勇者ですが何か?(7)勇者の武器は木の棒でしたが?
知り合いの方に読んで頂き、主人公の容姿について突っ込まれました…。
「この主人公さ、異世界生活なあの子だよね?」
「……金髪です」
「でも、イメージ的には…」
「…金髪です。三白眼ではありません」
「…」
「…」
※この前書きはフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。また実在する他作品の人物や作品とは関係ありません。
ツクシがリビングのソファーに座り、父親のトイレが終わるのを待っていると、玄関が開いた。
「ただいまっと…」
「兄さん?」
ツクシは廊下の方を覗き帰ってきたタロウを見る。
「おぉツクシ、まだいたのか?みんな外に出てると思ったぜ」
「それがさぁ」
ツクシは悲しい顔をしてまだ着けることのできていないネクタイを見せる。
「お父さんにネクタイ着けてもらいたかったんだけど…ずっとトイレに入って出てこないんだ…」
二人はトイレの方を見る。微かに唸り声が聞こえてきた。
「はは…相変わらずな親父だな……よし!俺がネクタイ着けてやるよ」
ツクシはパッと笑顔を見せる。
「ありがとう!兄さん!」
二人は唸り声の聞こえるトイレを無視し洗面台に向かった。
「ううぅ!もう少しだ!もう少しで父さん出るから!!」
ー勇者ですが何か?ー(7)
「ーーじゃあ先に行ってるね!」
「おう!多分母さんはすぐ見つかると思うぜ、……円になって女性陣で賑わってるから…」
「わかったよ!」
ネクタイを締め終えツクシは外へと出た。タロウは旅の前の最後の確認の為に持ち物をチェックする。
「えぇと、忘れもんはないかな…」
タロウは部屋に置いていた魔法のバックを漁りながら中身を確認する。
「それにしてもこのバック本当にすごいな…、バックに入る物なら何でも入れちまうし、手を突っ込んで、入れた物を想像したらちゃんと出てくるし、構造どうなってんだろうな」
そう言いながらポイポイと荷物を外に出していく。出て来た物は、地図、ポーション、旅には手放せない冒険書、ブガーの顔のボール、アイドルのアイコのブロマイドカード、伝説の勇者の剣だった。
「うーん、1日もあればアリアーハンには着きそうだし食べ物は…いらねぇか」
うんうん頷いて、出した荷物をもう一度入れていく。
「地図と冒険の書は必須だよな、場所だったり、その場所のことが分かってないと困るしな。ポーションは、ファースト・ファンタズィー然り、冒険ものゲームには必須だし持っていかないとな!…ま、使うような事態の時はもう、ポーションどころじゃないだろうが飾りとしてでも持っていく価値はあるな!…それからブガーボール、これはもう超絶必須だな!暇な時これで遊ぶしかない!何より俺が初めて買ったファースト・ファンタズィー5の特典だしな、もう手放せない!そして!手放せないと言ったらアイコちゃんのブロマイドだ!!誰にもばれないように朝早くから並んだっけ…ううぅ、懐かしい!旅して時間できたらライブの場所探して行ってみるか…」
そして最後に残った剣を見てため息を吐くタロウ。
「…で、これ、かぁ…」
その剣はラクダヨ王国にて世界にも名を馳せている伝説の鍛冶士『レジェンド・オブ・ブラックスミス』の称号を持つタケゾウが作った剣だった。しかし
「な〜んて平凡な剣なんだよ」
タケゾウに渡された時にタロウはがっかりしていた。そんなタロウを見てタケゾウは説明した。
「良いか?勇者は確かにすごい剣を扱っていたよ、俺の先祖様が作った剣だったり、他の鍛治士が作った様々な武器を使って魔人達と戦った、でもな、最初からすごい武器を使っていたわけじゃないんだぜ?まずは基本を覚えていかないと、扱うレベルが低いのに最初からすごい武器は使いこなせねぇよ」
