かんゆう祭 一日目
かんゆう祭初日は海と空の境目が分からない程、スッキリと晴れ渡っている。校門前にはどこから引っ張りだして来たのか分からない、手作りの赤い鳥居を模したアーチがいつの間にか聳えたっており、天辺真ん中の黒い神額には金字で「かんゆう祭」と縦に書かれていた。校庭は既に部に引き入れようとする上級生でごった返してるのかと思いきや、登校して来た人間以外見当たらず、不気味な程静穏を保っている。開始時刻が九時からなので、一応それを遵守しているのかも知れない。
それとは反対に教室はいつも通り騒がしい。見て回る順番を相談していたり、是非うちの部をみてくれと宣伝したりしている。チャイムが鳴ると山藤がやって来て出席をとった。
「はい、今日は文化祭だし欠席は居ないね。良いんじゃない。えーっと、じゃあもう入部している人はホームルームが終わったら自分の部活の流れに従って下さい。それ以外の人達は九時になってから教室を出てね。それより前だと準備してたりするから。一応帰りも全員居るか確認する事になってるんだけど、部活で来れない人は代返を誰かに頼んで下さい、それで大丈夫です。ま、頑張れよ。教室でたら鞄と口は閉めておいた方が良いです。貴重品は各自管理して下さい。じゃ、楽しんで」
担任の話が終わると、十人くらいの人間が教室から出て行った。外から慌ただしい最終準備の音が聞こえ始める。
「校庭静かだったよね……ってあかね何してんの?風邪?」
津田がいそいそとマスクをつけている。二人の分も一応用意していると言っていたが貰わなかった。確かに彼女は石橋を叩いて渡る性格の持ち主だが、これはやり過ぎの感がある。叩いても渡らない、だ。第一なんの為にマスクをつけているのか、とんと見当がつかない。
三人は最初オカルト研を目指す事にした。七不思議のネタ探しをするにはうってつけの部だからだ。もしたどり着けなそうだったら臨機応変に対処しようと津田が言っていたが杞憂だろう。
九時のチャイムが鳴る。開始の合図だ。それと同時に地鳴りの様な轟音が校内に響き渡り、状況を理解出来ない一年生は周りをキョロキョロしながら不安そうに教室の外へ出る。三人もそれに続き廊下へ向かう。
「……え?何この音。そう言えばあかね、オカルト部ってど、モガッ!?」
廊下へ出た途端、橘の口の中に何かが入って来た。部員募集のチラシである。そして割れんばかりの声が新入生達を襲う。
「テニス部!校舎裏のコートで試し打ち出来ます!」「料理部入れば一人暮らしのとき困んないよ!」「野球部はマネージャーも探してまーす!」「みそ汁一杯五十円!飲んでって!」
これがかんゆう祭か。橘は完全に面食らった。スペインかどっかのトマトをぶつけ合う祭りを想起させる。まあ投げられるのはチラシだが。そして三人はくしゃくしゃのチラシと咆哮が飛び交う廊下を牛歩戦術のように進んでいく。この異様な熱気はどこまで続くのだろうか、今どの辺りに居るのだろうか。橘が祭りの雰囲気に圧倒されていると、グイと手を掴まれて下駄箱に連れ出された。津田が二人を引っ張りだしてくれたようだ。鍋島もチラシを口に詰め込まれて目をまん丸にしている。周りがうるさ過ぎて自分の声が通らないと判断したのか、津田が無言で玄関の方を指差す。そこには黒いテントが建てられており「占い同好会、一回百円。部員募集中。良く当たる!」と書かれた看板がそばにあった。皆で頷き、上履きのまま向かう。
中に入ると天井にランタンが吊るしてあり、真ん中には凝った刺繍の紫のテーブルクロスが敷かれたローテーブルが置かれている。周りには座布団が数枚並べられていて、テーブルの向こう側には顔をベールで覆い、黒い服を着た女の子がちょこんと正座している。
「皆さん、おはようございます。さっきぶりですね」
こちらを向き首を少し傾ける。この慎ましやかな声は同じクラスの綾小路舞だ。
