第五章〜忍耐
ソフィア=メフィアは、眠り続けた。 いや、眠ることは出来なかったが、眠ったフリはを続けた。 ━━いっそ、本当に眠ってしまえばどんなにか楽だろう。そうすればなにも考えなくて済む。 彼女は強くそう思った。が、眠りはなかなか訪れなかった。緊張と空腹と不安とが彼女をそうはさせなかったのだ。 それどころか、空腹と尿意が次第に怪物のようにソフィア=メフィアを襲い始めた。 それで、ますます眠りは遠ざかることとなっていった。 最初はなんとかなるだろう、と楽観的でいたのであったが、段々(だんだん)、思う程容易でないことに気づき始めた。 彼女が永い眠りに就いていると思われている以上、何者かが食事の世話にやって来るという期待も、抱くべきではなさそうだった。 相変わらず、ひとの気配はなかったが、だからといって、彼女に監視の目が行き届いていないとは断定出来はしなかった。部屋の何処からか、彼女は見られているのかもしれなかった。 しかし、ソフィア=メフィアはまるでこの邸宅の中で放置されているかのようであった。やはり彼らからしてみればただの害厄をもたらすかもしれない厄介者、招かざる客に過ぎないのかもしれなかった。少なくとも歓待されるような身分ではあるまい、とソフィア=メフィアも自覚していた。 ━━わたしのこと、ご姫様と呼ぶのなら、もう少し丁重に扱いなさいよ! そんなふうに強気には思えないのであった。 空腹感と尿意はますます強まっていった。もう、まる一日近く経ったように感じられた。 最初に考えた方策どとり、人の目を盗んで邸内を探索してみるしかないのかもしれなかった。 それにはまずわ眼を開けて辺りを確認してみる必要(ひつよう、)があった。 しかし、それをする勇気はなかった。もし、彼女が眠ってなどいないことを何者かに見つかってしまったら、彼女は恐ろしい生贄の儀式に供されてしまう運命のようだったから。 ソフィア=メフィアは、両の太腿を密かに擦り合わせるようにしておしっこをしたいという生理的欲求に耐えるのだった。 ━━嗚呼、神様、もうわたし、駄目だわ。もう我慢できません。どうしよう。わたしはどうしたらいいのですか? ソフィア=メフィアは、心の中で神に問うた。 が、もちろん、返事などない。彼女は自分自身で決断しなければならなそうだった。 ━━お腹もすいたけれど、おしっこもしたい。嗚呼、もう駄目だわ。このまましてしまうしかないのかしら?それとも眼を開けてみて、それが叶えられる場所を見つけるしかないの? 気がつくと、ソフィア=メフィアの眼の尻からは、透明の神々しい涙が流れ落ちていた。 ━━うう、もう我慢できない。このましてしまうしかないのかしら。 ソフィア=メフィアは、太腿をもじもじさせながら叫び出したい衝動に耐えた。 もう、清らかな小水が下半身の敏感な管を駆け下りて放出される寸前であった。 我慢しようとする筋肉による忍耐も限界を迎えようとするのであった。