第八章〜戒め
「あ・・・あの」 ソフィア=メフィアはとうとう観念したようだった。 ━━もう、ウソはつき通せないかも。わたしの演技はダメだったのかもしれないわ。嗚呼、もう御仕舞かもしれない・・・。 思った。そして、おそるおそる硬く閉じていた眼を見開いた。もうこの先、どうなっても仕方がない、そんなふうに覚悟を決めるよりなかったのだ。
「あ・・・」 久々に瞳に入る光は眩しかった。 そこには、気品に満ちた、まるで若くして出世した青年将校のような出で立ちの少年、(青年?)の姿があった。 彼は、ソフィア=メフィアの横たわるその身體
を゙見下ろすような位置で立っていた。
彼の顎は鋭く尖った形であった。眼もきり、と切れ上がったかんじだった。唇は、薄いが、きゅっと締まっていた。冷たい印象ではあるが、彼の微笑は、ソフィア=メフィアを一瞬で虜にした。
ソフィア=メフィアの頬が紅くなった。ハンスはそれを見てふ、と笑ったようだった。ソフィア=メフィアは思わず眼を逸らした。 「名前は?」 ハンスと名乗った青年が再び訊いてきた。 無防備にも彼女は応えた。 「ソフィア=メフィア・・・」 「ソフィア=メフィアか。いい名前だ。ここらの農家か何かの出に見えるが・・・」 馬鹿にしているようではなかった。下々の者を見る目ではないように感じられた。 が、彼女は俯くだけで、答えはしなかった。 ハンスがもう一度、静かに言った。辺りの聞き耳を気にしているようであった。
「少なくともこの僕は敵ではない。だから安心して」 無垢なソフィア=メフィアは、その言葉を信じる以外に出来ることがなかった。小さく訊いた。一番の恐れを。 「わたしを生贄にするの?」 ハンスは少し間を置いた。その間にソフィア=メフィアは、天国と地獄とを往ったり来たりする思いであった。 小さく、だが、はっきりと彼が首を横に振った。 「このことは内密にしておきましょう」 彼が呟くように言った。ソフィア=メフィアには、その言葉を信じていいのかどうか、わからなかったが。 ソフィア=メフィア小さく訴えた。 「お・・・」 御不浄の間を使わせて貰いたい、と。それだけは叶えて欲しいと。 ハンスは辺りを気にしながら小さく頷いた。衛兵などの目はやはり盗まなくてはならないのであろう。 彼がベッドから彼女を起き上がらせ、身を隠すようにしながら、彼女の行かなければならない間を目指すかに思えた。その時、 「だめだよ」