「あ、あやほおういあん」
橘は紙が口に入っているのを忘れている。
「もし良かったらこのゴミ箱使って下さい」
チラシを取り出して見ると「新聞部、有能な人材募集!」と書かれていた。
(畜生、あいつらはホントどこにでも居やがる。まさかわざとじゃないだろうな)
橘は額に青筋を立て、チラシを握りつぶしてゴミ箱に捨てた。鍋島も同じく口をパンパンにさせているので、ゴミ箱を渡してやった。
「かんゆう祭って凄いですね。ホントに口に投げ入れるんだ。ただの噂かと思っていました。せっかくだからどうです?」
右手でタロットカードを持って見せる。
「みてほし〜い」
「とりあえず三人お願いしても良いかしら。あと新聞部に依頼されて七不思議を探していてね。噂でもなにかあるとありがたいわ」
津田がマスクを外しながら言った。
「そうですね……実は今占い同好会って私だけなんです。部に昇格するには人が足りなくて。噂かどうか分からないんですが、クラスメイトには当たるって評判なんですよ。なのでそれをこう、上手く新聞に載せて頂けると嬉しいです」
「部員増やしたいから宣伝して欲しいんだね!」
もう少しオブラートに包む事も出来るだろうが、橘に言っても無駄である。申し訳なさそうに綾小路が頷いた。
「じゃあ良く当たる占い同好会って事でメモしておくわ。ただ記事にするか決めるのはあの眼鏡部長だから確約はできないの。ごめんなさいね。それと過去か近い未来を占ってもらう事は出来るかしら?その方が良く当たる噂の説得力が出るわ」
「いいえ、滅相もございません。分かりました、やってみます。じゃあ占わせて頂きますね。名前と生年月日を書いてもらって良いでしょうか?」
三人は紙に言われた情報を書いて綾小路に渡したら、女子高生占い師は何やら紙に数字や、よく分からない記号を書き留め始めた。よく分からないのだが面白くて何となく見入ってしまう。
「ではまず橘さん、このカードを切って下さい」
「はいっ」
切り終わって綾小路に渡すと数枚をテーブルの上に並べ、分厚い本を出して何やら調べ始めた。
「……ふむ。今後一ヶ月くらいだと……良く通う場所に人生の鍵がありそうですね。それを生かすも殺すも橘さん次第。特に精神的な意味で色々な体験をされるんじゃないかしら」
きっとお茶のみ喫茶だ。飲んだくれシスターズが顔を見合わせる。
「思い当たる節はあるよ!凄い!じゃあ次はあかねで!」
津田もカードを切り、綾小路がそれを並べて色々調べるが、眉をひそめ顎に手をやった。
「えーっと……何て言えば良いんでしょう。うーん。とりあえず端的に言いますと、悪意の無い人体改造をされてる。たぶん数年前」
二人が瞬時に津田を見つめる。知られざる津田の過去を知るチャンスだ。
「残念だけどそれは無いわ。手術だってした事無いもの」
とは言いつつメモはとる。
「そうですよね。私自身もビックリしてます。まあ占いなんで、そんなに気にしないで下さい」
最後は鍋島だ。
「鍋島さんは……食欲に負けると悲惨な目に遭う。結構近い未来です。気をつけて」
橘が吹き出す。当たるかどうかは知らないが、簡単に想像が出来る。
「あ、薫ひど〜い」
「割と良い線いってそうね。凄いわ。そうだ、ここに居ない人をみてもらう事って可能かしら?」
本当はカードは自身で切ってもらうのが一番良いらしいが、名前が分かれば可能との事だ。生年月日は分からないので名前だけ書いて渡す。
「大道時明美さん。復讐される。これも割と近いうちに起こりそうです」
これから起こるかも知れない他人の不幸を笑ってはいけないと思い、橘と鍋島は肩をふるわせ、下を向き必死に堪える。
「あら、素晴らしい占い結果ね。是非当たって欲しいわ」
「ぶふっ」
二人の体表面を薄く覆っていた善意の膜が津田の一言でプツンと破れ、腹の底の悪意が溢れ出した。だって面白いのだから仕方が無い。あの大道寺の身にどんな不幸が降り掛かると言うのだろうか。
