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第1章13話 煽り上手なマナ酔いエルフのお腹は真っ黒

「たかがエルフが、これほどの魔法を操るとは思わなんだか! にひひひっ! 炎を一吹きすれば消し飛ばせると?」

 ギル姫はやんちゃに腕を振り回し、気分良く放言する。

「図体だけの火トカゲ風情が、とんだ見込み違いよのぉ。きゃはははっ♪」

「ちょっ、ちょっとギルっ! 言いすぎっ! って聞こえてないよ、ね?」

 スピーカーは切ってるし、ドラゴンがシオンたちの無線を聞いてるハズもない、が。

 彼女のイヤな予感は、やっぱり的中した。

「ういっくぅ♪ もちろんあやつ、聞こえておるぞ♪」

「ふえっ?」

「濃密なマナが満ちておれば、敵味方の縁に念が乗り、声は届かずとも以心伝心じゃあ♪」

――ぞくり。

 強烈な怒気を感じて、シオンの肌が総毛立つ。

 垂れる冷や汗を拭い、モニターを見れば。

 全身の鱗を逆立て、激怒咆哮する地竜。

「ガァアアアアアアアアアアアッッッ!!」

「めっちゃ怒ってるぅっ!」

「うひひ。怒れる竜の全力ドラゴンブレスじゃ。防ぎ切れれば後世まで、詩人が歌い継ぐ偉業なのじゃあ♪」

「こりゃあマズいさね」

 艦長席に深く背を沈めて二人のやりとりを聞いていたジュンコが、あ~あと眉をひそませた。

「どうかしましたか?」

「姫さん悪酔いし過ぎだ。先に相手がブチ切れちったよ。XCP(シープ)、地竜に無人機(ベスタ)をけしかけられるかい?」

「私の管制範囲ギリギリで警戒中です。二機をもう少し前に出せば、自律思考(フルオート)で攻撃できますが、やりますか?」

 是非を考える暇はないと見て即断即決、ジュンコは頷いた。

「時間稼ぎさね。派手にやらせな!」

「了解です。フルオートへ移行します」

「vip!」

 XCP(シープ)の指示を受信した二機のベスタが、潜んでいた木陰から前進しつつ、小銃を無反動砲(ロケットランチャー)に持ち替えた。

 敵のGAは後退し、二機の進路を阻む者は居ない。

 左右に分かれてアースドラゴンへ接近し、射線が確保出来た一機が足を止めた。

 肩に背負って構えた、大砲の引き金を引く。

――シュバッ!

 白煙を撒いて放たれた一弾が、地竜の左肩で爆発した。

――ドゴォンッ!

「ガァアアアアアアアーッ!?」

 左前足の付け根に直撃を受けた地竜が、怒りの咆哮を上げる。

 もう一機は大胆にも地竜の正面に姿を現し、右手で無反動砲、左手で小銃を腰だめに構え撃ちまくった。

「viviiiiip!」

 顔面に二十ミリ弾を浴び、ロケット弾の爆炎に地竜の首がねじ曲げられて。

 憤怒に牙を剥くや身を屈め、猛然と地面を蹴立ててGA(ベスタ)に食らいつく!

「vupp!」

 避ける暇もなく上半身に齧りつかれ、バキンッと粉砕される装甲機兵(ギガアーム)

――ドムッ!

 口蓋内で破裂する弾薬の誘爆も気にせず、地竜は地面に落ちた下半身を前足で踏み潰した。

 もう一機に顔を向け、唸りながら睥睨し、大きく息を吸い込む。

――ヒュゴオオオオッ。

「vivivivi」

 感情のないAIが、僅かに怯んだように見えて。

――ゴゥッ、ゴォオオオオオッ!

 次の瞬間、地竜が吐いた太く長い炎の奔流が、ベスタを飲み込み一気に焼き尽くす。

――バゴォッ!

