レッドドラゴンの『矢止めの魔法』をシオンに誘引し効果を発揮するが。
即座に『状態異常無効化』で、掻き消されて。
結果、何も起こらない!!
「ええええええっ!? なんでぇーっ!?」
思わずガク引きしてしまったロケットランチャーから、六発のロケット弾が放たれる。
だが必中効果の無い砲撃は、二発が顔面に炸裂するも、目から外れて。
――ドゴォッ! バムッ!
「グルァアアアアアアッッ!!」
爆発で赤麟が剥がれ、折れた牙が飛び散っても、竜は首をねじり口を開く。
「いかん、狙っておる、熱線ブレスじゃっ!」
――キュヴィイイイイイーッッ!
――バガァアアアンッッ!
「きゃあああああああっっ!」
右肩を直撃した灼光が、無反動砲ごとブルスの右腕を吹き飛ばした。
バランスを崩した機体が落下し、竜の足下の大地に激突する。
「うぉぇえええええっ!」
腰のベルトにお腹を圧迫されたギルが、右腕を千切れた幻痛にも襲われて。
たまらず杖から手を離し、口元に当てていた袋に嘔吐した。
「うぁあああああああっ!?」
同じ幻痛が、シオンにも悲鳴を上げさせる。
機体に循環し強度を高めていたマナの明滅が弱まり、動きが鈍くなって。
「や、ヤバっ! 踏まれるぅっ!」
とっさに移動操作を操縦桿で入力、ドラムズが機体を横に転がして避けさせた。
すぐ側を、巨大な足が踏みにじって。
――ズガァアアアン!!
「ひぃっ、わわわっ! 起きれないのぉっ!?」
慌てふためき、必死で機体を操るシオンに、食ってかかるギル姫。
「シオッ! なぜ外したんじゃ!? 儂の捨てータスで必中のハズじゃろ!?」
「だってムーンフォールじゃなくて、バフアトラクションとハイパーレジストが」
「何じゃそれ、誰の捨てータスなんじゃ、しかも二つもぉっ!」
捨てータスが得られるのは、最後に魔杖を挿し、魔力を注ぎ込んだ相手から一つだ。
「えっと、昨日は最初がルビィで、次がガイラ、シープ、ジュンコさんでギル……あ、あれぇ?」
決戦前夜、あちらこちらで魔力供給を誘われたシオン。
皆が無事に戦い抜けるよう、その都度シオンは魔杖を振り絞り、全力で注ぎ込んだ。
なので深夜、自室のベッドに倒れ込んだときには疲労困憊、意識が朦朧としていて。
彼女のベッドに潜り込んでいたギルも、連日のレブナ城の魔法障壁の強化と。
シオンの特訓に付き合い、疲れ果てて。
だから二人でイチャイチャしたけど、いつの間にか寝落ちして……。
「あたし、ギルに杖を挿してない、かも?」
「にゃんじゃとぉぉぉっっ!?」
初めまして。あるいはお久しぶりです。
井村満月と申します。
第1章15話をお読み頂き、ありがとうございます。
ドラゴンブレスを防いだ、シオンとギル姫。
竜の強大なマナを消耗させ、攻撃が通じるように弱体化するのが、ギル姫の作戦でした!
マナを消耗させないと、アキラメルやブルスの攻撃が竜鱗を貫けないという。
実際、アキラメルの砲撃や、ベスタのロケットランチャーは、ほとんど貫通できてませんし。
ここから「捨てータス」を使った竜狩りゲーに!
慣れたもんだと、イケイケで押しまくるシオンちゃん。ゲーマーの面目躍如。
と思いきや「捨てータス」不発です!
シオンってば他の皆とのイチャイチャしすぎて、ギル姫の番でまさかの寝落ち!
ギル姫の必中スキルが発動せず、誰かの二つのスキルが同時に発動。
しかもその二つの相性が決定的に悪く、効果を相殺したというアクシデント。
ウィルガ・マクシムスを挿し込み魔力を注いだ相手から、捨てータスを1つ貰えるのですが。
なぜ2つ貰えたのか。それも謎ですねー。
でも、あれこれ考えてる暇もなく、片腕を吹き飛ばされて転倒、ドラゴンの連続攻撃に大ピンチ!
皆様にどうか楽しんで頂けましたら幸いです。
それでは次のお話で、またお会いしましょう!




