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第12話 出会い

 ダンジョン協会の乱暴な兵士達に連れられて地下の牢獄へ向かった。

 ケルビムの街から少し離れた洞窟の中は肌に纏わりつく湿気で気持ち悪い。鉄格子の鍵を開けて突き飛ばされると俺は地面に情けなく倒れた。抵抗すると面倒が予想されるので兵士に逆らわない。

 両手には鎖、足首には足枷。身体の自由は奪われていた。木刀も没収されたので武器もない。大切な木刀を乱暴に扱ってほしくはないと伝えると無視された。正真正銘の罪人と思われているようだ。


「ここで大人しくしていろ。ったく、こんな気持ち悪いガキを押し付けるなんて最悪だ。教会の連中は本当に鬱陶しい。俺達は教会の犬かよ」


 文句を垂れ流しながら兵士達は去っていく。ダンジョン協会へ不満があるのは理解したが俺個人としても現状に不満だらけだった。不満勝負なら絶対に負けない。

 何で俺が見知らぬ大陸で罪人として囚われなくてはならない。俺は何もしていない。清廉潔白だ。本当に最悪だ。俺を平気で見捨てたイリスを許してやるものか。


「嘆かわしい。君も理不尽に晒されているようだね」


 すると黒く汚れた壁に背中を預けている若い男が話し掛けてきた。

 薄暗い中でも俺と一緒で白髪だと分かった。長い白髪は一つに縛られており肌の白さが不健康さを際立たせている。年齢は俺と同じぐらいに見えた。


「あんたはこのヘル大陸の罪人なのか?」


「僕は罪人なのかな? そうだね。君が判断してくれたまえ」


 質問を質問で返される。というか罪人じゃなければこんな場所にいない。俺が判断するにしても初対面の相手なので情報が全く皆無だ。

 何を言っているのだろう。俺は反射的に首を傾げてしまった。

 不思議な人だ。単純に変な人なのかも知れない。警戒心がくすぶられる。


「まぁ俺はあんたが罪人だとしても別に関係無いけれど」


「人に関心がないのは僕と同じだね。君とは深い仲になれそうだ」


「別に友達を作りたくてこんな場所に来たんじゃないけれど?」


「友達か……良い響きだ。心が躍るよ」


「あの……俺の話聞いてる?」


「君の話を聞かせてくれないか? 何も無いこの場所で少し退屈していた所なんだ」


 若い男は白髪を掻き上げながら微笑んでいる。目鼻立ちが整っていて美しい容姿をしてた。引き込まれるような妖艶な瞳を持っている。不気味な輝きを秘めている瞳に目が離せなくなった。

 不思議な少年だと思いながら少しは話をしようと口を開いた。いつ出られるか分からない上にこの牢の中では白髪の少年と二人きりだ。話し相手が居た方が暇つぶしになる。

 安易な気持ちで会話を始めるが時間が経つに連れて意外と盛り上がった。

 そして五日程経ってもイリスや芥川から何の連絡もなく牢の中で待たされてしまう。しかし俺は退屈せずに済んでいた。同居人のアギトのおかげだ。

 アギトは南の大陸のコアトリクス大陸出身だったが俺が住んでいた日本の事も良く知っていた。古いゲームの話をしても通じるのは驚いてしまったものだ。


「アギトはいつまで捕まっているんだ? もしかして処刑とかじゃないよな?」


「殺されるとは考え辛いかな。誠との会話は有意義だけれど僕にも目的があるから早く出してもらいたいと思っているよ」


「目的って世界を救うってやつか? 大層な夢だけど相当難しいと思うけれど? まぁ個人的は応援するけどな」


「策はある。後は鍵が必要なのだけれど……なかなか上手く事が進まなくてね。神は残酷なようだ」


 アギトと俺は名前を呼び合うほどに仲良くなっていた。

 アギトは怪しげな雰囲気を漂わせているが良い奴だった。大陸間を移動して世界を知りたいと冒険しているのだと教えてくれた。困っている人を救いたいという強い想いも伝わってくる。過去に何があったのか分からないけれど世界を救うという志は単純に凄いなと感心してしまった。

 俺もどういう理由でこのヘル大陸に来たのかと聞かれたのでルドルフ機関の任務だと正直に答えた。隠す理由が無かったからだ。もちろん任務の内容は教えてはいない。守秘義務ぐらいは俺も知っている。ルドルフ機関を知っているアギトも詳しい内容を聞いてこなかった。そもそもルドルフ機関と名乗らなくても制服で気付いていたと明かされる。やはり世界的にルドルフ機関は有名なようだと再認識した。

 すると一日一度の質素な食事を終えた後で兵士と共にイリスが現れた。


「あッ」

 

 イリスの青い瞳と目が合うと自然に声が出た。


「ポチ男を迎えに来ました。遅くなってしまい申し訳ござません」


「遅すぎだっての。魔法照合の件はもういいのか?」


 イリスを案内した若い兵士は完全にイリスを意識しているのか微笑んでいた。俺に対する態度とはまるで違う。美人は得だなと関係ない事をふと考えてしまった。


「問題ありません。兵士さん。この男を出して頂けますか?」


「かしこまりました。少々お待ちください」


 牢の鍵が開けられて拘束具が解かれる。身軽になった俺は牢を出る前にアギトに振り返った。


「ありがとうアギト。楽しかったよ。また会えたらいいな」


「運命が交わればおのずと出会えるさ」


 お互いに笑い合うと牢獄を後にした。

 地下から地上に出る為に長い階段を登る。湿気まみれの通路に渇いた風が入って来た。よくこんな場所で数日も過ごしたなと自分を褒めたい所だ。

すると足音が響く中でイリスが隣で呟く。


「あの男性は何者なのでしょうか?」


「アギトの事か? 牢での同居人だ。不思議な雰囲気の奴だけど悪い奴じゃないよ」


「よく殺されませんでしたね」


「は?」


「あの男性の悪意ある魔力は強大です。おそらく相当に凶悪だと予想できます」


「そうなの?」


 俺には魔力を感知する能力は無い。相手の身体能力が高いかどうかぐらいは分かるがアギトからは純粋な強さは感じられなかった。


「……魔力感知が出来ないのが不幸中の幸いでしたね。普通の人間ならあの男性の近くにいるだけで体調を崩すと思われます」


「……本気? 俺をからかっているだけか?」


「あれ程の魔力の持ち主がなぜこの街に……嫌な予感がします」


 深刻な口調のイリスは日差しが差し込む出口を睨んだ。

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