勇者ですが何か?(3)急なバトルモノっぽい感じですが?
「ふぁ〜あ…眠っ……」
寝癖でボサボサな髪を掻きながらモミジは自室からリビングに向かった。
「お母さ〜ん、ハーブティー用意してて。私歯磨くからさ…ってあれ?」
洗面台に向かおうとしたがリビングに誰もいないことにきづきモミジは立ち止まる。
付けっ放しのテレビでは兄であるタロウの映像とそれに対する街角インタビューが流れていた。
「金髪なんて時点で勇者としてどうかと思います…」
「クチャ、クチャ、てか黒に金のラインって、チョーウケんだけど〜クチャ、クッチャ」
テレビを見たモミジは今の状況をなんとなく察し溜息を吐く。
「はぁ…そういうことね…。こりゃ荒れるな…」
そう言って洗面台へと向かった。
ー勇者ですが何かー(3)
<ラクダヨ王国第一都市リバーズシティの北側、テレビ局TTQビル前>
「と、止まれ!止まらないなら本当に…!っ!!」
バキ!
「グハっ!」
ドコッ!
「ぎゃあ!!」
「落ち着いてくれ!母ちゃーーぎゃあ!」
メキョ!
「あらあら、私の大事な息子であり勇者であるタロウを辱めたんだから止まるわけないでしょ?親なんですから…て、あら?もう寝てるの?」
普通ならば1時間かかるはずなのに、10分ほどでテレビ局の前に到着したチヨコとタロウは、テレビ局を守る警備隊と交戦…いや、一方的に蹂躙していた。
「どいてくれるかしら?私はハゲに用があるの」
次々と警備兵士たちをなぎ倒しまくるチヨコに、止むを得ないと、剣を抜く。
「これ以上暴れるというのなら切るぞ!」
剣を構え怒鳴る兵士を見て微笑むチヨコ。
「あら素敵ね、勤勉なのは良いことよ、ただあなたは間違ってるわ」
「何?」
「悪いのはタロウの評価が下がるようなことをしたテレビ局の人間…。私は正義のために悪を正そうって言ってるのよ?そんな私に剣を向けるの?」
「何が正義だ!問答無用に仲間たちに手を出しやがって!このババァめが!」
「ババァ?」
「…いてて、ここはどこ?って、そうだ!母さー」
「誰がババアやコラッ!」
チヨコは地面をひと蹴りし、一瞬で口の悪かった兵士の顔へと膝を埋めた。
「ヒイィ!化け物だこの女!」
「誰が化け物じゃぁ!」
バギ!ドゴ!グシャッ!
「…これどう収拾つけるんだよ…」
タロウはチヨコに殴られた頬を抑えながら、その圧倒的な暴力を眺めるしかなかった。
<テレビ局スタジオ>
「え〜、そもそもがですねー、大昔では人間以外の知的生命体は全て魔人として括られていたわけです。
おそらくもっと前は平和に暮らしていたのかもしれませんが、いつの間にか人と魔人は争い合っていたわけですね。そしてある時魔人たちを統率した存在が現れた」
「それが魔王『カオス』というわけですね」
「はい」
世界の歴史と書かれ、年表が映っているフリップを掲げフライケンは説明を続ける。
説明をしているフライケンは気づいていなかったが、スタジオ内の撮影スタッフたちは顔色を変え少しずつだがザワつき始めていた。それにアナウンサーとキャスターは気づいたが放送中ということでぎこちない顔のままフライケンの話を聞いていた。
「魔王カオスは次々と世界を侵略していきます。多くの国が滅びそして多くの命が散りました…。しかし、ん?」
説明していたフライケンもスタジオ内の異変に気づく。
「…スタッフさん?どうかしましたか?」
「ええと…」
一人の若いスタッフがアナウンサーのそばに駆け寄りヒソヒソと説明する。
「なんだってぇ!!?」
アナウンサーの目が大きく開き大声を出して驚く。それに対して他の者たちもビクッと肩を揺らす。
「……失礼しました。えぇ、緊急速報です!勇者であるタロウ氏とその母親であるチヨコさんが今テレビ局まで来ているとのことです」
「なっ!?」
「まじかよ!」
フライケンと坊主頭の青年は驚きの声を上げる。
「くそウケんな!何?何のために来てんの?宣伝?」
青年は笑いながらスタッフに聞いたが、スタッフは青ざめた顔でプルプルと顔を横に振る。
「ーーその通り、タロウの勇者としての宣伝です」
その声はカメラの外、つまりスタジオ入り口からの声だった。
「あん?」
「私の息子であり勇者のタロウを貶めるような映像を流し、それだけに止まらず、舐め腐った口を聞いたハゲ…、お前にお灸をすえるためにはるばる来たんです」
チヨコはゆっくり歩きながらスタジオの中へと入っていく。そしてスタッフの軽めな制止を無視し、青年の座っているテーブルの前まで行き立ち止まる。
「ハゲ…、タロウが勇者なら何だって?あ?」
「はぁ?何勝手に入り込んで切れてんだ?頭おかしいんじゃねぇの?」
青年が笑いながらフライケンの方に同意を求めるようにして顔を覗いたがフライケンは口をワナワナさせていた。
「あ、あ、あなたは…!」
「あん?このババァが何だって言うんだよ?」
