第十一章〜初めて
ソフィア=メフィアの涙が、枕を濡らした。 ━━やだ。このひと。なんの為にこんな意地悪するの? 心の中で。 「行きたいか?」 彼が静かに問うた。彼の目は、嗤っていた。 ソフィア=メフィアは、答える代わりに別の問いを返した。 「いつから知っていたの?」「ん?」 と、彼。 「わたしが、ほんとは眠ってはいなかったということ・・・」 「最初から知っていたよ。貴女()(あなた)の演技は稚拙に過ぎた。眠っているようで顔は恐怖にゆ歪んでいたし、君はいちいちぼくらの会話に身體()(からだ)全体で反応していた。ま、年寄りどもは気づかなかったようだけれどね」 ソフィア=メフィアは、顔をまたあからめた。演技が下手だと言われたことが悔しかった。弄ばれていたのだと気づいて屈辱を感じた。 彼女はもうベッドに半身を置きあがらせていた。 「なら何故・・・。こんな意地悪をする為だったの?なんでわたしを・・・」 疑問をぶつけた。すぐにハンスが応えた。 「僕が貴女のウソを見破ったと皆に伝えればよかったの?そしたら貴女の命よりに危険が及んだのですよ。それでも良かった?」 ソフィア=メフィアは、ぷるぷると首を横に振った。 ソフィア=メフィアは、ハンス=シドロモフに屈服し掛けていた。 「嗚呼」 彼女の唇の端から溜息が漏れた。 「御願いよ」 ソフィア=メフィアは、自由に御不浄の間で用を足せる権利と、密かにベッドまで食事を手渡して貰えることを条件に、自らの身體を彼に捧げることを約束した。 生きる為には、仕方のないことなのだと自分に言い聞かせた。 無垢な彼女には、それが初の体験であった。 初めは痛いだけたったが、ハンスの行為は優しくデリケートで、嫌悪はあまり感じなかった。ハンスへいつでも清潔だった。ソフィア=メフィアは、ハンスに溺れていった。彼なくしては生きられない、そう思い始めていた。