第14話 すれ違い
次回わ最終話です
第14章 事故
沙智:「真次くん、大丈夫かなー?」
寺井:「あいつは、いままで洋子ちゃん以上に惚れた子はいいひんねん。そういうとこ、結構硬派やったしな」
沙智:「そうね!あたしの時もそっけなかったしね!」
寺井:「うん? 何て?」
沙智:「うんうん、なんでもないよ。」
洋子:「真次! 気にしてる?」
真次:「気にしてへんって言うたら、うそやな!」
洋子:「あたしがちゃんと、真次に言っといたら良かったんかな。」
真次:「どやろな? 結果はもっと最悪やったかもしれんな!」
洋子:「真次・・・今までどおりのあたしらでいられるかなー?」
真次:「どやろ? わからん! 洋子の事信じてるやけど、俺の中でしこってるわ!」
洋子:「あたしはどうしたらいいの?」
真次:「俺にも、わからん!」
洋子:「一緒に居られへんのかなー?」
真次:「ちょっと、距離置いてみるか?」
洋子:「いややー! そんなんいややー!」
真次:「別に別れるって言ってへんやん。 ちょっとの間逢わへんだけやん。」
洋子:「いやー!」
真次:「俺、明日から筑波へ行かなあかんねん。 テスト受けに。 その間だけや。」
「ちょっと、俺も頭冷やせるかなって、思ったんや。」
洋子:「どれぐらい行くの?」
真次:「1週間!」
洋子:「あたしも行くー!」
真次:「別に、帰ってきいひんわけとちゃうんや。 その間だけで・・・」
洋子:「連絡はくれる?」
真次:「帰るまで、無しにしよ。 集中もしたいし。」
洋子:「絶対帰ってきてなー!」涙を流しながら言った。
真次:「大丈夫や! その時はもっと洋子の事好きになってるし。」
洋子:「うん!」
翌日、真次は筑波サーキットへと旅立った。
洋子の店に、裕子から電話が掛かった。
裕子:「洋子ちゃん!元気? 真次くん筑波へ行ったらしいわね。」
真次は昨夜、相談に乗ってもらった裕子にお礼の電話をしていたのだ。
裕子:「洋子ちゃん、もしよかったら家へ来ない? もちろん真次くんが帰るまででいいわよ!」
裕子の申し出に洋子は助けられた。真次を待ってるだけなんて耐えられないから。
洋子:「いいんですか? ほんまに?」
裕子:「いいわよ。明日でも明後日でもいいから来る時連絡頂戴。」
洋子:「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます。」
洋子は翌日、裕子の家に向かってバイクを走らせた。
洋子が旅立った日、真次は筑波サーキットでテストを行っていた。
4時間耐久で走った優勝マシン、2ストロークの125cc、250cc。およそ5日間の日程で行われる。
真次はここで良い印象を持ってもらうと、来年もレースが出来るのだ。わずかだがスポンサーも付く。
一方洋子は、夏に真次と走った道を思い出しながら走っていた。
いつもは、真次が前を走ってるのを付いて行くだけだが、ペース配分やコーナーへの入り方、どんなスピードで走って行けばいいのか?、どのギアに落としてコーナーに向かって行くのか?。
洋子は不安なまま裕子の家を目指した。以前に真次と行った時より1時間以上も余分にかかった。
だが、裕子はまだ仕事から帰って来てなかったので、待たせてもらうかとにした。
洋子は待つ間、近くの海岸を散歩すことにした。真次の事を思い浮かべながら。
真次が何故、距離を置こうといったのか、どうして、真次に結婚してたことを話さなかったのか。
洋子は海に日が沈むのを見ながら、考えていた。
「あたしがわがままだったの? 真次にふざけて平手を打っても、あたしを振り向かせるため?
一緒にバイクで走っていて、スピードを上げたり下げたりしていたのはあたしを見ていてくれたの?
