第七章〜遭遇
「ほんとは眠ってなんかいないんだよね?起きてるよね?」 声はそんなふうなことを言ったのである。ソフィア=メフィアは、眼を瞑ったまま。確かにそれを聴いたのである。 「ひえっ!」 ソフィア=メフィアは、自分の置かれた立場も状況も忘れて、思わず頓狂な声で叫んでしまった。どころか、 「そ・・・そ、そ、そ、そんなことないわ!わ・・・わ、わわわたし。ね・・・眠ってお、お、おりますことよ」 などとしどろもどろになりながらいい訳めいた声まであげてしまったのである。 と、 「あはははは。演技はもういいですよ。よしにしましょ。僕には最初からわかっていたんだ。もう演技するだけ無駄というものですよ。ははは・・・」
などと嗤っている。 それを聴いてソフィア=メフィアは、自分の顔が恥ずかしさと屈辱に真っ赤になるのを感じた。 「あはは。怒らないでくれ給えよ。貴女の演技は実に稚拙と言わざるを得ませんでした。はっきり申しまして、バレバレでしたよ。ん〜、例の他の老いぼれ年寄り士官たちなら騙せたようだけれど、僕の目は誤魔化せなかったね。ん〜と。はっきり申ししょう。貴女は、眠り姫なんかではないんだきっと」 言った。快活な若者の清々(すがすが)しい声である。 ソフィア=メフィアは、それに応えていいものかどうか、迷った。彼の発言は彼女を挑発して愉しんでいるだけのようにも思えた。このまま眠ったフリを続けて、それによってなんとか彼の言葉を否定できないものか、とも思った。 しかし、それも無駄そうだった。 無邪気にも思える男の声が続けたのだ。 「もうよしましょうよ。下手な演技は。僕はハナから信じてなんかいなったんだ。貴女が伝説の眠り姫だなんてことはね。あんなのは年寄りだけが信じる迷信さ。あんな馬鹿な話があるものか」 聴いているうちに、ソフィア=メフィアの尿意は、いよいよいっぱいいっぱいになってきてしまった。 彼女は思わず眼を開けてしまった。 「あ」 それが、彼女が彼の前で最初に漏らしてしまった言葉であった。 「あはは。もういいよ。演技は。少なくとも僕は貴女の敵ではない。それだけは誓うよ。だから安心して・・・」 彼が続けようとするのを堪らずソフィア=メフィアが遮った。 「あなた、何なの!?さっきから!ひとを馬鹿にしてるでしょうっ!わかってるわよ!悪かったわね!わたし・・・。わたしだって・・・」 しかし、言葉に詰まってしまうのだった。どういうわけか、瞼の間から涙が溢れてしまうのだ。 「わたし・・・」 しかし、言い掛けるのを、男の声が遮「(さえぎ)ったのだ。 「え〜と。名前は?まだ貴女の御名前、聞いてなかったよね。まさか、眠り姫はではないよね?うん。僕はハンス。ハンス=シドロモフ。宜しくね」 ソフィア=メフィアは、自分のものより熱い掌が、頬に触れるのを感じた。 「ん・・・」 ソフィア=メフィアの喉の奥から声が漏れた。