 猛烈な衝撃で吹き飛ばされ、爆発四散したGA(ベスタ)の焼け爛れた残骸が、辺りに撒き散らされた。

「やられた!? ベスタがあんな簡単に、しかもアースドラゴン無傷って!?」

「案ずるでないわ。心の宿らぬ人形ならいざ知らず、儂とシオが乗るブルスならば大丈夫じゃとも」

 思わずギルに振り向いて聞くシオンに、ふんと鼻息荒く自信満々に応えるエルフ。

「ホントに? 噛まれても? 踏まれても? 火を噴かれてもぉっ!?」

「くひひっ! ぜぇんぶ防いで見せるわ! 我が渾身の魔法障壁でなぁ!」

 ギル姫はハイテンションで大見得を切り、呵々大笑してみせた。

「グルルルルルッ!」

 アースドラゴンが再び唸り声を上げ、全身の鱗を逆立てて尻尾を大きくくねらせる。

 あからさまな威嚇に気圧されたら負けだと、モニター越しにシオンが睨み返して、ふと異変に気づいた。

「ギル、めっちゃ気になるんだけど。この世界の竜にも逆鱗ってある? 顎のちょっと下のでっかい鱗が赤く光ってるんだけど!」

「ふにゅ? あるのぉ逆鱗。じゃが心配ないのじゃ!」

 エルフの姫は、シオンのお腹に雄々しく屹立する魔杖を、ぎゅっと握って安請け合い。

「地竜ごとき恐るるに足りず。くはははっ! 悔しかったらこの魔法障壁、破ってみい! にゅはははっ♪」

「んぁああああんっ! ダメっ! ダメっ!そんなに出しちゃだめぇーっ!」

 酔いどれエルフに、眩く輝く魔杖から、勢いよく魔力を吸い出されて。

 艶やかな光沢の薄い生地が張り付いた、シオンの細い腰がガクガクと跳ねる。

「あっおっあっあっあーっ! も、もうやだこの酔っ払いぃっ! こ、これで魔法陣完成ぇっ!」

――ヴォオオオオオオオ……ッ!

 見事、覚えたとおりに描いた積層魔法陣が発動し、巨大な防御紋様が回転する。

「きひひひひっ! さぁ掛かってこぉい!」

 ドラゴンの巨体に匹敵する大きさ、分厚く虹色の魔力が濃縮された障壁が、ブルスの眼前に出現した。

 同時に地竜も鎌首をもたげるや、怒りを炎に変えて渾身の爆炎を吹き放つ!

――ゴォオオオオオオオッッ!!

――ドゥウウウウンンッッ!!

 まっすぐ放たれる灼熱の炎の奔流は、城の魔法障壁を揺るがせた艦砲射撃以上の激震をもたらす。

 鳥も獣も逃げ出した森を一直線に焼き、大地を抉って灰燼と化して。

 装甲機兵を一瞬で融解粉砕した炎の息吹は、しかし七色に煌めく障壁に防がれた。

 破格の魔杖(ウィルガ・マクシムス)を操るギルキュリアの防御障壁は、小揺るぎもしない!

「んはぁああああんんっ! 熱いっ、熱いよぉっ! ドラゴンブレスが熱くてぇ、なんか来ちゃうぅ!」

「にゃははっ! 効かぬ効かぬぞ、どうしたアースドラゴン。それでも始原の神竜に連なる一族の末裔か! 根性見せてみぃ♪」

「ほ、ホントにギル、性格悪いっ! でもさ、なんかドンドン熱くなってる……って、逆鱗がっ!?」

「んぉっ? 逆鱗の赤い輝きが広がっておるの。いや、あれはまさか、そんな馬鹿なっ!?」

――キュボッ! ボッボッボッ!

 ギルの驚愕に応えるように、口から放つ炎の息吹が赤光の熱線に収束した。

初めまして。あるいはお久しぶりです。

井村満月と申します。

第1章13話をお読み頂き、ありがとうございます。

めっちゃ悪酔いしちゃった腹黒姫、アースドラゴンを煽りに煽って上機嫌。

通信機が繋がってなくても、戦場の濃厚なマナと因縁を介して、敵味方の意志が伝わっちゃって。

会話が成り立つ現象が、ロマン魔法界では発生するんですね。

お陰でアースドラゴン、大激怒です。生まれてこの方、こんなにバカにされたの初めて。

流石にヤバいと、無人で攻撃した二機のベスタですが、あっさりやられちゃいました。

ギル姫の言うとおり、無人だと単純に物理法則のみの強度と性能になるので。

マナで物理法則を超えてる怪物相手には、ヤワすぎるんですよね。

あと完全無人の自律操縦を、シープやジュンコさんが渋ったのも訳があります。

自律操縦させると、AIが魔法使いや精霊使いに操られたり、亡霊に乗っ取られたり、あぶなっかしい。

どんなに強固なファイアウォールを施しても、電子を魔法で操られたらプログラム書き換えは簡単。

精霊使いなんて、雷精に「おねがい♪」するだけで、もうトモダチです。

ミサイルなどの誘導兵器や非人型兵器は、概ね魔法耐性が低いので、迂闊に手元から離せない訳です。

多数の乗員が乗ってる艦船や、指揮系統にちゃんと組み込まれてる機体は。

指揮艦や搭乗者の、抵抗力の恩恵を受けるのでマシになると。

シープも高度なAIで自我を獲得してますが、人間に比べれば魂が弱々です。

ジュンコの指揮下で、シオンをマスターと慕うことで、二人の抵抗力に護られてます。愛ですねー。

さあイケイケドンドンのギル姫ですが、シオンはドラゴンの逆鱗が気になってて?

防いだはずのドラゴンブレスに、異変が生じてますが、果たして?

皆様にどうか楽しんで頂けましたら幸いです。

それでは次のお話で、またお会いしましょう!

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