「舟口華帆はお喋りな後輩である。」
「おはよっす、仁上先輩っ!」
「相変わらず、お前は元気だな舟口」
「嫌だな〜そんな他人行儀がじゃなくて華帆って呼んでほしいっす」
「絶対に嫌だ」
「先輩のいけず〜。それにしても、いつにも増して元気がなさそうですけど何かあったんですか?」
「あるにはあったけど、僕はそこのところ顔に出るような人間ではないと自負しているんだが……」
「こう見えても私は人を見る目があるんですよ。その界隈では有名なんですよ」
「どの界隈だよ。それなら、図書館にいる絶対に喋らない奴のことはどう思う?」
「えっと……すいません。そのような方を知らないので何とも言えないっすね」
「そうなのか? あいつは結構、有名人だと思ったんだがな。お前みたいなトップカーストの人間は図書館にいる本の虫なんか知らないか」
「む? 先輩、そんな言い方はないんじゃないっすか。トップカーストになった気はないですけど、良い人たちばかりですよ」
「それは相手がお前だからだろうさ。もし、僕だったら無視してくるだろうぜ。身内と人気者以外には恐ろしく非情になるのがトップカーストという生き物だ。お前がああならないように切に願うよ」
「先輩はトップカーストの人たちに両親でも殺されたんっすか?」
「僕の両親は海外で絶賛働いてるよ。まあ、良心は奴らに殺されて、こんなに捻くれて育ってしまったけどな」
「そんなことないっすよ。先輩は捻くれてなんてないっす。その証拠に嫌な顔一つせずに、こうして私と一緒に下校してくれてるじゃないですか」
「忘れているようだから言うが、別に僕はお前と下校するのを許可してるわけじゃないぞ。お前が執拗に話しかけてくるから甘んじて受け入れることになったんだろうが」
「あれ? そうでしたっけ? まあ、細かいことはいいじゃないですか。それで一体何が原因で先輩は元気がないんです?」
「話を逸らしたつもりだったんだが……まあ、どうせお前に話しても何の解決にもならないだろうから言う気は毛ほどもないが」
「そんな冷たいこと言わないでくださいよ。せっかく、こんな可愛い後輩が悩みを聞いてあげるんですよ。むしろ、感謝してほしいくらいっす」
「ああ、涙が出てくるね。自分の人望のなさに。悩みを聞いてくれるがお喋りな後輩だけとは……」
「な〜んっで、そんな大きなため息をついてるんすか?」
「だって、お前どうせ成績悪いだろ」
「先輩、成績が良いとか悪いとか関係ないですよ」
「なら一度くらいテストの結果を見せてくれてもいいんじゃないか?」
「過去は振り返らない主義なので」
「いや、テストは振り返った方が良いだろ。赤点になっても助けてやらないぞ」
「ぜ、全然平気ですよ。赤点になんて絶対にならないっすから」
「それならこっちを向け。僕と話している暇があるなら勉強してろ」
「ああ、ちょっと何でそんなに早く帰ろうとしてるんですか? 別に何もすることないっすよね?」
「失礼だが、その通りだ。けど、ほとんどの高校生は帰ってもやることなんてないんだよ」
「まさか開き直るとは……流石っす」
「はいはい。それじゃあ、僕はこっちだから」
「あら? 可愛い後輩とお別れだというのにそんなにあっさりしてて良いっすか?」
「別に構わないよ。それよりも可愛い妹が我が家で待ってるんでね」