第一話 微かな煙と絶望の虫
処女作
書き始めで拙い部分も数多くあるかと思いますが、その都度、改善していきたいと思います。
チュンチュン……爽やかな朝……
窓からは日差しが差し込み、俺の部屋を明るく照らしている。
下の階からはジュウジュウ……と朝ごはんの香りがし、家の至る所に充満する。
ドタドタ……慌ただしく階段を駆け上がる音。
「兄さん、まだ寝てるんですか?」
妹が勢いよくドアを開け、少しの怒りを含み、部屋に入る。
「何言ってるんだよ、こんな朝早くから。もう少し寝かせてくれ」
寝坊するやつの常套句、毎朝ルールのようにこれを言う。
「もう七時半です! 早く起きてください、何度寝するつもりなんですか!」
妹が何かを言っている。何度寝だと……起こしに来られたのは一回目じゃないか!
「これからしても二度目、なんだ……非常に良心的ではないか!」
朝なんて皆弱いだろう、妹が優秀なだけ……そう思いつつ、俺は全身を布団で覆う。
「バカ! ホンットにバカ! あんぽんたん!」
何故か少し涙目の妹が罵倒してくる。
えっ--そこまで言っちゃう? 泣いちゃうよ? 豆腐メンタル舐めんなよ。豆腐の角にも負けるぐらい弱いんだぞ。というか、あんぽんたんって可愛いな、流行らせようぜ。
なんて思っている間にも、俺の布団は妹に奪われていた。
「三度寝なんて許さないんですからね!」
そう言い、妹は階段を降りてゆく。
まさかの三度寝……どうやら俺の知らない間に、一度起こしに来ていたようだ。
寝ぼけた頭で、制服に着替え、妹の後を追う。
俺の名前は奈岐弐厳だ。高校一年生、十五歳。
どこにでもいるような平凡を生きる高校生だと思っている。
運動も勉強もそこそこなのだから、平凡そのまんまだ。
唯一、ミディアムロングの長さをしている黒髪だけは物珍しいところだ。
妹は奈岐神奈。中学三年生、十四歳。
容姿端麗で長く黒い髪をしている。中学生にも関わらず、大人びな相貌を呈している。加えて勉強もトップクラス。
これをボンキュッボンというのだろう。
運動がからっきしなのは玉に瑕だが、妹がドジっ娘なんて、寧ろ高得点だと思うがどうだろう?
リビングに入ろうとしたとき、風船が破裂したような音が部屋に響く--
慌ててリビングに突入する。
「大丈夫か、神奈!」
そこには、咳込む妹と恐らく、料理であっただろう得体の知れないものがフライパンに乗っていた。
実はこれ、五パーセントくらいの確率で発生する。
大して珍しくはない、なんなら月には二、三回は遭遇するのだから、少し笑ってしまう。
「う、うん。ごめんね兄さん。朝ごはん、質素になっちゃって」
俺たちは席につき、ご飯・納豆・サラダを前にし、メインディッシュと共に、食べ応えすらも喪失した現状を噛み締めていた。
「お前は相変わらず、実験とマジックが上手だな……ところで、今日は何を消したんだ?」
妹に対し、皮肉混じりの会話。別に悪意はない。
「消してませんよ! しゃ、鮭です」
妹は怒りと恥ずかしさを含む顔で、こちらを睨んできた。
確かにな、現に鮭は消えていない、暗黒物質へと転生を遂げただけだ。俺が鮭ならやり切れねえがな。
「いつもありがとう」
俺は笑顔でそう言った。
慰めになればと日頃の感謝を伝えてみた、唐突であることに関しては否定しない。
妹は顔を赤らめ、そっぽを向いた。
「あ……兄さん、生徒会は?」
妹が思い出したかのように訊ねる。
「この時間だ、遅れていく。どうせいても変わらん」
俺は淡々と答える。
実際にそうなのだから仕方がない。遅刻常習犯に何を求めるというのか。
生徒会についても、政策や作業担当なのだから、別に朝の服装チェックには出なくてもいい。