フライケンのワナワナぶりに青年はイライラしながら尋ねる。
「こら!もうしゃべるな!この方は17年前、王国にクルシカ帝国の軍が国境を超えて侵攻してきた時に一人でその軍を壊滅した英雄!『鬼姫のチヨコ』様だぞ!…まさかとは思いましたが、あなたが勇者の母でありましたか」
「何だって〜〜!!?」
その言葉にその場にいた者たちは口を揃えて驚いた。
「あら、私のことを知ってる人がいるなんてぇ、話が早いわ。あなた、さっきテレビで見たけどタロウが勇者として自覚がないですって?」
チヨコは微笑みながらフライケンを見つめた。
「ひっ!その、あの映像ではですね、ちょっと、そう見えたというか、何というかー、いや、その私が悪いんです、すみませんでした」
「私にではなく、カメラに言ってくださらない?これからタロウは旅立たなきゃけないのに、みなさんから誤解されたままというのは、支障が出てしまうと思うから…」
「そ、その通りでございます!はい!」
「えーと、カメラマンさん、フライケンさんにカメラお願いします」
アナウンサーの言葉でカメラがフライケンに向けられる。
「ん?」
そこで映し出されたフライケンを見てカメラマンは気づいた。
…フライケンのズボンはビショビショに濡れていた。
「み、みなさん、勇者であるタロウ様はとても素晴らしい方だと思います。もし旅の途中のタロウ様と出会ったら、しっかりと協力してください。世界のためにが、頑張っているのですから!」
そう言ったフライケンの足はガクガク震えている。
「おい!何言わせてんだよババァ!」
相変わらず青年はチヨコに強気で当たっていた。
「いきなり出てきて意味分かんねぇし、だいたいテメェの息子がダメダメなだけだろ?あ、あれかモンスターペアレントってやつか!」
青年の強気な態度に周りにいた者たちは冷や汗をかきだす。
「やめろ!怒らせるな!」
「怖い怖い怖い…」
小声で青年を止めようと一同が頑張るも青年は気づかずヒートアップしていく。
「ぶっちゃけさぁ!無理やり言わせたところでもうあんたの息子の評価変わらねぇよ!むしろマイナス、マイナス!ダーハッハッハ!」
ーーバコンッ!
青年が足を載せていたテーブルが空で回転しながら吹き飛んでいく。チヨコが蹴飛ばしていた。
「ピーピー、ピーピーうるさいわねぇ、ハゲが…てめえのその頭、かち割ってやろうか?」
チヨコの蹴りにビビったスタッフ達は、遅れてスタジオに到着していたタロウと一緒に残念ながら尿を漏らしていた。
「怖ぇよ母ちゃん……」
「……痛ってぇなぁ、おい…!」
蹴飛ばされたことにより軽く吹っ飛んだらしい青年は指をポキパキ鳴らす。
「テメェ、よくもやりやがったな!ぶちのめしてやるよ!」
青年は怒りのオーラを出しながら構えた。
「良いわよぉ、来なさいなハゲ。…遊んであげるから」
チヨコはにんまりした笑顔を見せて腕を青年の方へ向ける。そしてクイクイと指を動かし誘う。
「9時から出発式があるからそうね…1分ってとこかしらね」
勇者ですが何か?講座
ータロウの家族ー
勇者と予言されたタロウ。タロウと家族について、少しだけ説明しましょう。
タロウ・ウエダ
主人公です。15歳です。ちなみにタロウたちのファミリーネームは『ウエダ』です。天変地異が起きた時に生まれ、預言者に勇者だと言われたことで、重い使命を課せられます。元々は黒髪で、小さい頃は真面目に勇者になろうと思っていましたが、平和すぎたことと、魔王がいないことを知り、ダラけます。で、金髪にするわ、基本装備が黒ジャージに金のラインという格好になるわけです。
チヨコ・ウエダ
母です。35歳です。赤い髪です。ロングヘアーです。3話までの時点でなんとなく分かりますが、強いです。家族の中でも強いです。昔、『鬼姫のチヨコ』と恐れられていたらしく、実はラクダヨ王国では英雄です。しかし、当時と面影が違いすぎて、同名の別人と思われています。タロウが勇者であるということが誇らしく、勇者らしく立派な人間になってもらいたいと思い、厳しい側面を見せますが、基本的には甘やかしまくりの母親です。
シブサブロウ・ウエダ
父です。35歳です。黒髪です。チヨコが怖いです。空気と呼ばれます。家族の中で一番小さな存在で、力も威厳もありません。最近の悩みはモミジの反抗期 (シブサブロウとタロウにだけ)です。
モミジ・ウエダ
妹です。14歳です。赤い髪をしています。ロングヘアーです。顔は整っており綺麗系です。現代っ子っぽい感じで、テルフォンを触りまくる年頃です。年頃なので、父と兄に対して冷たいです。
ツクシ・ウエダ
弟です。10歳です。黒髪です。大人しい性格です。将来、勇者である兄に付いて行き、ともに世界を旅したいと学校で語っていて、優しい子だと思われていますが、実はワルが好きで、魔王軍の残党の元へ行きたいと密かに思っています。
ーーだいたいそんな感じですーー