ある女の話
彼は、仕事は卒なくこなし何事も面倒事を引き受ける人だった。
私が、新入社員として入社したのは、6月1日付けのことだった。
最初に彼を見たときは、頭を下げた姿だった。
はい、はいと何度もオウム返しすることしかせずに、なんて情熱のない男なのだろうと思った。
髪は、ボサボサで悪くない顔ではあるが、特に着飾らず、足元はいつも汚れていて、爪は伸びきって、小柄な男だった。
彼とは、となりの部署だったが、話すこともなく、ただ半年という段々と職場の雰囲気に慣れるには十分すぎる時間が過ぎていた。
毎日、20分前には出勤し、職場で挨拶、毎日のようにお尻を触ってくる嫌な上司に少し喘ぎ、調子に乗らせ、午後になるとお茶とお菓子を二人分用意し、御局に労力を割く日々。
別に、私は嫌いというか好きでもなかったが、日々淡々と過ごしていた。
心の支えである彼氏も大学の頃から付き合っていて同棲していたが、全く好きだとか嫌いだとかも言う人ではなかった。
愛情表現には、特にこだわっていなかったが、別に好きでも正直無かった。
日々の癒しは、休憩中に見る配信アプリや毎日のようにエロイプを待ち望んでいる気持ちの悪い男たちが貪っているSNSにファッション写真を載せて承認欲求を満たす日々だった。
私ながら、本当につまらない人生を送っていた。
横目で見る職場の彼は、いつも辛そうに笑う。
職場で彼は、顔の割に人気があり、入社半年でそれなりにキャリアを作っていた。
とても、人生を謳歌した顔をしてイライラしていた。
私は、彼を見るのがとても苦痛だったのだ。
辛そうで、儚そうで
いつか消えそうで、それでもいつか消えてもいいやというサラッとした顔に苛立ちを覚えていた。