第1章12話 あたしのお腹の立派な魔杖!
「前線の状況は以上の通りです。ルビィとガイラがザコの相手を出来なくなったので、敵のGAがこっちにやってきます」
「いや、来ないねえ」
「来ませんか?」
「前に出たら巻き込まれるさね、ドラゴンブレスに。聞けば大型戦艦の、攻城砲並みの威力じゃないか。その射線上に、ノコノコうろつくバカはいないさね」
前面モニターに映る地竜を見やり、他人事のように笑う艦長。
「たいして利いちゃいないのに、ウロコを逆立ててやる気満々じゃないか、奴さん。電磁障壁を球面展開。さてどれほど効果があるか」
「確度の低い情報ですが、戦艦のバリヤーでも飛竜のブレスを防げず、撃沈された報告がありますね。それでも城の盾になります?」
「ヤツが怒りにまかせてアキラメルを撃つなら、城から離れて囮になった方がいいだろうね。ブレス一回分、チャンスを稼げるさ」
「城を撃たれるなら、本艦は居ても居なくても変わりませんか。では上空で備えましょう。無人のベスタ二機も前進させます。これでマスターと腹黒姫次第になりましたね」
地竜を正面に見据えるモニターに、別窓で眼下のブルスを映し出す。
XCPの電子アイには見えないが、二丁のバズーカを背中のラックに掛け直した旧式装甲機兵の全身に、マナの輝きが灯り始めていた。
「ひゃっひゃっひゃっ! さぁシオ。お主の力を振るわせて貰うぞ。その身より出でて儂に力を貸せ、破格の魔杖ぅ!」
「あ、やだっ! お腹を撫でちゃっ、ンンンぅっ! ナカが熱いぃっ! ズクンッ! ズクンッって脈打って……んぁあっ! あーっ!」
妖精の姫が置いた小さな手の導きに応じ、強烈な魔力をまとう破格の魔杖が、シオンの体内から姿を現し、屹立していく。
「あっ、ダメっ! ギルっ、強く握っちゃ……はぅんんっ! ひっひっ、引っ張り出されるぅ~っ!」
「くふふふ、悩ましい声を上げるのぉ。良いぞ、もっともっと儂の手のナカで高ぶるのじゃ。お主のエゴを儂に全て委ね、絶大なるマナを差し出すが良い!」
自らもシオンから溢れるマナとエゴにどっぷりと酔いしれながら、その魔力を惜しみなく機体に流し込んでいく。
「んぁあああっ! 出ちゃうっ! 出ちゃうよぉっ! ギルにっ、ギルの手にぃっ、いっぱいでるぅっ!」
汗を散らし反り返るシオンの体から、雄々しく顕現する荘厳美麗な魔法の杖。
螺鈿の如く虹色に輝く複雑な紋様が明滅する太い柄を、ギルの細く繊細な手指が握りしめる。
「おお、おお、儂の感覚が機兵と重なり、満たされていく。なるほど、これゆえか!」
はぁはぁと息を荒げ、操縦席に顔を伏せて嗚咽を噛み殺すシオン。
細い腰を横から抱きしめ、ギルは自身にも湧き上がる愉悦に憚る事なく酔いしれた。
「なんという高揚感! 比類無き全能感! 魔杖の魔力が、儂のエゴが、GAを満たし拡大しておるわ!」
装甲機兵と呼ばれた人型の器が、マナに酔うギルの膨大なエゴで満たされ、隅々まで一体化していく。
「くひゅふふふっ、人の超越ぞ! まさしく神に! 神のごとき力が我が手にぃ!」
見下ろせばそこにあるのは、まさしく巨人の腕。
「くははははっ! たまらぬのぉ! 絶好調じゃ! さぁシオ。教えたとおり、魔法陣を描けいっ!」
「ひぎぃっ! らめぇっ! こんな、こんなのぉっ、んんん~っ!」
己の心魂より突き出し屹立する杖を握られて、シオンは言われるまま、操縦桿を握り直す。
――ジャカカカッ!
