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東方野外活動記録  作者: Deep forest
幻想の行楽
6/8

危険なキノコ狩り刈り

「魂魄妖夢」は庭師である。それも死者の霊魂が転生を待つ冥界に存在する「白玉楼」の庭師であり、剣術家でもある。

主の従者であり、護衛であり、剣の指南役でもある。断じて家事手伝いではない。

半人半霊という特殊な種族であり、とても立派な人物だった祖父は今の彼女が担っている役割の前任者だ。代々仕えていると言えるだろう。


「なのにどうして私は今こうして大鍋で野菜を煮ているのでしょうか?」


「あらぁ、妖夢ちゃん今日のお料理もとても美味しそうだわ。少しだけ味を見てあげましょうか?」


「幽々子様の台所への立ち入りは禁止したはずですよ。人里で買ってきた草餅がそこにありますから、それを持って大人しく居間で待っていて下さい…って!もう食ったんかい!!」


白玉楼の主である「西行寺幽々子」は亡霊である。冥界に集まる霊魂を統率するのが彼女の役目であり、死を操る程度の能力はその字面通りで幻想郷の中においても五本の指に入る超危険性質を持っている。


だが、食いしん坊である。


白玉楼に人の形を保った存在は彼女ら二人しかいない。それに対して集まる霊魂の数はとにかく多い。閻魔大王から任ぜられた役割だが、生半可な能力で管理することは不可能であろう。幽々子はそれをほぼ一人でやってのけるのだから、その高い能力は役割に見合っている。


だが、食いしん坊である。


「亡霊に本来は食事なんて必要無いんですよ。でも、私がたまたま作った料理をあまりに美味しい美味しいとおっしゃるものですから、こうして毎日作るはめになってしまいましたけどね、いくらなんでも食べ過ぎですよ!」


「うふふふ、それは美食家にとっての業とでもいうものかしら。」

扇で口元を隠しながら妖しく笑うその姿はゾッとするほど艶やかな美しさを醸し出しているが、ちょっと何を言っているのかわからない。


「とにかく!もうすぐ出来ますから、居間で今しばらくお待ち下さい。」


「はぁーい。」


全く、困った主である。しかしながら、従者としてはこのような態度は改めなければならないのだが、当人が「堅苦しいのは嫌いよん♪」等と飄々とした感じなので、ついつい甘えてしまう。それが彼女の度量の大きさであり適度な距離感なのかもしれないが。


ついさっき今日2回目の食事を出した気もするが、午前中に出された物は全部朝食だと主張する主の我儘に従って、少し遅めの昼食を運びながら、妖夢は祖父がいた頃のことを思う。


「あの頃の幽々子様ってもっとおしとやかで食事もお茶請けのお菓子くらいしかお召し上がりにならなかったのに。」

いや、食事の時以外は今でも気品に溢れたお姿ではいらっしゃるのだが。


居間へと続く回廊を歩いていると、この白玉楼の象徴とも言える桜の大木「西行妖」の下でそれを見つめる幽々子がいた。憂いを含んだ、悲しげな顔だ。こんな幽々子を今までも何度も見た。ほっぺたを膨らませながら飯はまだかとぷりぷり怒っている時と正反対の顔である。


「幽々子様ー!昼食をお持ちいたしましたよー!」


妖夢がそう呼び掛けると、幽々子はニッコリと笑うと同時に両手をプラプラさせながら走り寄って居間へと上がり、着座する。


「御手は洗いましたか?」


「さっき手水鉢で洗ったわよん。さあ、今回は何を作ってくれたのかしら?」


「幽々子様のお好きな物ですよ。はい、どうぞ。」

妖夢は皿に食事をよそって幽々子の前に差し出す。


「…。」


「幽々子様?いかがなさいましたか?」


「…。妖夢ちゃん、これは何かしら?」


「何?ってカレーですよ。お好きでしたよね?」


「カツが入って無いわ。カレーは飲み物よ。カツが入っていないカレーなんて食事とは言えないわ。」


「黙って食えやゴルァ!!」


ズガァァァァァァァン!!!!!!


