1.
「お前の望みはなんだ」
「うたいたい」
ハッと目が覚めるとそこは自分の部屋だ。
「何だ今の夢・・・」
歌なんてうたいたいと思ったことなんて一度もない。
それなのに夢の中では、うたいたいと願っていた自分。
「まぁ、ただの夢だよな」
学校いかなきゃ、とまだ気怠い身体を起こし階下へと降りる。
「おはよー」
「おはようございます、凛月さん」
ふわぁ〜とあくびをしながら挨拶をすると、家政婦のサワさんが返事をしてくれる。
それと共に美味しそうな匂いもしてきて、俺の腹の虫がグ〜っと鳴った。
「フフ、もう朝食できていますよ、顔洗って来てくださいな」
「は〜い…」
笑われた・・・と恥ずかしい思いをしながら洗面所へ向かう。
鏡へと向かうと、
「あれ、俺こんな顔だったっけ・・・?」
イギリス人の父と日本人の母の間に生まれた俺は、
カラスの濡れ羽色と評される黒髪とアンバー色の瞳を持つ。
それに、どことなく違和感を感じ、じーっと鏡とにらみ合う。
「んー?・・・気のせいか」
顔を洗い、着替えて朝食を食べ、大学へ向かう。
「いってきまーす」
「はい、いってらっしゃいませ。あ、凛月さん。夕ご飯は冷蔵庫に準備しておきますので温めて食べてくだいね。
明日の朝ごはんとお昼ごはんはご自由に取られてください」
「了解!いつもありがとう。サワさん!」
サワさんは俺が小さい頃から家に来てくれている。
70歳になり、身体に無理をさせてはいけないと
ウチの両親から「たまには休みなさい」と言われているらしく、週に1・2回は
ご飯の用意だけして、きちんと休みを入れている。
明日の朝は何食べよっかな〜と考えながら歩いていると、すぐに大学に着いた。
「りっちゃ〜ん!おはよー!」
「あ、おはー」
「りつ、今日サークル休みだってよ」
「まじ!やった!」
すれ違う女子や男子に声をかけられながら、1限が行われる教室へ向かう。
『 』
「え・・・?」
その声の中に聞き慣れない言葉が聞こえた気がして足を止める。
振り返りキョロキョロと周りを見渡してみるが、こちらを見ている人は一切いない。
「気のせいか」
くるりと向きを変えた途端。
ストンと落ちる感覚。
「え、」
ドサッと荷物が落ちたあとに凛月の姿は、もうそこにはなかった。
先程まで声をかけていた友人たちはそれを一瞥すると
何事もなかったかのように歩き出していった。