第二話 俺と妹と都市伝説と
以前よりも短くなってしまったような気もしますが、何かのご縁ということで、さいごまでお読み頂ければ、幸いです。
俺の名前は奈岐弐厳、そこそこ平凡な高校生だ。
いつも遅刻常習犯の俺も、休みの日は早起きである。
晴れの日は非常に気分がいい。
思い返すのも憚られる昨日とは違うぞ。
そんなことを考えながら、階段を下りる。
リビングでは、神奈が朝ごはんを用意してくれている。
「兄さん、今日は早いですね!」
と、キッチンに立つ神奈が振り返り言う。
「勿論だ、休みぐらい早起きするぞ?」
体をポキポキ鳴らしながら、返答し、席につく。
「それより、今日は一緒に買い物に行くぞ!」
「何か買うものあるんですか?」
買うもの? そりゃあるさ、昨日破損したテレビは放置中。だが、このままにも出来ん。
「テレビな。昨日、お前が不審死を迎えさせただろうが!」
「ああ……そんなこともあったかな……?」
神奈は苦笑いを浮かべ、顔を逸らす。
「一応、今日の予定は、テレビの購入だけだが、テキトーに外で遊ぼうかとも思ってる」
「昼飯は外で食べる予定、神奈は今日特に予定無かったよな?」
「も、問題ないよ。テレビは私のせいだし……」
「兄妹でお出かけ。一種のデートみたいなもんだろ」
食事をしながら淡々と言う。
妹相手じゃないと、デートも出来ないのだから、仕方ない。言ってて物悲しくなるな。
「きょ、兄妹でデートなんて有り得ないから! 有り得ないんだから……ね?」
神奈は声を荒らげたかと思うと、顔を真っ赤にし、毛先を弄り、ソワソワしているようだった。
というか、二回言われちゃったんだけど。オブラートに包まれ無さすぎて、モロに心の臓が痛くなるな。そして、安定の可愛さ!
「あ……うん、ごめん。とりあえず飯食ったら出るぞ!」
俺がそう言うと、神奈はそそくさと朝食を平らげ、自室へ駆け込んで行った。
行動の速さに、少し呆気に取られてしまったが、俺も朝食を食べ、準備をした。
準備を終え、外に出ると、少し遅れて神奈が出てきた。
「俺より早く準備しに行ったのに、なんで俺より出てくるのが遅いんだよ」
「お、女の子の準備は時間がかかるもんなんですよ!」
「そういうもんかね……」
「そういうもんなのです!」
全くもってよくわからん。ただ、出かけるだけなんだがな……
「化粧とかする必要あったか? 別にしなくても人様に見せびらかせる顔立ちしてんぞ?」
我ながらデリカシーに欠けてるとは思うが、それでも聞くのを止めれなかった。
「いいんですよ! やっぱりその……き%△#?%◎&@□ですし……」
「ん? なんだって? 最後らへん聞き取れなかった」
「なんでもありませんよーだ! それよりも今日の私はどうですか?」
神奈はモジモジしながら、問いかける。
「百二十点だな! 非の打ち所がないと言ってもいい完璧具合だ!」
神奈は少し照れたような笑みを零し、こちらに背を向けてしまった。
神奈も女の子だからな……流石に褒められて嫌な気はしないか--
「さ、さあ行きましょう! テレビは待ってくれませんよ!」
「そんな逃走劇繰り広げそうなテレビは、ご所望ではないぞ」
そして、俺たちは雑談を交え、久々のお出かけに少しの期待を込める。
テレビの購入を終え、ファミレスで昼食を取る。
「結局、前とあまり変わらないテレビになっしまったな」
「そもそもあのテレビ自体、購入して、間もなかったものですし……」
そうこうしている内に、料理がきた。
「お待たせしまし……奈岐じゃない!」
突然、名前を呼ばれ顔を見ると、ファミレスの制服で身を包んだ生徒会長の姿があった。
「生徒会長、ここでバイトしてたんですね」
「やあやあ、最近よく会うねー……」
「いや、よく会うってまだ二日連続って程度ですよ」
「いやはや、そうだったかな?」
うちの高校は、申請を出せば、バイトの許可が下りる。
学校内じゃ、ほとんどの生徒がバイトしてるとは思う。
勿論、俺もしている。
この世界には、お小遣いなんていう働かなくとも両親から受給する制度なるものがあるようだが、そんなものは都市伝説だと思っている!
現に俺もバイトをし、金を貯めている。
妹のプレゼントとかプレゼントとか、『最愛の妹に贈るプレゼント』とかのためだな!
「兄さん、その方は……?」
神奈が不安そうに訊ねる。
「うちの高校の生徒会長、秋空花……だっけか?」
「いや、なんでうろ覚えなのさ!」
「人の名前と顔覚えるの苦手でね」
「よろしくね、妹ちゃん!」
「兄がいつもお世話になっています!」
社交辞令だろう。妹は立ち上がり、敬礼をする。
「話に聞いてた通り、いい妹ちゃんじゃん!」
当たり前だ! 誰の妹だと……
「話って……?」
「まあまあ、話はその辺でいいだろ!」
割って入り、食い気味に話を止める。
「でも、ホントうちの高校が、バイト許可されてて良かったと思いますよ」
「それはあるね! 他校だとダメなところも多いようだからねえ」
「兄さんもバイトしてるんですか?」
「してるよ。あれ? 言ってなかったっけ?」
「聞いてませんよ! てっきり兄さんもお小遣い制なのかと……」
おおっと? 今聞き捨てならないことを聞いてしまったぞ!