あらかたみてもらったので、綾小路にお礼を言って代金を田中の金で支払った。記事にされた時の為に、綾小路の写真を津田持参のデジタルカメラで撮影し、占いテントを後にした。
開始直後の怒濤の勧誘作戦は終了したようで、辺りはだいぶ落ち着いた雰囲気を取り戻している。次は予定通りオカルト研究部に行けそうだ。一階廊下にはとんがり帽子を被っている宇宙人の模型が置いてあったので部を見つけるのは容易かった。部室内は遮光カーテンのお陰で日光が射し込む隙がない。そしてわざわざ本物のロウソクがいくつか置いあり、不気味さを演出している。典型的なマッチポンプ作戦だ。アンモニアのような、ゴムが焼けるような、形容しづらい臭いが充満している。
「あらあらいらっしゃい。入部希望?」
クラスメイトの杖先鋭実、通称エイミーが三人に気づいてやって来た。
「あ、エイミー。コスプレ似合ってるよ〜。今日は入部じゃなくて色々話を聞きに来たの、ごめんね」
「ふーんそう。別に良いわよ。じゃあこっちにいらっしゃい」
とんがり帽とローブの衣装、彼女の甲高く擦れた声や軽くウェーブの掛かったロングヘアーも相まって、その姿はさながら魔女のようである。
「どうぞ座って」
赤いどくろのスツールの上に丸いガラス板を敷いたテーブルにロウソクが一本置いてあり、赤い唇の形をした一人掛けの椅子が四脚用意してあった。サイケデリックなセンスに一瞬戸惑ったが三人とも腰を下ろし、コマンダー津田がかくかくしかじか説明する。
「それでオカルト研ね。納得したわ。そうね、うちの部の独自調査で判明したのは苅野管太郎校長についてかしら。校長の話がいつも眠くなるから何かあると思って、先輩が盗聴器を仕込んだのよ」
普通は何も無いから眠くなると考えてしまう。今まで校長の話を録音しようとした人間が居ただろうか、否。きっと西ヶ浜高校オカルト部が初に違いない。前代未聞の所業である。善とも悪ともつかないオカルト研の奇行に、三人は困惑の表情を浮かべている。
「それで音響部に調査を依頼したら校長の『えーっ、』の波形だけ変だって言うの」
頼む方も頼む方だし、律儀に調べる方も調べる方だ。モラトリアムのなせる技だろうか。
「……どんな風に変だったのかしら?」
「音響部によると一種の催眠効果、下手をすると洗脳効果もあるって話だったわ。明らかに人間の出す波形じゃないんですって」
想定以上の話で戸惑う三人。現実味が有るのか無いのか分からない。
「一応メモするけど、ある程度オブラートに包んだ方がいい気もするわ。まあ私が決める事じゃないけど。でもなかなか興味深いわね」
「そうでしょ。他にはかんゆう祭の語源ね。部活勧誘から来てるっていうのが専らの噂だけど、オカルト部は別の仮説もたててるの。観Uと歓幽よ」
「どっちもかんゆうなんだけど。字をこっちに書いてくれるかしら……なるほど、UFOを観る、幽霊を歓迎する、で合ってる?」
「その通りよ。実はちゃんと目撃情報もあるの。今年はそれを検証しようと思っててね。そうそう幽霊だとシリアルキラー研が何か知ってたわよ。他にも十年くらい前に自殺した女子生徒が居るらしいけど……」
「十年前って本当だったら生々しいし、噂にするには少し可哀想な気もするわね」
魔女と魔女がやり取りをしている。二人とも似た話し方、背格好をしているから段々区別がつかなくなって来た。名字が津田の方の魔女が、次はシリアルキラー研究部に行こうと提案する。橘と鍋島は室内に充満している異臭と揺れるロウソクの炎で頭がクラクラしながらも返事をした。出掛けに橘が鼻に手をやりながらエイミーに質問する。
「ねえ、この変な臭い何?」
「明日の後夜祭でキャンプファイヤーやるでしょ?それ用にちょっと仕込もうと思って。ちょっとした呼び水、呼び薬みたいな物よ、ふふっ」