「「キャアアアア!!」」

妖夢の怒りが爆発した瞬間に轟音とともに居間の屋根が吹き飛んだ。


「幽々子様!ご免!」

妖夢は幽々子を食卓の下へ突き飛ばし、背中の剣を抜いて構える。

天井の一部が消し飛んでいたが、落下物はあまり無かった。

その跡は光線のような何かが通り抜けたような有り様だった。


「ほ、星が見えたわ…。」


「幽々子様!申し訳ありません。頭を打たれましたか?」


「違うの。天井が壊れた瞬間、星屑のような物が見えたのよ。」


「光線…、星屑…なるほど、よくわかりました。」

破壊となればたくさんいる。光線と言えばこれもたくさんいる。ただし、馬鹿みたいなパワーと星屑と言えば一人しかいない。

「おのれ魔理沙ーーー!叩斬ってくれるわ!」

妖夢は阿修羅のような形相で白玉楼を飛び出そうとした。


「待って妖夢ちゃん…。助けて…。」


「幽々子様!?やはりどこかお打ちになられましたか?」


「カレーが…。私のカレーが…。」

食卓にはひっくり返ったカレーの皿が転がっていた。


「はぁ…。カレーはまだ台所にありますから、少し待っていて下さい。カツも揚げて参ります。」


「頼んだわよぉぉぉ、お腹が空いて死んじゃうわ。」


「元々生きてないでしょうが…。」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



私は一体どうしたというのだろうか。妖怪の山をいつものように飛んでいたはずなのに、気を失っていた?ここは森の中?身動きが取れない?手足を縛られているのか?いや、これは全体が何かに覆われている感じだ。身体が二つ折りになって、地面しか見えない。意識がだんだんはっきりしてきて、何か声が聞こえる。


「これもうほどけないぜ、切るしかないな。」


「ちえっ、この烏天狗様はいつも間が悪い。これ作るのけっこう大変なんだよ。」


「でも、このままってわけにはいかないだろ?焼鳥用の肉はひとまず諦めようぜ。」


にとりは本当に渋々ながらポケットからハサミを取り出し、網の絡まった部分を切る。さつまいもの茶巾絞りみたいになっていた文がようやくその姿を取り戻す。


「いやぁー、また小町さんが一瞬見えましたよー、って!!一体何するんですか二人共!」


鳥を捕まえるために霞網を仕掛けようとした所に飛び込んで来た「射命丸文」は見事に網にくるまって、そのまま墜落。かなりのスピードが出ていたらしく、落ちた衝撃で気絶してしまった。

霞網とは本来、鳥がその網に止まって再び飛び立とうとする際に踏ん張りが効かなくて飛び立つことが出来なくなるのを利用した猟具なのだが、にとりが作ったものは迷彩機能で見えなくなる部分ができるような素材が編み込んであり、どちらかというと、止まろうとした鳥が絡め取られるような感じになっている。

だから一度絡まってしまうと、ほどくのに時間がかかる。

今回の場合、もはや絶望的に絡んでいたため、いくらやっても解くことができなかった。


その間、文は大人しく眠っていたが、起き抜けから騒がしく喋りだすところを見ると、元気そうで何よりだ。しかし…。


「悪かった、わるか、、、ったって、プクククク…。」


「そ、そうだよ、こ、こっちも悪気があったわけじゃ…あはははは!」


「この期に及んで笑うとは一体何なんですか!?」


「だってさ、にとり、ちょっと文に鏡を貸してやれよ。」


にとりの差し出した手鏡に文が顔を映すと、顔いっぱいに網目模様が付いていた。いや、肌という肌に網の跡がくっきり付いていた。


「妖怪網タイツ女。」


「ちょっと、魔理沙やめてよ、あははは!」


「二人共、さすがにそいつは酷いんじゃないですかねぇ。。。」


「「ごめんなさい。てへっ。」」


これで文を夜の宴会に呼ばなくてはならなくなった。ついでに無制限の取材許可まで取り付けられてしまった。

まあ別にそれ自体は問題は無いのだが、今回は多少はあることないこと書かれてしまっても、目を瞑るしかないだろう。


にとりは魚と八ツ目鰻を捕りに一度川の方へ戻って行き、魔理沙は当初の予定通り、キノコの採集に向かった。


山林の獣道を進む。キノコはあまり陽の当たる場所を好まないので、暗くジメジメしたようなポイントを探すことになるが、鬱蒼とした感じは魔法の森と同じようなところがある。しかし、瘴気が出ていない分、空気が澱むこともなく、むしろ苔のむす岩や原生林のありのままの自然がまた神秘的な雰囲気を醸し出していた。博麗神社の床下にあった物の中で、本当に武器っぽかった「マチェット」という山刀で柴を切り開いて進む。

そうした中で、魔理沙は朽ちて倒れた大木を遠目に見つけ、その道筋にある漆の木に触れないよう注意しつつそこを目指した。


思った通りだ。妖怪の山ではあまりキノコを採らないらしい。

銀杏の木だったと思われる朽ちた大木の周囲はキノコの群生地帯だった。


春から初夏のキノコと言えば、アミガサ茸、ハルシメジ、タマゴダケも出始めながら少しあった。あと、お馴染みのシイタケやキクラゲも。魔法の森の化物キノコと違って、妖怪の山のキノコはごくごく常識的なキノコばかりだ。

