勇者ですが何か?(2)ファースト・ファンタズィーの発売日ですが?
とりあえず投稿時点でここまでです。早めに書きます。一週間に一本ペースを目指します。
「よく来た、勇者よ。ここまでの道のり…さぞ苦しいモノだったろう」
真っ黒のマントを羽織り、鬼のような角の兜を冠った者が勇者タロウの前に立っていた。
タロウはキラキラ輝くクリスタルでできた鎧を身に纏い、これまたクリスタルでできた剣を地に突き刺し、その黒い存在を見つめていた。
「どうやら仲間達はみんなやられたみたいだな勇者よ。一人になっても来たことは褒めてやろう…だが、勝ちは譲らん!」
黒の存在の周りから炎が吹き出した。とてつもない魔力を放出する黒の存在。
「貴様には、私の全ての力を出し切って葬ってやろう!それがせめてもの、ここまでたどり着いた者への敬意というもの!」
「あのー…」
「うん?」
「…帰って良いですかね?」
「は?」
「いや、これ夢だよな、ってなると、目覚めて良いですか?」
「……ごめん、何言ってるのかわからない…」
「ていうか、あんた誰ですか?」
「…魔王ですけど……」
「…」
「…」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」
「え!?ため息ながっ!!」
タロウの明らかに気乗りしてなさそうな、気だるそうな態度に、魔王は放出した魔力も消して焦る。
「な、なんだというのだ!失礼だぞ勇者よ、最後の戦いというのにそんな態度じゃ」
「一つ言って良いすか?」
「え?…何かね?」
「これ俺の夢、あんた昔に死んだ、俺、予言で勇者言われた。でもあんた死んでる。結果、やることない、意味わかる?」
「えーとぉ……」
「旅立つ日だからこんな夢見せられてんのか?あ!あんたまさか蘇ったりしないよな!?すんなよ!?蘇んなよ、だるいからまじで!じゃあ起きるわ!」
「いや、ちょ!待っ!あぁ光が!光が輝き始めてるぅ!あ、これ夢だわ!俺、なんかとんでもない奴の夢に出てるわ!ま、まぶ、眩しいぃぃ!!!」
二人のいた空間が真っ白に塗りつぶされていく。
「ーーきて」
(…うん?)
「起きなさい、タロウ」
目を開けるとチヨコがライトをタロウの目に当てていた。
「うわっ!眩しっ!ちょ、何やってんの!?」
「おはようタロウ、ゆっくり眠れた?夢とか見た?」
「は?夢とか見てねぇよ、見てたとしてもライト当てられて視力皆無だよ!」
「朝から元気でよかったわ、なら支度してね」
「支度…?」
チヨコは笑顔で部屋から出て行く。
(あぁそうか…ファースト・ファンタズィーの発売日か…)
ー勇者ですが何か?ー(2)
朝のテレビは一つのイベントで大盛り上がりだった。
「見てください!この行列!!!これは本日発売のゲームソフト、『ファースト・ファンタズィー』の新作、『ファースト・ファンタズィー15〜仄暗い沼の底から〜』を買おうと集まってる方々の行列です!!!」
画面には大量の人、人、人が映っており、みんなザワザワと騒いでいる。並ぶ先頭にはゲーム屋さんがありドアの前には屈強な衛兵達が今か今かと押し合っている人たちから店を守っていた。
「ちょっとインタビューをしてみましょうか!!」
テレビに映る新人リポーターの女の子はその行列の中に果敢にも入っていきインタビューをしようとしていた。
「あのー!!すいません!お話…あ、ちょ、押さないで!私、押さな、誰!?今私の尻触ったの?ちょっ!これ……もの売るってレベルじゃねーぞ!コラァア!!!」
「キーラちゃん!?キーラちゃん落ち着いて!カメラ!カメラ回ってるから!」
「ウルセェんだよ!カメラで撮ってんなら、私のケツ触ったやつ教えろ!オラァ!!コラァ!このオタクども!どこ行ったぁ!?私のケツ触ったやつぁ!!」
女性リポーターがもみくちゃにされながら、同時に暴言を吐き、近くで並んでいた客達を殴り出すところで画面がスタジオに切り替わった。
「えぇと…すごかったですねー」
「そうですね…はは…えー、気を取り直して、本日の天気の方お願いします」
「…俺もファースト・ファンタズィー欲しい」
「あらあら、何言ってるのよ、タロウは旅立たないといけないんだから」
朝食のパンをかじりながらタロウは嘆く。
「いやー、実際どうなの?旅立たなきゃダメ?」
「当たり前じゃない、勇者なんだから〜」
チヨコもコーヒーを入れテーブルの席に着く。
「いや、でもさー、勇者必要なほど困ってなくねぇ?」
タロウはチヨコに指差しながら聞く。
「そんなことないわよ〜、あと指切るわよ、下ろしなさい。世界には勇者が必要なのよ?」
「いやいや〜、勉強してきたけど、今の時代必要ないって〜。…むしろ俺がファースト・ファンタズィーを必要としている!」
「バカなこと言わないの。9時には村の門の前で出発式なんだから、早く食べて準備して」
そう言ってチヨコはコーヒーを飲み干しキッチンへと歩いていく。それを見送り残ったパンを渋々食べるタロウ。
「ーーーここで本日のビックニュースです!本日5月5日はこの世界を救った英雄が旅立った日であります!」
