芦森文葉は軽蔑する。
青春とは何か?
それを問われても僕は答えられない。何せ青春の時代である高校生活をここ図書館で無下に過ごしているからだ。
高校生ともなると恋人の一人や二人つくって、そいつとよろしくやっているのだろうが残念ながら僕はそんな無意味なことに時間を使いたくはなかった。
とはいえ、何の夢も目標もない僕にやることなどはなくこの図書館にある本を全て読破してやろうという無謀な挑戦を始めている。
一ヶ月、この苦行をしていて気づいたのだがどうやら僕と同じようなことをしている生徒がいるのだ。
この目で見たわけではないが、貸し出しカードをふと見てみるとある人物の名が多くの本にも刻まれているので興味がなくとも知ることとなる。
しかも読破をしようとしているのだからライバルになり得る存在を把握しようとするのは当たり前だろう。
だが、僕と彼女が関わり合うことはないだろうと思ったのだが現在僕の目の前にはその生徒がいた。
何故、このような状態になっていると実は彼女とは知り合いなのである。
知り合った経緯については省くとして問題なのは彼女ーー芦森 文葉はとてつもなく無口であるということだ。
こちらから何度話しかけてもその口は接着剤でくっ付いているのではないかと思えるくらいで彼女の声を聞いた者は幸せになれるという噂が流れる始末。
僕もその恩恵に肖りたいところであるが、残念ながらまだ一度も彼女の声を聞いたことがない。
口を開けるのは食事をする時と息をする時だけという精巧に作られたロボットなのではと疑ってしまうほど異質な存在。それ故に彼女の周りには人がいない。
異質な存在は受け入れられず、こうして淘汰される。本当に学校って社会の縮図を学ぶのにはもってこいの場所だ。
それでも僕が彼女と一緒にいられる理由は僕もまた異質な存在であるからに他ならない。
類は友を呼ぶというが、こいつは友というよりただの腐れ縁でそういった関係ではないのだが今日はどうしても聞きたいことがあった。
喋らない人間とどうやってコミュニケーションを取るかというと文通である。
文通といってもノートに伝えたいことを書き、それに返事を書いてもらうというだけ。
別にノートである必要もないし、僕の方が筆を取る意味もないのだがここは図書館。
他の生徒の迷惑にならないよう、静かに静かにーーまるで裏の取引をするかのごとく、質問を記載したノートを渡す。
そしてそれを読んだ文葉は蔑んだ目をこちらに向けるのであった。