【平塚芽衣は頼りになる。】
あの二人にはほとほと参っている。
世の中の男子というのはライトノベルにあるようなラブコメを求めていると思うが、僕は違う。
恋愛というのは面倒で特に高校生という子供と大人の中間みたいな曖昧なところにあるので非常にやりにくい。異性というだけで物怖じしてしまう僕は今の状況に鳥肌が立っている。
「しかし、何で僕がこんなことを」
現在、僕はいつもな退屈の授業を終え静寂に包まれた教室で書類の整理をしている。いじめに関するアンケートをすべて回収できているか、きちんと記入がされているのかの確認だ。
帰宅部で委員会にも属していない僕がこんなことをする義理などないのだが彼女の頼みならば仕方がない。
「ごめんね仁善くん。もう一人の委員長は部活で忙しいらしくて……でも、これは今日中に片付けたくて」
目の前で申し訳なさそうに頭を下げるのはクラス委員長である平塚 芽衣。
彼女は僕の中で癒しだ。
ここで勘違いしてはいけないのは僕の周りにいる女性の中で彼女が唯一の常識人だからである。決してそこに彼女に対する恋愛感情は毛ほども芽生えていない。
「別に委員長が謝る必要はないよ。悪いのは、流れで委員長になったはいいものの仕事が面倒で適当な理由で逃げてるもう一人の委員長なんだからさ」
ああいう連中は僕の苦手な人種だ。後先を考えず阿保みたいに騒ぎ、その後始末を下層の者どもにやらせるという鬼畜の所業を笑顔でやってのける。その光景には感銘すら覚える。
「まあ、私は平気だから。それよりも私に要があるんだったよね」
そうだ。
自己中な奴らのことで苛立っている場合ではない。どうせ奴らは僕の人生にかかわってくることはないのだ。綺麗さっぱり忘れてしまおう。
「学園の相談役である委員長に少し聞いてもらいたいことがありまして」
「そんなに畏まらないでよ。それに、その相談役っていうのはやめてくれない? ほかの人に聞かれたら恥ずかしいから」
「いやいや、学園の相談役っていうのは僕じゃなくて他の連中が言ってるぞ」
彼女は困っている人を放っておけない人間で、そんな人を見かけては手を差し伸べてきた。かくいう僕も彼女に助けられたうちの一人でこうして話せているのはその件があったからである。
「そ、そうなんだ……。でも、直接言われるのが恥ずかしいのでいつも通りでお願いします」
「委員長がそう言うなら……」
恩人のお願いは無下にはできない。まあ、呼び方など何でもいいのだが。
相談役というかっこいい呼び方は却下され、そのままなかったことにしようと芽衣は勢いで話を進めようとする。
「それで、どんなご相談なんですか? こんな雑用を手伝ってくれるということはそれなりの悩みだと思いますけど」
「これに関しては日ごろの感謝の印だよ。僕なんかにできることは限られているけどこれで委員長の負担が減らせるなら本望だよ」
つい先ほど愚痴をこぼしていた男が何を言ってるんだかと思われるかもしれないがこれは本心だ。
「うん。ありがとう。でも、私は大丈夫だから仁善くんのことを教えて」
この聖母のような優しさ――彼女は生まれてくる世界を間違えてしまったのではなかろうか。天界でそれなりの地位を与えられる天使、もしくは女神になってもおかしくはない(断言)。
しかし、そんな彼女でも芦森 文葉に見せた文面と同じ内容のことを伝えると笑顔を保つことはできなかった。