「あはは、そうなんだ」
顔が引きつる。まさか爆薬じゃないだろうな、と心の中で密かに思った。シリアルキラー研究部に向かおうとしたところ、鍋島が休憩したいと言い始めた。確かにあの臭気と暗い室内は健康に良くない。
「あら、そうだったのね。私は慢性鼻炎だから気がつかなかったわ。じゃあ駄菓子研で休みましょう。シリアルキラー研もその近くみたいだし」
「ちょ〜可愛い!」
駄菓子研究部を見たときの鍋島の最初の一言だ。目を爛々とさせ外の装飾を貪るように観察している。まず、窓の無い白い壁は板壁で隅々まで覆われていて、てっぺんには黒字で「駄菓子研究部」と書いてある白い欄間看板が掲げられている。禿げたペンキやサビまで再現しているのだから凄い。その下には赤と白のストライプ模様のひさしが、屋内にもかかわらずキチンと取り付けられていて、ガシャポンやベンチも置いてある。可愛いのかは知らないがノスタルジー溢れる見た目なのは確かだ。昔懐かしのうまそうな棒や、大きいカツ、酸っぱいジャムなど、様々な駄菓子が室内の棚にずらりと陳列されているのは勿論、右の扉の入口奥ではエプロン姿の部員がたこせんやもんじゃをせっせと作っている。左奥には畳が敷き詰められていて、ちゃぶ台と座布団の休憩スペースまである。まだ昼前なので、そこで休んでる人間はまだ居ない。
ひとまず橘と津田が休憩場所を確保したが、鍋島は既にたこせんと駄菓子を買い占めており、会計を済ませようとしていた。
「ほらほら、えびせんにたこ焼き挟んでるからたこせんなんだって。食べ歩きも出来るし便利だねぇ」
先ほどの占いの結果など忘れてしまっているのだろう。二人が忠告しても食べるのに夢中でまるで聞いていない。鍋島は朝に豚骨ラーメンやステーキを食べられる強靭な胃を有しており、小食の民の津田はその食いっぷりを異星人を見るかの如く、目を見開いて凝視していた。ハッと我に帰り新聞部提供の資料を確認する。
「オカルト研はここにも載ってるわね、丁寧に杖先さんの名前まで書いてるわ。シリアルキラー研は……この資料だと入部者はまだ居ないみたい。でも他にもちらほらうちのクラスの人が入ってる部があるみたいね」
「田中情報じゃない?」
「ありえる〜」
「ていうかシリアルキラーってあれだよね、連続殺人鬼……」
橘が今まで誰も触れなかった事実に突っ込む。
「私グロいの無理〜、超怖い」
「展示内容にもよるわね、あまりにも過激だったら諦めましょう」
全員一致で決定した。血なまぐさい凶器や事件現場、犯人の狂気的な笑みを浮かべた写真を横目に情報収集するのは誰だって嫌だろう。しかしその予想は良い意味で裏切られる。
休憩を終えた三人が幾つか先のシリアルキラー研へ向かう。鍋島は歩きながら、手鏡で口にソースや青のりが付いていないか念入りに確認していた。
「ここね」
ホワイトボードの立て看板に黒いマジックで「シリアルキラー研究部」とだけ書かれている。壁におどろおどろしい装飾がしてあるわけでもないし、グロテスクな写真が貼ってあるわけでもない。
「あ、二階堂。今日眼鏡してんじゃん」
中に入ると同じクラスの二階堂広明が居た。ワインレッドの眼鏡をかけ、棚の書類を整理している。
「よう三人衆。コンタクトだと昼寝出来ないからコイツとよりを戻したんだよ。入部には見えないけどどうしたの?」
彼が部員なのは新聞部の情報に記載されていなかったが、知人が居た方がやりやすい。
「新聞部のせいで七不思議の噂探してるんだけどなんか知らない?幽霊とか。オカルト研が言ってたんだけど」
「あー、アイツらか。そういえば戦後間もない頃、旧市街地郊外で興味深い未解決事件が・・」
「いや、学校の中でなんか無いの?」
橘が二階堂の話を遮る。彼も橘の対応には慣れてるようで、
「はいはい、じゃあこれ区切りの良い所までやったら話すから、その辺に適当に腰掛けてて」