「だからって、なんの装飾もないし、これ普通の兵士が持つ剣と一緒だろ!?」
「バカ言うな!一緒じゃねぇ!」
「ほーう、どう違うんだよ?」
「兵士の剣は鍛えるのに1日かかる!お前のは1時間だ!兵士の剣の方が良い剣だぞ」
「ふざけんな!何、偉そうに言ってんだよ!勇者だぞ!?一応俺勇者だぞ!?」
「まぁ聞け、勇者が初めて使った獲物は木の棒だったって聞く…別に良かったんだぞ?木を研いだだけの剣でも」
「…見れば見るほど良い剣に見えてきたよ、ありがとうタケゾウ!」
「そうだろ?ガッハッハっ!」
「マジで、この剣大丈夫なんだろうな…?兵士達の剣って、修練中によく折れてたような気がするんだが……」
魔人との戦いの最中で折れることを想像すると寒気が起きて身震いするタロウ。
「うぅ、街に着いたら剣買お」
剣をバックに入れ、財布も確認してタロウはあることに気づいた。
「あ、そういえば服…」
タロウは着ているジャージを見る。
「……普通鎧とか着るもんじゃ…」
ーー勇者だって最初の格好は葉っぱだけだったらしいぞ?ーー
脳裏にタケゾウが浮かび、タロウは首を横に振る。
「…葉っぱは流石に無いだろうが、鎧は着てなかった可能性は高いし、いつものこのジャージで良いか」
準備を整え終えて、タロウは自分以外いない家の中を眺めた。
「…本当に旅に出るんだもんな…、小さい頃から言われてたけど、世界は平和だし、旅も旅行と変わらねぇって思ってたんだがな…」
ーー気づいた時には魔の力は恐ろしい所までくるかもしれないーー
ーーもっと言えば、2大陸からの侵攻…ーー
「最悪な事態を考えて動く…か」
気づけば玄関まで来ていたタロウは最後にもう一度部屋の方を見る。
「ま、勇者なんだから、それくらいの壁が来ないとな!良いぜ、そんなことが起きる前に平和っていうことを世界に知らしめて、帰ってきたらファースト・ファンタズィー15、遊んでやるっ!!」
そして扉へと手をかけて
「ーー行ってきます!!」
勇者ですが何か?講座
ー伝説の鍛冶士のタケゾウー
鍛冶士と言う存在は世界中に数多くいるが、凄腕と呼ばれる者たちは遥かに少ない。
ラクダヨ王国の王宮専属の鍛冶士、タケゾウはその数少ない凄腕鍛冶士の一人である。
遥か昔、勇者は数多くの武器を使い、魔人たちと戦った。しかし、その過酷な戦いに、長く持ちこたえる武器はそうそうなかった。勇者が武器のことで迷っていた時、一人の若い鍛冶見習いが現れた。
後の世に、伝説の鍛冶士と呼ばれる男『ケンゾウ』である。
ケンゾウは当時不可能だと言われた、クリスタルを加工し、鋼よりも硬く鋭い剣を作って勇者に渡したのだ。
そして魔王との戦いが終わった勇者はラクダーヨ王1世に言った。
「ケンゾウの作る剣には熱く、そして光に満ちた優しい思いが乗っています。こんなに素晴らしい剣を作った人を見たことがない」
王によりケンゾウは王国の専属の鍛冶士となった。そして伝説の鍛冶士という意味の称号『レジェンド・オブ・ブラックスミス』を授かった。
そのケンゾウの子孫がタケゾウである。
最高の腕を継いだものの、平和すぎる世界のせいで、手を抜きまくっていて、不評が溜まりまくっている。作った剣のことで愚痴られると、「お前の剣の腕が悪い」と一喝して避けているらしい。
ー何ぃ!?また剣が折れただと?…なんだ、俺が悪いってか!?お前の腕が悪いんだよ!もっと丁寧に使え!振ればいいってもんじゃない、分かるか?ー
(とある日のタケゾウの言葉)