そう!あたしからは目をはなしてない。確かにここに来るまで、真次の存在を感じていた。」
「あっ! もしかしたら、あたしがここに来ることも知ってるの?」
「洋子! 何考えこんでるの?」裕子が帰って来た。
洋子:「裕子さん。 教えてほしいの、真次はここにあたしが来る事わかってたの?」
裕子:「洋子ちゃん、不安なの?」
洋子:「裕子さん、あたしどうしたら・・・・?」
裕子:「とりあえず家、行こっか!」
裕子の家で、3人で夕食を取り、裕子と洋子は一緒に風呂に入った。
裕子:「母が居ないほうが話しやすいでしょ。」
洋子:「さっきの答えは? 真次は知ってるの?」
裕子:「それはわからないわ。でもね、洋子さんの事で電話があったのよ。 2度ね。」
洋子:「何て、言ったの?」
裕子:「1度目はね、あなたに嫌われてるっていったわ。それから浮気してるかもって言ってきたわ。」
「でも、真次くんよっぽどあなたがいいのね。私も真次くんみたいな子好きよ!でも沙智さんと
同じだって言われたわ。」
洋子:「たしかに・・・・浮気って言われてもしょうがないわ。あたしが結婚してたの黙ってたんだから。」
裕子:「それも聞いたわ。でも真次くん、あなたを信じてるわよ、はっきりは彼は言わないけど、浮気の疑いは晴れたっていう事は、はっきり言ったの。後は絆ね。」
洋子:「絆?」
裕子:「あなたたち、あたしと逢った時はちゃんとあったじゃない。でもまだ浅かったかな?」
「いろんな事があると思うわ、これから先。 もっと深めればいいんじゃない。」
洋子:「真次ね、あたしが平手打ちする時も避けないの。バイクで走ってる時、ずっとミラーであたしを
見ているの。あたしが流産した時ずっと側に居て手を握ってくれたの。」
裕子:「だから、私も沙智さんも入る余地ないのね。 大丈夫よ、真次くんを信じなさい。」
洋子:「でも、今は筑波に行って声も聞けない。」
裕子:「あなた、顔見ないとだめとか、声が聞けないとだめとか、それがあなたのわがままじゃない。」
「彼の仕事とか生き方とか将来とか、考えたことある?」
洋子:「そうよね。 今まであたしの事ばっかり言ってた気がする。」
裕子:「信じてあげなさい。 真次くんも考えたいのよ。」
洋子:「うん!わかった。 ちょっとは時間かかるけど。」
裕子:「いいのよ! でも真次くん二人のこの姿見たらどっちを選ぶでしょうね。」
洋子:「やっぱり、裕子さんよ! スタイルいいし」洋子はやっと笑った。
裕子:「そう! じゃあ二人別れたら、彼と付き合ってもいい?」
洋子:「それは、だめ!」 お互いに、話題を笑いに代えてのぼせそうになりながら長い間、風呂で語り合ってた。
裕子は昼間は婦人警官としての仕事があるので、裕子の母に洋子をあずけた。
昼間は近くのフィッシャマンズワープで働いていたので洋子はその手伝いをしていた
夜になると、裕子と真次のことや冗談を交えて語り合っていた。
そのころ真次は、筑波サーキットでテストの真っ最中だった。時には、東京まで出向きスポンサーと酒を
交じわすわすこともあった。
最終日、真次は2ストローク250ccのワークス仕様のマシンに乗る事が出来た。
真次は、今までのマシンとはパワーで差があるのはわかってたが、これほどまで体感的に差が出るとは
思ってもいなかった。
ピットサインを見てスパートとした真次は、チームのエースライダーより好タイムを出していた。
何週目かを走り最終コーナーへ指しかかった時、マシンがスライドした。
マシンは大破し真次はエスケープゾーンへ投げだされ、地面に叩き付けられた。
救急車が来た。真次には意識はないまま病院へと担ぎこまれた。
すぐに、湯沢の方に連絡があった。湯沢は寺井と連絡を取り、寺井は沙智と連絡を取った。
ちょうど洋子は裕子の家を後にし、裕子も非番を取って洋子と一緒に走ることにした。
裕子の家の電話が鳴ったが時すでに遅かった。出た後だったのだ。
湯沢と寺井は、急いで真次の搬送先の病院へ向かった。
湯沢:「夜には、着くやろ!」
寺井:「真次の様態がわからへんしなー。 後で、沙智に連絡してみるし。」湯沢と寺井はもう新幹線の中だった。
裕子と洋子は休憩中
裕子:「真次くんと逢うの楽しみ?」
洋子:「うん!そらー・・・・。 でもー?真次、許してくれるかなー?」
裕子:「大丈夫よ! あたしでも、沙智さんでもなく、洋子ちゃんだから!」
「だから、自信もって!」
洋子:「うん! 真次の事も考えてあげなきゃね!」
裕子にはそう言ったが、まだ洋子には不安があった。
寺井と沙智
寺井:「沙智! 洋子ちゃんと連絡取れた?」
沙智:「うんん? 何回も電話してるんだけど全然つながらないの。 もうこっちへ向かってるかなー?」
寺井:「たぶん、そうやろう! 真次が帰って来るまでに洋子ちゃん、帰っとくつもりやで。」
沙智:「それなら、夕方には帰ってくるわね。」
寺井:「筑波にこれんのは明日以降やな。 また病院着いたら電話するし。」
裕子と洋子は峠からの下り坂にさしかかっていた。
裕子も真次と同じように、洋子をミラーで確認して走っていた。
裕子が右コーナーに指しかかった時、対向車線でオーバースピードで走る車を見た。
「あぶない車ね。」裕子はヘルメットの中でつぶやいていた。
ミラーを見直した。ミラーには洋子は写っていない。「あれ?洋子ちゃん来ないわ?」
スピードを落として洋子を待つことに。まだ、来ない。裕子は引き返す事にした。
Uターンして、裕子が目にしたものは!