と言って作業を続けた。窓際に白いテーブルと椅子があったから腰掛ける。外では運動部が部活勧誘の為に汗を流していた。驚いたのは、当初考えていたシリアルキラー研とは大きく違い、部員が血糊のついた服を着ているわけでもないし、部室も小綺麗で良く整理整頓されていて気味悪い要素が見当たらない事だ。部費で購入したと思われる、型落ちのタブレットが数台、そして膨大なファイルが廊下側の「閲覧注意、自己責任」と赤字で張り紙された棚に仕舞われている。複数あるそれらの白い棚には、どうやら古今東西の犯罪に関する資料が眠っているらしく、二階堂と上級生数名がそれを整理していた。
「ごめんごめん、ちょっと時間かかった。で、なんだっけ?」
「オカルト研が学校に出る幽霊についてこの部が知ってるって言ってたの〜。でもシリアルキラー研て思ってたより普通?っていうか、グロくないね?」
「だって陰惨な事件てある意味結果みたいなもんだろ?この部活は何故そういう事が起きたか調べるのが主だから。勿論犯行の詳細は原因を知る上で重要だから、どうしてもグロテスクな要素は出て来ちゃうけどね。ニュースだって報道するのはセンセーショナルな内容だけだから、グロいとか狂気みたいなイメージが先行するのは理解出来るけどさ。俺はなぜ起きたのかを知りたい」
質問した鍋島は頷いているが多分よく分かっていない。
「……まああれだ、たこ焼きの表面見ただけだと、タコ入ってるのか分からないから実際穿り返して見てみようって話だ。外側のカリカリとかソース・鰹節がグロで内側のタコが原因、みたいな」
「なるほど〜!」
手をポンと叩く。彼女なりに理解したに違いない。それは多いに結構だが、例えでぐちゃぐちゃにされたたこ焼きが不憫でならない。
「あの、学校の幽霊についてそろそろ教えてもらっても良いかしら」
「そうだったそうだった。悪かったな、津田。この学校って元は市庁舎だっただろ?それで明治初期にここで働いていた職員の男が連続殺人鬼だったんだよ。今でいう住民票の管理をしていたから、それでターゲットを選んでいたわけだ。典型的な秩序型の殺人犯だな。最後の被害者が命からがら逃げ出して、男は捕まって死刑判決を受けたわけだが……ここで公開処刑されたんだよ、丁度今の校庭で、ギロチンでね。ギロチンて当時は人道的って思われてたから。それで幽霊が出るって噂が出たんじゃないかな、そこは興味ないど。あとそのギロチンもこの学校のどこかに残ってるんじゃないかって話だよ」
津田がシャーペンを走らせる音と部員の書類整理の音だけが聞こえる。橘と鍋島は顔をうつむけ、聞くんじゃなかったと後悔の表情を浮かべている。
「も……もうたこ焼き食べられない……」
「いや優花、そこは『もう校庭歩けない』でしょうが!」
「でも今までで一番七不思議っぽいわ」
すると書類の分別を終えた一人の上級生が近づいて来た。
「こんにちは、部長の衛藤京です。入部希望?……違うのか、残念。二階堂なかなか面白いでしょ。コイツはこの部活向いてるよ、期待のルーキー。普通陰惨な事件て目を背けたくなったり拒絶したりしがちでしょ?反対に不自然に誇張したりさ。それってきちんと知ろうとしないからだと思うんだ。こういうのを知るには自分のコンプレックスとかダークな面とも向き合わないといけないから。一種の自己防衛だよ、自分と同じ人間がやったんだって受け入れたくない。だから信じられないとか言って別の世界で起きた事にしちゃう。勿論殺人はダメだ、でも二階堂は真実を知ろうとぐいぐい突き進んでくのよ、客観性を失わずに。これは才能だ。早く入部して欲しいもんだよ」
良く喋る部長が新人を褒めちぎる。しかし一つ気になる点があった。
「は?二階堂部員じゃないの?」
二階堂が制服の胸ポケットにつけてる部活用の名札を指差す。そこには体験入部中と記されていた。
