第六章〜暗転
━━嗚呼、もう駄目だわ。もう、ダメなのよ!あたし、どうしよう!もう我慢できないわ。わたし、おかしくなっちゃう! ソフィア=メフィアは恥辱に塗れながらも、心の中だけでそんな叫びを上げるしか出来なかった。 もし、周囲に見張りのような者がいるとしたなら、実は眠ってなどいないのを白状するかのように、眼を開いて起き上がり、どうか御不浄に行かせて下さいと懇願するしか事態の打開策はないだろう。はたまた監視の目などないとしたなら、思い切ってこの部屋を抜け出して、何処かにあろうハズの御不浄の間を密かに探し回るとかは出来るのかもしれないけれど。それにしたって、その場合にもし邸内を彷徨うところを発見されでもしたなら、ただでは済むまい。きっと衛兵に捕まって、こっぴどい目に遭わされた後に、例の生贄の儀式に送り込まれるに決まっている。 どのみち、かなりのリスクを背負わなければどんな欲求も満たされないように設定されてしまったのだ。 ソフィア=メフィアには選択の余地も自由もなにも与えられてはいないようだった。 ━━ならば、もうこのまま、眠ったフリをしながら用を足してしまうしかないわ。 ソフィア=メフィアは、そんな境地に達するしかなかったのかもしれない。実際!そんな結論に達したのだ。 しかし、一平民の娘とはいえ、普段からお淑やかで純情な彼女には、なかなかその決断が出来ないのであった。 そんなはしたない真似はしたくはない、それが正直かつ率直な気持ちであった。 ━━一体わたしはどうしたらいいの?そんな恥ずかしい姿を晒すくらいならいっそこの世からいなくなってしまった方が楽だわ。神様、助けて! そう言っていよいよ泣き出したくなったその時であった。 ふいに頭上から声がしたのである。 ソフィア=メフィアは、驚きのあまり、跳びあがりそうになった。 それは、聴き憶えのない男の声であった。 聴く限り、若い、それもソフィア=メフィアとどちらが若いかと問われればどちらとも言えない程、若い男の声。 汚れのない少年をすら思い浮かばせる。