湯沢と寺井は、まもなく東京駅に着くころだった。湯沢は東京駅に近くの知り合いのバイクショップと連絡を
取り、2台のバイクを用意してもらっている。
自動車で行くよりバイクで行くほうが、早いと確信していたから。
東京駅に着き、二人はさっそくバイクに乗り換え真次の居る病院に向かった。
喫茶『Kai』に一本の電話が掛かった。 沙智は洋子からだと思った。
沙智:「はい!喫茶『Kai』です」
「・・・・・裕子といいます。沙智さん? 今、洋子ちゃんが・・・・・・・」
沙智は受話器を落とした。
寺井と湯沢は病院に到着した。湯沢は、そこのチーム関係者に簡単にあいさつを済ませ、真次の居る病室へ
向かった。『面会謝絶』の文字。
湯沢がチーム関係者に容態を聞いたところ、肋骨が折れ、肺に突き刺さった。他にも骨折やら打撲などで
重症らしい、医者によると意識が回復するまでは絶対安静だった。
寺井は、沙智に連絡した。
沙智:「・・・・・はい喫茶『Kai』です」沈んだ声だった。
寺井は沙智の様子がおかしいのに気づいてはいたが真次の容態を洋子に伝えようと必死だった
寺井:「沙智!真次は意識はないけど命には別状なさそうや!」
沙智:「・・・・・・・・・」電話の奥で泣いているのが寺井に聞こえた。
寺井:「沙智!どうしたん?」
沙智:「・・・洋子が! 洋子が!」
寺井:「えっ? 洋子ちゃんがどうしたん?」
沙智:「洋子が・・・・亡くなったの。」もう、沙智は声が出せないぐらい泣きまくってる。
寺井はもう沙智に返す言葉が見当たらなかった。
寺井の頭の中は真っ白になった。
呆然と立ち、公衆電話の受話器も置かず、沙智とも言葉は返せない。
湯沢:「寺井!どうしたんや! 寺井!寺井!」
湯沢に体を揺され、我に返った寺井は「・・・洋子ちゃんが・・・死んだ・・・・。」
湯沢:「えっ? 何?」
寺井:「洋子ちゃんが死んでしもた。」
湯沢:「なんやてー!」
寺井は真次の病室に走り『面会謝絶』の扉を開けようとしたが、周りの関係者に取り押さえられた。
寺井:「真次!起きろ! 洋子ちゃんが・・・洋子ちゃんが死んだんやぞ! 起きろ」
関係者や看護師が暴れ回る寺井を病室からとうざけた。
そのころ、わずかに意識が残っている真次は夢を見ていた。
喫茶『Kai』で子供の出来た洋子と3人で、店を流行らせていた。
カウンターの中に洋子と沙智の姿、その席に真次と寺井。そして藤田や湯沢、悦子さん、岡崎、広川も。
そして裕子さんも。しかし、みんなで何を話してるのかよくわからなかった。
ただ、真次の腕の中には洋子との間に出来た赤ちゃんを抱いていた。
愛らしく、少し生意気っぽい女の赤ちゃんは洋子そっくりだ。
洋子は真次の期待どうり女の子を産んだから感謝しろ!と言ってみんなで大笑いしているところから
また、意識が遠退いた。
事故から5日後、真次は意識を取り戻した。一度は意識を取り戻したが再手術のため再度、麻酔を
打たれたので、ここまで意識回復が遅れた。
目が覚めた真次の目には洋子の姿は無く、寺井、沙智、裕子の姿が見えた。
真次:「寺井か?・・・・・・洋子は?・・・・ 俺はどうしたんや?」
裕子:「真次くん。 ごめんなさい。洋子ちゃんは来れないわ。」
真次:「そうか、俺があんな事言うたしか。」
裕子:「違うわ!洋子ちゃんは誰よりも真次くんが大事なの!」
真次:「さっちゃん!洋子は?」
沙智:「うっっっうっわーん」沙智は病室を飛び出した。
真次:「なんや?寺井!喧嘩したんか? さっちゃん泣かして。」
寺井:「真次!違うねん・・・・・洋子ちゃんな・・・・洋子ちゃん・・・・・うっっっっ」寺井も涙した。
真次:「なんやねんお前ら、俺ー、生きてんねんぞ! お通夜みたいな顔して。」
裕子:「そうなの!洋子ちゃん亡くなったの・・・・・」
真次:「えっ!・・・・・・・・・死んだ!・・・・」
裕子がUターンして見たものは、乗用車とガードレールに挟まれた洋子だった。
裕子はバイクを止め、運転手の男をヘルメットで顔面をぶっ飛ばした。
裕子:「洋子!洋子!しっかりして!目を開けるのよ。」
側を通りかかったダンプの運転手が救急車を呼んでくれた。救急車には裕子も乗った。
裕子:「洋子!しっかりして、目を開けて!」
洋子:「うっうっうう・・・・・・真次・・・・」
病院に担がれた洋子は医者が手を下す必要はなかった。
裕子は婦人警官である事を自覚して、喫茶『kai』に電話を入れた。
沙智:「はい!喫茶『Kai』です」
裕子:「・・・・・裕子といいます。沙智さん? 今、洋子ちゃんが・・・・・・・」
裕子が持つ受話器の向こうで沙智が受話器を落とす音が聞こえた。