「コイツ普通に部室に入って資料見たりしてるからさ。もう入部届け出したのかなって思ってたのよ。でも顧問は知らないって言うから、昨日直接二階堂に聞いたらまだ入ってないって言うわけ。もう爆笑!」
なるほど新聞部の資料に書いてないのも納得である。
「二階堂を七不思議に加えても良さそうね」
「勘弁してくれ。それにもう入部するのは決まったから」
気さく(?)な部員達に見送られ部室を後にする。橘と津田はまだ何も食べていなかったので、小腹を満たすため再び駄菓子研に行く事にした。すると同じクラスの津軽りんごが声を張り上げ客を呼び込んでいた。
「今日は知った顔に良く会うわね。せっかくだから聞き込みしようかしら」
「じゃあ私二人のたこせん買っとくよ〜」
鍋島が列に並ぶ。昼時とあって飲食系の部に人が集まって来ている。
「あ、みんな買ってって!列はここね!時間?まあ少しなら良いよ」
津軽は赤髪のショートヘアーで、いつも茶色のカチューシャをつけている。名前も見た目もりんごそのものだ。小柄な為、親しみを込めて手乗りんごと呼ばれる事もあるが、本人は気に入っていない。
「七不思議ねぇ。そうだ、このひさしとガシャポン、結構古いでしょ。これはOGが手に入れた物なんだけど、少し変な噂があってね。文化祭用の飾りを探して旧市街をさまよってたら、急に頭がくらっとしたんだって。そしたら目の前に古い駄菓子屋が建ってて、中に入ってみたら一人のおばあちゃんが居て『もう店を畳むから欲しい物あったら何でも持ってって良いよ』って言うからこの二つをもらったらしいの」
「おばあちゃんビックリだよね、普通お菓子とかじゃん」
「あははっ、そうかも。それで重いから他の部員を電話で呼んで、持って行くの手伝ってもらう事にしたらしいの。それで後日お礼にその駄菓子屋に行ったら……無いんですって、お店が。近所の人に聞いたら駄菓子屋が店を閉めたのは何年も前で、おばあちゃんももう亡くなってるって」
怖いのだがどことなく橘の体験談と似ている。彼女の場合、本来ならあるはずの店が無かったのだが。校内の出来事ではないが、元生徒の経験談なので津田はメモをとり、年季の入ったガシャポンとひさしを撮影した。
「はい、これ二人の」
鍋島が田中の金で買って来たたこせん二つを渡す。自分はちゃっかりもんじゃを買って来ている。
「まいど!」
津軽が溌溂とした声でお礼を言った。
「中はもう人が居るから外で食べない?いい天気だよ〜。吹奏楽部が外で昼から演奏するんだって〜」
三人は外へ向かう。占い同好会も好評を博していて列が出来ていた。校庭に設けられているベンチの一つに座る。既に吹奏楽部は着々と準備を進めていて、エスニックな赤や紺のコートと帽子を身に着け、見慣れない楽器を手にし、隊列を組んでいる。大きな旗や、鈴のついた錫杖の様な物を持つ部員も居た。すると突然先頭の人間が何かを叫び、けたたましい太鼓とシンバルの音が鳴り響き、オーボエに似た音の楽器がメロディーを奏で始めた。その威圧感と高揚感に呆気にとられる飲んだくれシスターズ。当初想像していた吹奏楽とは大分違うので、津田がしおりを確認する。
「吹奏楽部、もといメフテル部ですって。トルコ軍楽だそうよ。運動部の応援に駆り出される事もあって、この演奏を聴く為にわざわざ試合を見に来る人も居るみたいね。部のモットーは『兄弟に栄誉ある死を、敵に悲惨な最期を』らしいわ」
「敵味方関係なく殺す気満々じゃん」
「可愛くはないけど、この音楽テンション上がるね〜」
鈴を鳴らし、ゆっくりと校庭を練り歩く軍楽隊を見ながら、たこせんともんじゃを頬張る。彼女達の七不思議探しは二日目へと続き、鍋島には不幸が襲いかかる。
〜続く〜
読んで頂きありがとうございます。
チラシを口に入れるのは窒息する危険もあるのでマネしないで下さい(笑)
後半も変な部活がちょっと出てきます。