「神奈はお小遣い制なのか?」
「私は、毎月別口座で、お小遣い貰っていますよ」
まさかの俺の妹が、都市伝説だった……!
ジト目で、妹を見つめていた。なんという差、これはあとで、両親に深く問いただすとしよう。
なんて考えていたら、目の前の神奈が、ソワソワと落ち着きが無くなっている。
「神奈? 大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですよ……」
神奈は苦笑しながら答える。
「へえ…………」
生徒会長がニヤけながら、神奈を見つめる。
「俺の妹に対して、変な事考えるなよ?」
「考えないわよ! あんたと一緒にしないでよ!」
「いや、俺も考えてねえっしゅ……」
「あっ……噛んだ」
二人して、口を揃えて言った。
「ほらほら、生徒会長は早く仕事に戻れ!」
俺は、強引に生徒会長を追い返す。
そして、生徒会長は、神奈に耳打ちした直後、妹の顔が赤くなる。
「なんで分かるんですか!?」
生徒会長は、口に人差し指を立て、仕事に戻っていった。
「何か言われたのか?」
「いえ、なんでもないですよ!」
「でも、兄さんが学校でもちゃんと出来ているようでよかったです」
今ので何かを悟ったのか、妹が笑いながら言った。
「普通普通……」
軽くあしらうように、話を流す。
その後、俺たちはゲームセンターやカラオケに立ち寄り、時間を潰し帰宅。
「兄さん、ぬいぐるみありがとう」
神奈はぬいぐるみで顔を半分隠しながら、照れくさそうにしていた。
「いいよいいよ、気にすんな!」
今回の件で、兄としても株は上げれたのではないかと、少しの満足を得た。
風呂に入っている最中に、両親に今回の件を問いただす事にした。
「俺の妹が都市伝説だったんだけど?」
「おい、なんのことだ? さっぱりわからん!」
「お前の妹は実在するぞ!」
電話の相手は俺の親父。現在は海外赴任している。
「いやちげえ! お小遣いとか俺貰ったことないぞ!」
「おうバレたか」
「俺にくれてもいいんじゃないのか?」
「お前にあげるより神奈ちゃんにあげる方が、父親としての株も上がるだろうが!」
何だこの父親……しかも考えることも一緒かよ!
「お前よりも神奈ちゃんの方が可愛いんだからな?」
実父としてあるまじき発言。でもわかっちゃうところに、血の繋がりを感じるな……
「そういうわけだか」
言い切る前に、通話を切った。
風呂から上がると、ドンドン……ドンドン……
概ね、神奈が二階で暴れているのだろう。
腰にタオルを巻き、二階の様子を伺う。
神奈は階段の上に座り電話をしていた。
「おーい! 大丈夫か?」
「あっ……うるさかったですか?」
「いや別にそれは構わないが、何かあるなら話を聞くが?」
「い、いえ、お構いなく!」
神奈が立ち上がり、自分の部屋に向かおうとしたその時、足を滑らせた。
「あぶねえ!」
咄嗟に駆け寄り、手を伸ばす。
ドタバタドタバタ………………
神奈は階段から滑り落ち、俺もそれに巻き込まれた。
「んん…………大丈夫か?」
「おかげさまで、痛いところは無いです……」
どうやら、俺が下敷きになったことにより、神奈は怪我ひとつなさそうだった。
「つっ……」
立ち上がろうとした時、手首に痛みが走り、力が入らなかった。
どうやら、手首を捻ったっぽい。
念の為、神奈にテーピングを頼むことにした。
「それで、誰と電話していたんだ?」
「生徒会長さんです。今日お会いした時に、連絡先も頂きましたので……」
おっふ……あいつちゃっかり連絡先交換してるやんけ! コミュ力すげえな!
「何話してたんだ? なんかドンドンしてたようだけど?」
「な、内緒です…………」
そういい、神奈は顔を背ける。
「まあ、これからは気をつけるように……」
「はい……ごめんなさい……」
弱々しい声で謝る神奈。
「問題ない! これぐらいならすぐ治る」
その日の夜は、以前借りて置いた映画を二人で見た。
「じゃあ、そろそろ寝るか!」
「あの………………」
神奈がモジモジしながら俺の袖を掴む。
「ちょっと……その……ついてきて欲しいといいますか……なんというか……」
「んん……トイレか?」
「どうしてそう直球に言うんですか!」
顔を近づけ、鬼気迫る声で言われた。
「悪い悪い」
中……学生なんだよな、一応。
「なんで怖いのに、ホラー見ちゃったんだよ」
「怖いもの見たさと言いますか……」
そしてそのままトイレ前まで連れていかれる--
この時の俺は、まだまだ先が思いやられるような、そんな気がしていた…………
最後までお読み頂きありがとうございます。
不定期にはなりますが、今後も投稿は続けて行きたいと思っておりますので、何卒よろしくお願い致します。