勇者ですが何か?(8)旅立ちですが?
気温の激しい変化や、天候の変化が気になりますが、みなさん身体に気をつけてくださいね。
勇者ですが何か?8話目始まります!
「ーー行ってきます!!」
扉を開け颯爽と外へと出ようとするタロウの後ろで声が返ってきた。
「行ってらっしゃい」
「ヒィ!…え?誰かいるのか?」
扉を開けて外に出たままタロウは家の中に目を張る。
「…何やってんの?」
「兄さん…?」
後ろを振り返るとモミジとツクシが近づいてきていた。
「おぉモミジ、ツクシ!家の中に誰もいないはずなのに声が返ってきたんだよ!行ってらっしゃい…って!」
タロウの怖がって説明する様をテルフォンでパシャパシャ撮るモミジ。
「お前は良い加減に俺を撮るのをやめろ!」
「もう、兄さん忘れたの?」
ツクシがクスクス笑いながらタロウに言った。
「え?何が?」
「あれは、お父さんだよ」
「あっ!!」
タロウの頭の中でさっきまでの記憶が思い出されていく。家に帰るとまだいたツクシ、ネクタイをつける自分、時々聞こえるトイレからの唸り声…。
「親父はまだトイレに籠ってんのかよっ!!」
「ごめんよ〜〜」
弱々しく聞こえてくる声に、タロウ達は呆れ、玄関を閉じた。
「父さんはもう良いでしょ、それよりも早く舞台にいかないと。みんな待ってるんだから」
「おっと、そうだな、行くか」
ー勇者ですが何か?ー(8)
3人は村の門の近くにできた小さなステージまで向かった。着くと小さなテントがいくつか周りに立っていて、中には村長や村の役人、そしてチヨコがいた。
「遅いじゃない、タロウ。お母さん心配したわよぉ?」
「ごめん、ごめん!最後の準備と家に挨拶してきたんだ」
「あらあら、なんて良い子なのこの子は。お母さん涙出そうよぉ」
泣き真似をしていたチヨコはシブサブロウのいないことに気づく。
「そういえば、あの人は?」
「父さんはトイレに籠りっぱなしだったよ」
テルフォンをいじりながらモミジは話し、ツクシも苦笑いをした。
「…あの空気野郎には後でしつけとかないといけないわね」
その殺気には誰も気付かない振りをして、村長はタロウに準備は良いか尋ねた。
「大丈夫です、いつでも行けます」
「そうか、ならばステージに行こうかの、わしが先に上がって呼ぶから、そしたら上がってきなさい。最後に村のみんなに挨拶をして、この村の思い出を、わしらの思いを持って行ってくれ」
肩をポンポンと叩いて村長はステージへと上がっていった。
「どうも、みなさん、村長じゃ」
「いよいよか!」
「ウェーイ!!」
「ピューィ!ヒュー!」
歓声が捲き起こる。
「タロウ…」
チヨコはタロウの頬に手を置く。
「大事な息子…。何かあって、どうしてもって時はテルフォンでも手紙でも、なんでも良いから連絡してね。お母さんが助けにいくわ」
「……ありがとう、母さん」
「良い景色とかあったら写メってよ、私がグリッター・ブックに載せるから」
「お前が載せるのかよ!…へっ…分かったよ」
「僕も成長したら旅に出るよ!その時は兄さんよろしく!」
「もちろんだ!楽しみにしてるよ!」
「うん!………ま、僕が付くのは魔王軍だけど、ふふ」
「ん?なんか言ったか?」
「いーや、頑張ってね!兄さん」
気づけば村長の話も終わりを迎えていた。
「それでは、登場してもらうとするかの、我らが村の勇者!タロウじゃ!!」
ーー燦々と太陽が照っている。風が爽やかに空を駆ける。どこかで未だにファースト・ファンタズィーのBGMが流れている。村の人々が高々に声を上げている。俺を見ては一瞬軽蔑したような目を見せる人もいるが、それも一瞬だ。みんなの目は希望に満ちていた。…なぜかって?おいおい何度も言わせるなよ、それは俺がーー
「漏らしタローーウ!!かっこいいぞー!」
「ジャージで行くのかしら?鎧でもつければ良いのにね」
「このボスの倒し方はね、まずは炎系の魔法で…」
「えーでは、タロウ、わしからの激励の言葉を送らせてもらおう…。晴れの日もーー」
「勇者ぁぁぁぁあ!勇者ぁぁぁぁ!禿げろぉぉぉ!髪そめ失敗して痛めろぉぉおっ!」