「そして今日!予言の元に生まれた新たな勇者が旅立つ日であります!!」
「!!?」
ニュースのアナウンサーやキャスターが喜ばしい顔で言い放ったのを見てタロウは絶句する。
「なんでこいつら俺のこと知ってんだ!?」
タロウは確かに預言者に勇者と言われて育ち、国王も知っているということは国民も知っていてもおかしくない。なんなら世界中に知られてもおかしくはないのだ。そんなことはタロウにも分かっているが問題はニュースに映った映像であった。
それはタロウがまだ幼い時からのこれまでの成長過程を撮られた映像であったが、タロウには身に覚えがなかったのだ。
「なんだこれ!?なんで俺のガキん時の映像が!母ちゃ…母さ〜んっ!!ちょっと来てくれ!!」
「…はいはーい!どうしたの?急に」
「これを見てくれ!これは母さんが送ったのか?」
「ん〜〜ん?」
テレビではタロウが王の城の図書室で世界史を習ってる映像が映っていた。
「ーーつまりです!勇者というのはその強大な力をただ使えば良いというわけではないのです!世界のバランス!平和の為に、しっかりとコントロールして扱うことが大事なのです!…わかりましたか?…タロウ様?」
「…っ!やっと取れた!…鼻毛って、なんか濃ゆい…よな」
死んだような目をして鼻毛を抜きそれを指で回しながら言っていた自分の姿を見て、テレビの前でタロウは顔を真っ赤にする。
「な、な、なんでこんなん撮ってんだぁぁぁ!!!」
「いやー、下品ですねー。勇者と言われてはおりますがどう思いますか?勇者研究会のフライケンさん」
「まだまだ勇者としての自覚が足りてないですねー、えー。正直残念ですよ。これが勇者とは…残念です」
「くっ!こいつら、人が知らない間に勝手に動画撮りやがってぇ!何勝手にいろいろ言ってんだ!」
恥ずかしさと怒りで拳を握り締めるタロウの後ろで、さらに強大な殺意を放つ人物がいた。
「……タロウ?この映像はなんなのかしら?勉強中に何していたの?ふふ」
「…も、モウシワケナイデス……。どうか命だけは…」
「ふふふふ…お母さん、恥ずかしくて今にもトマトジュース作っちゃいそうよ?」
「ヒィ!!」
「ーー本当にこれが勇者なんて、世の末ですよ、世の末。こんなガキが本当に勇者なんですか?取材相手、間違ってるんじゃないんですかぁ?」
勇者研究会のフライケンの隣で机に足をかけた坊主頭の青年はそう言いながら笑っていた。
「こんな奴が勇者なら、俺でもなれそうですよ!」
「…このやろう!好き勝手言いやがってぇ…!って、はっ!?」
「…このクソハゲは何を言ってるのかしら?お母さん、標準語じゃないと分からないのだけど、とりあえずこのハゲは害悪っていうのは分かったわ」
チヨコの目は魔王すら恐れてもおかしくないほど、殺気立っていた。
「お、お母様?」
「タロウは勇者として予言されたっていうのに、あろうことか大事な旅立ちの日にこんなふざけたことを言うなんて、タロウの印象が悪くなったら、このハゲはどうしてくれるのかしら?そして何より恥を掻かせたことはこのハゲの最大の罪…ふふふ、そのハゲた頭を切り落として、そのまま森に捨てて苔を生やしてあげようかしら!!」
「お母様ぁ…こ、怖いのですが、タロウすっごく怖いのですが…」
「タロウ?ふふ、行きましょうか?」
にっこりと微笑みチヨコはタロウの腕を掴み外へと歩いていく。
「あのー、どこへ向かうおつもりでしょうかー……?」
チヨコはもう一度満面な笑顔をタロウに見せる。
「決まってるわよ、このクソ映像流してクソなこと言ってる、クソハゲに!…ダメだぞって、教えてあげるのよ」
「……それって、人は死んだりしないよな…?」
タロウの心配など気にもとめずチヨコはタロウの手をしっかりと握りしめ、それはもう突風のように走り出していった。
「うわーーーーーーーーーー!!!はやっ!!オカアサァァァァァン!!」
ダダダダダダダダダダダダダッ!!!
「呼んだぁ?」
「死ぬぅぅぅぅぅぅ!!」
ダダダダダッ!!
「うん?聞こえないわよぉ?大丈夫、9時までには戻ってくるからぁ!パッと行って、パッと帰ってきましょ」
「ああああああああ!!!」
勇者ですが何か?講座
ーファースト・ファンタズィーー
とあるゲーム会社が勇者と魔王の戦いにインスピレーションを受け製作したRPGゲーム。シリーズはタロウの旅立ちの日に発売されたので15作目。作品ごとに、世界観が変わり、同一なのはモンスターや技などで、作品ごとに様々な色を見せる作品として有名。その世界観や内容などもさることながら、特徴としてはクオリティーはそのままで、様々なハードで遊べるという初の試みをされたゲームであり、ソフトを購入すると全てのハードに対応した特製のメモリーカードと、ファースト。ファンタズィーで有名な超ザコモンスターであり、マスコット的な立ち位置のブガーの特典がもらえる。15作目はブガーのストラップ。
ーーー見たくないものを見つけたために。ー
(ファースト・ファンタズィー1のキャッチコピー)