プロローグ
物語は基本的に霧雨魔理沙を語り手として進んでいきます。
なぜ魔理沙かと言うと、筆者が魔理沙のファンだからです(笑)
あと、アウトドアを題材とする上で、基本的に面倒臭がりキャラの霊夢よりも、活動的で実は感受性の強そうな性格面と、キャンプ道具を紹介する上で道具屋の森近霖之助や工作の得意な河城にとりとの交遊関係がとてもマッチすると考えたからです。
それでは、ゆっくりとお読みいただければ幸いです。
桜の季節も終わり、幻想郷はむせかえるような新緑の匂いに包まれていた。人里の周辺では田植えも始まっており、掘り返された土の香りと合わさって、生命の息吹きが鼻腔に抜ける。ポカポカ陽気に照らされながらも、そよ風が心地良く、クセのある黄金色の髪がさわさわと靡いていた。
そろそろ初夏に差し掛かろうかという晩春の昼下がり。一年で最も過ごしやすいこの季節に箒にまたがり、颯爽と空を飛ぶのは格別だ。人里を過ぎて眼下に見えてきた太陽の畑は、この時期は100万本に及ぶチューリップが植えられており、花の色ごとに整然と並んでいる。どこまでも続くような赤や白や黄色の世界が視界の端から端まで広がり、その光景はまさに圧巻である。普段はとてもおっかないが、畑を管理している花の妖怪のその仕事ぶりには脱帽だ。
おっと、見蕩れているうちに風車にぶつかりそうになっちまったぜ。そろそろ終点だ。高度を一気に上げ、赤レンガと4枚羽の風車をパスし、太陽を背にして振り返る。遠くは妖怪の山、麓に霧の湖と深い緑に覆われた魔法の森、人里の順に手前のチューリップ畑まで視線を戻し、西側を見れば青々と繁る迷いの竹林がある。幻想郷の春を独り占めにしたような気分だ。こんな時、魔法使いになって本当に良かったと心から実感する。
魔法を使って空を飛んだり、弾幕をぶっ放す程度の能力しか持っていない自分にとって、まだまだ学ぶことは山積なのだが、どこかの世界の魔女は13歳で家を出た時点で空を飛ぶこと以外にはホットケーキを作る程度の能力しか持ってないらしい。自分も魔法使いになりたくて実家とは絶縁した身だが、火力だけは博麗神社のチート巫女に負けないし、キノコを使ってちょっとした薬なら作れる。マジックアイテムの開発にも余念がないつもりだ。それに、服を一瞬で着替えるくらいの変身なら自分にだって可能だ。何より、これまで幻想郷に起こった数々の異変を博麗の巫女と肩を並べて解決してきたのだから、魔法使いとして確かに成長しているのは間違いないのだ。
ウェーブのかかった長い金髪の、三つ編みではない方の髪を人差し指でクルクルと弄りながら、魔法少女(?)は益体もない考え事から始めたはずの自身の在り方について、いつの間にか真剣に考え込んでしまっていた。
いけない、いけない。一人でいると真面目モードの魔理沙さんが出て来てイケてないぜ。せっかくの春爛漫飛行が台無しじゃないか。魔法少女(?)は身の丈に比べて異様に大きなフリル付きの黒いトンガリ帽子の中から小さな八卦炉を取り出す。そして、白のフリフリのブラウスの上から黒ずくめのワンピースのドロワーズスカートにエプロンという出で立ちで箒の柄の上で立ち上がると、足を前後させ、片手を腰に回し、もう一方の腕を伸ばして手に握った八卦炉を空に掲げる。気合いを入れるように歯を食い縛り、鋭い目付きでどこを狙うでもなく力を込めると、魔法少女(?)の全身から7色の光の帯が発生し、八卦炉に吸い込まれるように集中していく。前面に大きい幾何学的な模様の魔方陣が浮かび上がる。そして、次の瞬間、彼女は大きく目を見開いて叫んだ「恋符!マスタァーーーーーー!スパーーーーーーーーーク!!」
八卦炉から飛び出した虹色の光は彼女の身長を大きく超える程に太く広がって虚空へと一直線に伸び、キラキラと星屑のような余韻を残し、やがて消えた。
八卦炉から硝煙のようなものがプスプスと燻っている。
「あはははは!やっぱり魔法はパワーだよ!!いつだって最大火力でぶっ放すんだ!」
私は霧雨魔理沙。普通の魔法使いだぜ!