「あーはっはっはっは!!!」
「…雨の日にもーー」
「……あの、村長?」
「風の日には…ん?どうした?」
「イーーヤッハー!タロウ!イエェェェェイ!!」
「…黙ってれば、うるせぇぇんだよ!てめえらよぉ!俺のためのステージだろうが!あと、誰だ!?漏らしタロウ言ったやつぁ!」
タロウの怒声に一同は静まり返った。正確にはステージ横のテントからとてつもない殺気を感じ取ったからである。
「…よし、静かになった。村長続けてくーー」
「ごめーん、やっと出たよ、待たせたねぇ!でももう大丈夫!お腹の痛みも無くなってこの通り!スキップも軽い軽い!!」
そう言って軽やかなステップを刻んでいるシブサブロウを静まり返っていた村人たちは気まずそうに見たり、無視したりしていた。…当然シブサブロウは気づかすテントの中に入っていき、大きな音がしたと思ったら、もう静かになっていた。
「……何を言うか忘れてもうた」
「は?」
村長はボソッと呟いたあと、手を叩く。
「では勇者である漏らしタロウから一言もらうとしよう」
「おいジジィ、漏らし言うな」
「一言」
そう言って村長はステージの端まで動いた。村人たちは静かに、まるで陰に潜む肉食獣から身を守ろうと隠れる小動物のように息を潜めタロウを眺めていた。
「……ふぅ、今日はみんなありがとう。いろいろムカつくこともあるけど、それはひとまず置いておく…。俺は勇者として時の教会の本部に向かう。そして魔人たちの動きを調べて、世界の平和のために頑張ろうってことになった。ここで暮らした15年を俺は忘れない。世界を平和にして(ぶっちゃけ平和だけど)また帰ってくるぜ!…それからーー」
「話が長い、一言と言ったろうに。皆、村歌を歌うぞ」
村長はタロウの話を遮り、菜箸を指揮棒代わりに振る。
「ちょっと待て!俺の一言!」
「サンハイ!!」
ーーーどこだ、どこだ、ここだ〜、村から出てくる若人よーーー
みんな口を大きく開けて歌っていた。タロウはそんな自分の故郷のみんなを見て半ば呆れ、笑った。
「…全く、この村の人間は…はは」
ーーー光り輝く、勇者だ〜ーーー
パチパチと拍手と喝采とも言える激励の声がタロウに向かって飛んでいく。ステージ横のテントからは家族が見つめていた。シブサブロウもボロボロの身体で手を振っている。生きてるようだ。
「タロウや、お前はこの村の誇りじゃ、必ず!必ずお前なら凄いことを成し遂げると信じておる」
そう言って村長は門の方に手を向けた。
「行くのじゃタロウ、光り輝く勇者よ!」
そしてタロウは村人たちの声を背に一歩を踏み出すのだった。
今回は勇者ですが何か?講座は休みです。
やっとタロウが旅立ちました!
これで一区切り終わりました!長いようで短く、短いようで長かった!二日間の物語のために8話かかっちゃいましたからね!
書き始めたのは4月終わりから5月始めで、確かGWのこどもの日に投稿して、しっかり頑張ろうとか思いつつゲームしてダラけてたら投稿予約も何もしてないのを思い出して、気づいたら4日の23時も終わるってなって、急いで投稿したのを覚えています。投稿したのがこどもの日の5月5日、この8話目が投稿されるのが5月16日…。
12日間ですね。…言って2週間も経ってない。まずは一ヶ月を目指して書いていきます!
その場の勢いで書き始めたとは言え、どう進めていくかは分からないけど、出したいキャラや、話はいくつかあるんだ!
これからも頑張って書いていくので、ぜひ!読んでみてください!そして、感想や叱咤激励してもらえれば嬉しいです!それが今後の作品に繋がっていくと思うので!
それでは『勇者ですが何か?』序章ー旅立ちーでした!
次章予告
「…腹減った…、馬鹿だ…俺は。……なんって馬鹿なんだ!」
汗でびしょびしょになったジャージを腰に巻きつけよろよろと、そしてグーグーと歩くタロウ。
「今日、パンしか食べてねぇじゃねぇか!!しかも暑いし、喉乾くし、飲み物になるのはポーションしかねぇし!!」
タロウは顔を空に向け、大きく息を吸った。
「俺の馬鹿やろぉぉぉ!!!」
ーーー『勇者ですが何か?』第1章 お楽しみに。