手付かずになっていたキノコの群生地帯から採集したキノコで篭がみるみる一杯になる。


これだけあれば煮ても焼いても楽しめるな♪と、ホクホクとした気分で今日のキャンプ地まで戻ろうと舵を切ったその時だった。


「ん?あれは?」


ひと際大きな黒松が立ち並ぶ一帯があり、その中でも一番の巨木の根元近くに何やら白い塊が見える。それも、殊更に大きい。


「やったあ!あれは大松露だぜ!」


幻のキノコの発見は魔理沙の注意力を鈍らせた。一目散に黒松の根元を目指した結果、木の根っこに躓き、激しく転倒する。


そして、地面から腰の高さくらいまでくねくねと浮き上がった松の根の又に頭がスッポリ嵌まった。ものの見事に。そして抜けない。


ヤバい。これは首に油を塗りたくろうと、絶対に抜けない感じだ。

仁和寺の法師のように〝とかくすれば、首のまはり欠けて、血垂り、ただ腫れに腫れみちて、息もつまりければ…。〟のガチのパターンだ。腰に差していたマチェットはどうやら転んだ時に落としてしまったらしい。まあ、この状態ではあれがあったところでどうしようもないが。


「かと言って、魔法でこの根っこを吹っ飛ばしたら、文字通り私の首根っこが吹っ飛ぶというわけだぜ。微調整ってのが効かねぇんだよなー、私の魔法は。」


うーむ、しかし間抜けな格好だ。こんな状態で誰か悪い奴が来たら…とか考えると、そんな時に限って文の奴みたいなのが来るんだよ。そうなる前に助けを呼ぶか。


魔理沙はポケットに手を伸ばして、にとりから貰った通信機を取り出す。

「あー、こちら魔理沙。にとりどうぞ。」


「…。」


「充電が切れてるじゃねーか!くそ!」


何てこった。ほんの一時の間に急転直下で大ピンチだぜ。

犬走椛が監視していたはずだが、妙に信頼されてんのか、千里眼を使っていないのか、はたまた死角になっているのか、いずれにせよ助けが来ないまましばらく

時が過ぎてー。


「無様な姿ですね。」


「お前は!?」


「助けて欲しいですか?それとも、それは斬首のための処刑台のつもりですか?」


「はは、冗談キツいぜ。こんな誰もいない所で首も洗わずにお前みたいな首刈り族を待つ趣味は無ぇよ。」


「こんな状況でも減らず口を叩けるのはさすがなのかな。素直に助けてと言うべきだと思うんですが。」


「お願いします助けて下さい。ご恩は一生忘れません。良い薬もあげます。」


「それはいらない。でもどうしようかなー。この剣で斬れない物はあんまり無いけど、こんな立派な木の根っこなんか切って歯こぼれしたら嫌だなー。」


「そんなこと言わないでバッサリといってくれよ。」


「首ごと?」


「首以外でお願いします。」


「じゃあ、そのまますべらない話をお一つよろしくお願いします。」


「お前あんまり調子に乗ってると…。」

チャキッ!背中に二本差しの剣士が抜く動作をする。


「わーった!ちょっと待ってろ!えーっとな…。」


ーー香霖の意外な一面を目の当たりにしたって話なんやけどな。この前、店に遊びに行っててん。そしたらな、店内がえらい片付いとんねん。なんや薄暗いし、しーんとしとるし、あいつ死んだんちゃうか?と思いきややで、カウンターのとこにドヨーンって辛気臭い顔した香霖がこう、頬杖ついて座っとんねん。

うわっ!と思って、どないしたん?って聞いたったんよ。そしたらな、

「おう、魔理沙やないか…。ええとこ来たな。わしは今から戦いにいかなあかんねや。せやからな、この店の権利書やら銭コのことやらな全部、稗田阿求はんのとこに預けとるさかい、わしがポックリ逝ってもうたらよしなにしたってや…。」

そないなこと言うとるからウチも焦るやんか。何なら手伝ったろかとか思うてな、なんやねん自分、内戦中のシリアにでも行くんけ?そんなん一瞬でバーン逝ってまうやろ。そんなんあかんって、どこ行きはるん?ウチも付いてったろか?マスタースパーク一発ドカンとぶちかましたるで。

って言うたんよ。そしたら香霖なんて言うたと思う?

「歯が痛いねん。わし、ホンマ歯医者あかんねん…。せやけど行かな治らへんねん。永遠亭の女医はん、時間に遅れるとごっつ恐いやろ?魔理沙はん後生や、わしを迷いの竹林まで運んだってや。ホンマごめんやで。」

知らんわ!心配してえらい損したわ!ーー


「っていう話なんだぜ。これでいいだろ?」


「すべらんなぁ…。ってまあ、お約束で言っておきますが、何でいきなり全部関西弁である必要があるのかわかりませんし、オチが弱い気もしますけど、ま、良いでしょう。」


「助けてくれるのか?」


「ここに良いモノが落ちてますので、これでやってみましょう。」


「柴刈り用のマチェットで何する気だ?」


「これで魔理沙の首の皮スレスレまで根っこを切り落とします。」


「よ、妖夢、落ち着けって!それはそんな風に使うもんじゃないぜ。」


「黙りなさい。この得物の切れ味はどんなものか確かめねばなりません。諦めていただきます。」


「や、やめろぉぉぉ!!」

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