「ダメです! しっかりとお務めを果たしてください!」
そういい、妹は俺の口に朝ごはんを詰め込み、家から追い出す。
そうして、俺は口を動かしながら家を後にし、学校を目指す。
こういう生活だ、誰がどうみたって仲良し兄妹に見えるだろう。
俺も他人の家庭が同じならば、そう思う。
だが、妹はあまり俺を好ましく思っていない。
両親は再婚で、俺は父親、神奈は母親の連れ子だ。
現在は海外赴任で不在、のほほんとした性格のため、家のことは妹に丸投げ。
妹は優しいし、責任感が強い。義務感で家事をしてくれているのだろう。
話しかければ返事もしてくれる。いい事なのだろう。
でも、きっと好かれてはいない、不出来な兄を持つと下は苦労するだろうから……
口を空にし、俺は学校へ到着。
制服チェックはまだしているようだ。
「やあやあ、これは珍しいこともあるもんだね。遅刻魔が歩いて登校するなんて、今日は天変地異でも起きるのかな?」
この無茶苦茶言っているのが、生徒会長。
秋空花、高校二年生で生徒会長、天真爛漫の天才肌。
基本的になんでもこなすんだから、もう一人でいいんじゃないかな、生徒会。
成績はトップ、容姿は悪くない、寧ろ良いと言ってもいいレベルだ。茶髪のショート、頭にアイの花飾りを付けている。
「酷い言い様ですね。可愛い妹の恩恵ってやつですよ!」
他人から見れば、シスコンなんて思われるような発言だが、俺はシスコンではない。
「シスコン拗らせ過ぎじゃないかな」
生徒会長は笑いながら言う。
何が面白い! シスコンじゃねーよ、断固としてな。
「言っておきますが、あくまでも普通の兄妹です! お間違えないよう」
生徒会長は、この手の話にはうるさい。
釘は念入りに刺しておくが、これでも聞かないのだから、もうお手上げである。
「はいはい、それで制服チェックには、参加するのかな……?」
制服チェックも直に終わるだろう。だが、面倒だ、当然回避するに限る。
「遠慮しておく、教室ですることがあるのでな」
当然嘘である。そんなものどころか、逆に何も無いほどだからな。
「今日は会議があるから、生徒会室よってねー……」
俺は間の抜けた返事をして、気だるい雰囲気を醸し歩く。
教室に着いた時には、既に大勢の生徒が登校していて、賑わいを見せていた。
この騒がしさが俺はあまり好きではない。
教室に入ってからも、少しの間、机に顔を伏せ、寝ていた。
「おっはよー! 今日は早いな」
一人の男子生徒が、俺の静寂を破る。
「なんだ池田かよ、何の用だ」
不機嫌そうに俺は話す。
まあ、正直なところは不機嫌なんだが。静かに暮らす陰キャに対し、話しかけてくる陽キャのような池田。
「妹に起こしてもらったんだろ? いいよな妹って。可愛くて、尽くしてくれて、最高じゃねえか!」
池田には姉がいるせいか、以前から妹が欲しいと口うるさく言っていた。
確かに妹は可愛い、認めよう。でも妹を貴様にはやらん。そして、更に気分を害する。
「池田、お前の妹欲しい談義は聞き飽きたぞ」
「お前の妹大好き感たっぷりの惚気も聞き飽きてっぞ、こっちは」
「違うな、惚気ではない! 事実をありのまま話してるだけだ、お前の話に合わせてな!」
「でも、奈岐な、お前一日一回は妹可愛いって言ってんぞ」
「だって事実なんだから、仕方ないだろ!」
まあ、こんな話はしているが、シスコンではない。シスコンではないぞ!
「妹の話は置いといて、お前生徒会入ってるんだよな?」
おん、こいつ、簡単に話変えてきやがった。自分で振ってきたくせに! 一週間寝かせずに妹の可愛いところ語ってやろうか!