五指に対応した手動操作用の小さな鍵盤が握り手に浮き上がった。
さらに二本の副操縦桿、足元にも縦横スライドと踏み込みに対応したフットペダルが、左右合わせて六枚浮いて起動する。
装甲機兵の完全手動操縦モードだ。
「ユー、ハブ、フルコントロール。この子をお任せします。マスター、ご活躍を」
頭上のドラムズからXCPが操縦権の完全移行を告げると。
シオンは快感に砕けそうな腰をパンと叩き、座席に座り直した。
「あぅんっ! はぁっ、はぁっ、や、やるよ、ギルっ! 呪文を唱えて!」
完全手動はルビィなどのエースパイロットでも普段はしない、超難易度操作だ。
動作プログラムに、未登録の挙動をGAに実行させる、自由度の高さが利点である。
例えばAIが対応できない変則的な回避行動、受けの取れない一撃を見舞うなどの動作に加えて。
工具や地形を臨機応変に活用できるなど、メリットは実に大きい。
しかし手動動作を問題なく行うには、複雑なGAの内部機構と重心を常に把握し、全身の挙動を操作し続けなければならない。
心身の消耗は激しく、失敗すれば機体が転倒あるいは自壊、致命的な隙を敵にさらす。
AIの補助、プログラムによる自動化を一切受けずに、完全手動を行える操縦士は極々少数、もちろんシオンには無理だ。
しかしこの瞬間だけは、シオンがブルスを、自分の手で動かす必要があった。
「マナよ! 我が前に集いて、堅守の呪紋を成せ!」
シオンにしがみついたまま、ギルが朗々と唱える魔法の呪文。
城に施された障壁の魔法と、同じ物だが。
ブルスの眼前に展開されたマナの煌めきは、まるで虹色に輝く螺鈿細工のように、実体感を持つほどの凝縮度。
「そは無敵の盾、何者も防ぎたる輝き! いかなる刃も貫くこと能わず!」
本来ならば魔法使いは、杖や指輪などの法具を振るい、手足を用いてマナを操作し魔法陣を描く。
だがトランス状態になったギルの意識は、ブルスの構造と一体化して。
破格の魔杖から溢れる、膨大な魔力を制御していた。
「大丈夫。三日も特訓して覚えた操作だもの。最初は右手で大円っ! 左手で小円っ! 右足で弧を描いて!」
ギルが動かせぬ機体を、代わりに動かすのがシオンの役目。
魔力を知覚できず、自我で魔力に干渉できないXCPや、機体制御補助AIでは。
ブルスの四肢のマナを用いて、魔法陣を描画制御できない。
シオンが意志を込めて操縦する事で、シオンのエゴが機体に宿り、巨人の腕と足で魔術を構築する。
「破格の魔杖もあるし、仲間も居る! だから出来る!」
自分を鼓舞するシオンに応え、奮い立つ魔杖。
シオンが描く魔法陣は魔術回路であり、ギルが唱える呪文はプログラムだ。
装甲機兵が一つの魔法陣を描ききると、ギルの詠唱が魔術回路を駆動させ、上下に層を形成する。
「くふふふ、やはり変な感覚じゃな。己の手足を他人に動かされるのは」
ブルスの中の人と化したギルが、身動きできぬ拘束感に、興奮を覚えた。
「だが五重の防御魔法に増幅三倍、耐性付与と合わせて九層の、巨人サイズの積層魔法陣じゃ。胸が躍るわ!」
「くっ、くぬっ、こんにゃろっ、わわわっ、指が軋む腕が固まる足が滑るぅっ、なんか……機体が重いぃっ!」
完全手動操縦戦闘は無理だが、覚えた動作を繰り返すだけならと、頑張って特訓した時よりも。
実体化するほどの濃密なマナの奔流を、四肢で捉え操る負荷は、遥かに大きくて。
だが着実に描き紡がれていく光盾の魔法陣を前に、地竜は歩を止め低く唸る。
「くかかかかっ! どうしたアースドラゴン。よもや怖じ気づいたかぁ?」
マナに酔いしれたエルフの姫が、傲慢不遜な笑みを浮かべ、彼方の竜を見下した。
初めまして。あるいはお久しぶりです。
井村満月と申します。
第1章12話をお読み頂き、ありがとうございます。
きゃーっ♪ シオンちゃん、大変なことになってるーっ♪
のじゃろり姫エルフのちっちゃな手に、破格の魔杖の魔力をいっぱい出されて、あらあらまあまあ。
ギル姫もすっかりマナ酔いしちゃって、もー絶好調って感じですね。
そしてドラゴンブレスを防ぐため、装甲機兵でデッカい魔方陣を描き始めました。
デカいのは強い! 全高10メートルの装甲機兵なら、5倍大きい魔方陣を描ける計算。
もちろんマナの消費量も5倍ですが、無尽蔵とも言える破格の魔杖の魔力です。よゆーよゆー☆
魔法使いが身振り手振りで操作するマナの流れを、装甲機兵で再現するのが完全手動のフルマニュアル。
操縦支援AIのドラムスに動作を覚えさせれば? それでは無理なんですね。
機械はマナが認識できず、触れることもできません。
シオンが操縦する事で、彼女の自我がブラスに宿り、その巨体でマナを操れるんです。
そのため操縦桿には、ゲーミングマウスも真っ青の鍵盤とシフトボタンが、ごっそり起き上がって。
足の6枚のフットペダルで、両足の移動を制御しつつ、必要なら操縦桿を下半身操作に切り替えたり。
胴体から指先まで、いくつもの関節の動きを順序正しく操縦する訳です。
ピアノの超絶技巧演奏以上に、無茶な気がしますねー。ははは。
本来は、操縦者が機体にさせたい独自の動作を、入力するための機能なんですが。
これを敵のトリン中尉は、常にやってます。理由は?
「ボクが! メチャクチャにするんだよおっ! 掻いたり抉ったりこじ開けたりさあっ!」
だ、そうです。
なおフルマニュアル操縦は、操縦席の構造が複雑化する上、めったに使われないので。
要望のあった専用機や、あるいは一部の旧式機にしか、ついてません。
ルビィさんのベスタ改は、改造して取り付けてます。シオンのブルスは標準装備。古いからねえ。
さあアースドラゴンを怯ませる、ギル姫の魔法障壁は、見事ドラゴンブレスを防げるでしょうか?
皆様にどうか楽しんで頂けましたら幸いです。
それでは次のお話で、またお会いしましょう!




