勇者ですが何か?(5)レディですが?
5話目ですが、書いてたら結構長くなったので、半分くらいで切って、残りは6話として投稿します。
書いてて思ったんですが、タロウはあんまり喋ってないですね、金髪のくせに…。旅始めてからは結構しゃべってくれると思います。
ーー燦々と太陽が照っている。風が爽やかに空を駆ける。どこかでファースト・ファンタズィーのbgmが流れている。村の人々が賑やかに話したり、食べたりしている。俺を見ては一瞬軽蔑した眼差しを見せるが、それも一瞬で、すぐに激励の言葉をかけてくれる…。なぜかって?それは俺が……勇者だからさーー
ー勇者ですが何か?ー(5)
チヨコは正装のドレスを着て村人たちと話をしていた。
「今日は本当にありがとうございますぅ、タロウの為にこんなに豪華な出発式を開催してくれて」
「いえいえ、当たり前のことですわ、ねぇ?」
「ほんとにその通りですわ、オホホホホ!」
「今朝のニュースを見たときは面白かったですわ!お漏らししてることに気づいたらもう!笑えて…きて…ひっ!」
「ん?どうかされましたぁ?続きをどうぞ?」
「お、趣きがある姿が映っていて、これからの旅路はきっと素晴らしいものになると思って、微笑んでましたのぉ!……オホホ、オホ、オホホホホホ!!」
「…あのさぁ、キモいから普通に喋ったら?」
突然のモミジの言葉に固まる一同、モミジはそれだけ言い残し、去っていった。
「コホン…そうね、ちょっと特別な日だったからおかしくなっちゃってたわね」
「…ですね、なんだか暑いわね…」
「娘が失礼なことを言ってすみません…」
一同は顔を赤くしながらうなだれた。
モミジはチヨコ達の輪を通り過ぎ、コリャ・ソウダを売っていたおじさんから二本ソウダを購入して、村の奥にある大木の横で体操座りして空を眺めていたタロウの元へ向かった。
「おい、お漏らしタロウ」
「誰がお漏らしタロウだ!!って、モミジか、このヤロウ」
「ほら、コリャ・ソウダ」
妹から差し出されたコリャ・ソウダを受け取りタロウは少し照れる。
「気がきくな…ありがとよ」
隣に座るモミジ。
「…」
「…」
気まずい空気に耐えきれず、タロウは一気にコリャ・ソウダを飲みだす。
「…漏らしたね」
「ブフォッ!!」
モミジの言葉に口に含んでいたソウダを吐き出してしまう。
「汚いんだけど…」
そう言いながらモミジはタロウをテルフォンで撮影する。
「ゴホゴホ!おい、テメェ撮るなよ!それからぁ!漏らした漏らした言うな!めっちゃ怖かったんだぞ!?」
「ふふ、いい写真が撮れたわ、これを載せればフォロワーが増える!」
「載せるなっ!人の話を聞けやっ!」
「…ほんとに行くんだよね……」
「あぁ!?」
「兄さん…」
「うっ…!」
モミジの突然の悲しそうな雰囲気にタロウは困惑する。
「…あぁ、そうだよ、でもまぁ心配することはないと思うぞ?魔王もいないし、意外にすぐ戻ってくるかもーー」
「兄さんの部屋は私の物置として使うね」
「あぁ、すぐ戻ってきたときのために物置ーーってふざけんなぁ!」
「ふふ…」
「…たく、お前ならやり兼ねねぇから怖えぇわ」
そう言って、瓶に残った残りのソウダを飲む。
二人でソウダを飲んでいると、スーツ姿の男と、大陸で一番の権限を持つゲンシュー王国の紋章のついた鎧を着た兵士、それから村長が近づいてきていた。
「タロウ、待たせたのう…」
「村長、この人がゲンシュー王国の?」
うむ、と頷く村長。
「お初にお目にかかります。わたくし、ゲンシュー王国国王、ジン・カーン国王陛下の代理で勇者であられるタロウ様に、旅の指針をお伝えする役目を仰せ仕りました、サンシチ・マジメールと申します」
七三分けをしたスーツの男は丁寧にお辞儀をした。
「サンシチ・マジメール?変な名前…」
モミジがぼそりと呟いたのが聞こえたのか、後ろに立っていた兵士は前に出て怒鳴る。
「無礼者ぉ!サンシチ様に対してその態度とは、非常に無礼極まりないぃ!勇者殿と知り合いと見受けするが、もしそうでなければ生きてはおらんぞ!小娘!」
「小娘ぇ?私はモミジ・ウエダ!隣にいるタロウ・ウエダの妹で14歳のレディよ!!」
モミジもまた、タロウよりも前に出て、兵士を睨む。
「おぉ!これはこれは、まさか勇者殿の妹君であったか!だがしかし!…レディというのは…いやはや」
兵士はわざとらしく驚きながら、モミジの身体を眺める。
「…何見てんの?キモいんだけど!」
「ふんっ!勘違いが過ぎますなっ!子どもに発情などせんわ!!」
「なんですって!?」
「なんじゃぁ!?」
二人が火花を散らしているとコホンとサンシチは咳をする。
「…やめないかエイゲン」
「っ!出過ぎた真似を失礼しました!」
サンシチはタロウにもう一度お辞儀をする。
「私のお供が失礼しました。…彼はゲンシュー王国第八騎士団団長エイゲンと申します。今回、私の護衛として同行させております」
「オッホン…、サンシチ様から紹介いただいたエイゲンであります。勇者殿とお会いできて光栄でございます!」
エイゲンはタロウに握手を求めてきた。
「こちらこそどうも…って痛っ!握力強っ!」
ものすごい力でぶんぶんと腕を振りながらエイゲンは笑う。
「…ではタロウ様、村長宅で詳しい話をいたしましょうか」
「わかりました」
勇者ですが何か?講座
ー勇者の村ー
はるか昔、まだ村に名前すら付いていなかった時代、魔王により世界が闇で覆われた時に、後に勇者と呼ばれる少年が旅立ったと言われている。そのため、勇者の村という名前を得た。
村は森と小さな川に挟まれており緑豊かな村。土地は広いが、村人はそんなに多いわけではなく、50人くらいしかいない。理由としてはすぐ近くにラクダヨ王国の国都があるため、若人たちは、国都の方へと移っていくためである。
村の奥には村長の家がある。村の集会なども村長の家で行うことが多い。
ーーーどこだ、どこだ、ここだ〜、村から出てくる若人よ、光り輝く、勇者だ〜ーーー
(勇者の村の村歌 勇者の歌)