と、言いたいところをすんでのところで耐えた。
「入ってるよ、表向きにはあまり活動はしていないがな」
「生徒会長が、生徒会にもっと顔出して欲しいって言ってたぞ」
なんだかんだ言おうと、それもいつものこと。
「大丈夫大丈夫」
なんて言っている間に、予鈴が鳴り響く。
「……………………」
最後に池田が何か言っていたが、特に聞く気もなく、再び眠りにつく……
退屈な授業を惰性で過ごし、あっという間に放課後になった……
帰ろうと校門へ向かう際に、生徒会長との話を思い出し、引き返す……
放課後であっても、学校は部活動やらで賑わいを失わない。
帰宅部の俺にはわからん感覚だがな。
生徒会室に着くと、生徒会長しかいなく、閑散としていた。
「ごめーん、今日みんな用事があって、会議延期になっちゃった」
時たま顔を出せばこれだ。間が悪いと言うか、足並みが揃わないというか。
「会議の内容は?」
「会計と強化月間についての話し合いかなー」
「部費については…………」
「後日の会議に俺は出ないから、後はよろしく」
こういったものを処理していくのが俺の仕事になる。肩書きは庶務にはなっているが、特に問題もない。
そうして足早に去り、家路につく。
家に着くなり早々、リビングから轟音がした--
あまりの音に虚をつかれ、呆然とした。
我に返り、リビングへ向かう。
そこには、新聞紙を丸めた武器を持つ妹が慌ただしくしていた。
「おい、どうした? さっきの音はなんだ?」
辺りを警戒し、妹に問いかけた。
轟音の正体は、テレビの破損によるものだろうが、新聞紙は凶器になるんだな……
しかしどうすれば、あんな音が出るのかは全くもって不明。
とりあえず妹から事情を聞くことにした。
「虫が……虫が出たんです……」
本日二度目の呆然タイム。
「へえ……虫が、そうか……」
ええ? 虫が出たら、ラグナロク襲来すんの? やだ、この家怖い!
「うおっ、危ねっ!」
突如、右側から何かが顔に向かって飛んできて、つい握ってしまった……
恐る恐る手を開くと、どうやらゴキブリを握り潰してしまったようだ。
背筋が凍りついた。
少しの間、二人で手のひらを眺めていた……
「今日は災難続きな気がするな」
今日のことを振り返り、布団に入ると、下から悲鳴が聞こえた。
「キャアアアアアアアア!」
寝れねえよ! 厄日か、ホント!
「お兄ちゃーん! また--また出た!」
風呂上がりで、全裸の妹が抱きついてきた。
可愛いいいいいいいいいいい!
やべえ! めっちゃいい匂いやん。涙目可愛い。虫ありがとう!
「えいっ!」
またっていうから、ゴキブリかと思ったら蚊やん。妹よ、蚊やん。マジか、何も言えねえ。
「神奈、もう大丈夫だぞ」
流石の俺も目のやり場に困る……
次第に落ち着きを取り戻す妹。
自分の姿と状況に気づいたようで、赤面させ、動くにも動けないように見えた。
「お兄ちゃん見ないで!」
妹は動揺し、俺の首を掴む。
「ちょっ! 落ち着いてマジで! お願い、500円あげるから!」
妹が俺の首から手を離したと同時に、床に倒れ込み、妹は風呂場へ逃げる。
「はあ……はあ……」
人生一、死ぬかと思った瞬間である。
「お兄ちゃんごめんね?」
風呂場から妹が、泣きそうな声で謝る。
可愛い妹の声で死にそう。
多分今の俺は、世界一渋い顔をしていると思う。
「大丈夫だ、なにかあれば、また呼べよ!」
「うん、ありがとうお兄ちゃん!」
妹は、現状の処理が追いつかず、余裕がなくなると、お兄ちゃん呼びになる。
だが、それはそれで可愛い!
布団へ入り、妹を想い、快眠を得たのであった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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