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勇者ですが何か?  作者: マイケヌ・ハクション
第1章ー勇者と女騎士ー
17/38

勇者ですが何か?(17)試合前ですが?

「よし、これで良い!」


 訓練所まで戻ってきた二人。

 タロウはアイリーンの耳にガーゼを貼って、頷いた。


「…ほんとにこの作戦で行くの?」


 アイリーンは怪訝な顔をしながら、ガーゼで覆われた耳を触る。


「大丈夫、上手くいくって!…じゃあ電話するぞ」


 そう言ってタロウはテルフォンを操作し、アイリーンへと電話をかけた。間を置いてアイリーンのテルフォンが着信音を鳴らしてブルブル震える。


 アイリーンは通話をオンにしてテルフォンを腰の所に付いている小さなポーチに入れる。


「離れるぞ」


 タロウは走り、ある程度距離が出来た所で、テルフォンに話しかける。


「あーあー、アイリーン聞こえますかー?あー、あー」


 その声はアイリーンに綺麗に聞こえた。予想以上にしっかりと聞こえアイリーンは感心する。


「あー、あー。マイクテスト、えー…、ビッチボッチ、ブゥ……クク、ビッチボッチブゥとか、ファースト・ファンタズィーの敵でいそうだな、ククク…。ビッチ!ボッチ!ブゥゥ!!あーはっはっは!!」


「………」


 ニコニコしながら帰ってきたタロウをアイリーンはにこやかな顔でぶん殴った。



ー勇者ですが何か?ー(17)


 タロウは腫れた頬をすりすりと撫でながら、訓練所の広場が一望できる4階建ての石で出来た建物の屋上に来ていた。


 その建物の中には様々な店がありデパートになっていて、多くの観光客や、アリアーハンの街に住む人々が、出入りしていた。


「……さあて、チーム戦はいつ始まるんだアイリーン?」


 訓練所の広場では、ぞろぞろと、女騎士見習いの少女たちが集まってきて、チームに別れてそれぞれがどう戦うかなどを話し合っていた。


 そんななか、アイリーンだけはやはり、一人チームとは距離を撮った場所で立っていた。


「…おい、アイリーン?聞こえてるなら軽くジャンプしろ」


 タロウの通信にアイリーンは嫌々応えた。


「……ちょっと、あまり質問しないで!ブツブツ言ったらバレるでしょ」


「よしよし、電波は大丈夫そうだ」


 小さい声で返事が返ってきてタロウは満足する。


「俺が指示するからには勝たせてやるから、任せとけ!」



 自信満々なタロウに対し、不安を隠しきれないアイリーン。ガーゼで覆った耳を触り、外れないかと心配していると、後ろからアイリーンと呼ぶ声が聞こえた。


 振り返ると、金髪のロングヘアーの少女が後ろにチームメンバーを引き連れて近くまで来ていた。


「…レベッカ」


 アイリーンは気まずそうにレベッカという名の金髪の少女を見た。


 レベッカはアイリーンと同じで訓練所に通う騎士見習いの少女で、アリアーハンの名門貴族の出身である。レベッカからは高貴な者の雰囲気がしっかりと出ていた。しかし、それは鼻につくような類の雰囲気ではなく、自分の立場や家の環境、他人からどのように見られているのかを理解した上での気品で、多くの人が彼女のこれからに期待するようなオーラを醸し出す人物であった。


「アイリーン、その耳はどうしたの?」


 レベッカに話しかけられたという事実と、触れられたくない耳について質問されアイリーンは慌てた。


「こ、これは!その…さっき剣技の練習してて、その、怪我、怪我しちゃったの!」


 アイリーンの明らかに動揺した態度にレベッカは怪訝な顔をしたが、すぐに凛とした表情に戻る。


「そう、怪我しないようにしっかりしなさいよ。騎士にとって大事なことは、民を守り、敵を討つ事…。だけど、その前に自分が大怪我をしないようにする事も大事だって習ったでしょ?しっかり自分の体にも気を配りなさい…。あなたはいつも力任せに大振りだからいけないのよ」


 レベッカの後ろでアイリーンを見ながら笑う少女達。レベッカは自分の立場を利用するような汚い事はしないし、人を下に見るような事はしないのだが、取り巻きの少女達は違った。たとえレベッカが見下すような態度を取らなくても、少女達は自分がレベッカの友人だから偉い、というような考えを持ち、人にそれを見せつけて下に見る者ばかりだった。


「…分かってるわよ、レベッカに言われなくたって騎士道精神は父さんに教わった!そんなこと当たり前よ!」


 後ろの少女達への苛立ちと、イヤホンをつけている事がバレるかもしれないという不安でアイリーンはキツく当たって、チームメンバーの方へと歩き出した。


 アイリーンの後ろ姿を見ながら、少女達が小馬鹿にするような事を言ってる中で、レベッカはただ黙って見つめるだけだった。



 しばらくして鐘塔の鐘の音が鳴り響き訓練所の教官室から教官である女騎士が颯爽と出てきた。

 すでにチームごとに並び女騎士の号令を待つ騎士見習いの少女達。


 教官の女騎士は前に立って、並ぶ少女達を見回した。


「これより!恒例のチーム対抗戦を始める!ルールはいつもと同じだ!チームに一人ずつリーダーを決めて4対4での試合だ。三回斬られるか、完全に倒れる、あるいは降参したらその騎士は負けだ。リーダーがやられた時点で、そのチームの負けとなる。模造剣を使うとはいえ、気をぬくと大怪我に繋がる!しっかり集中して、メンバーを意識しながらやるように!」


「はい!!」


「では、まず戦うチームはーー」



 教官の号令も終わり、試合の準備を始める少女達。アイリーンも再度、鎧が外れないかなどのチェックをする。


 アイリーンのいるチームのチームリーダーは、アーシャという名の紫髪の少女で、短く切ったボーイッシュな髪と、顔のそばかすがポイントの少女だ。剣の腕はそこそこだが、怒りっぽい。アイリーンに対してキツくあたる一人である。


「リーダーはお前じゃないんだな」


「当たり前でしょ…!私のわけない!」


 タロウの通話に返事をしながらアーシャの方を見てると目があってしまった。


「…何?こっち見ないでくれる?」


「…っ!」


 アイリーンはすぐに目をそらす。アーシャは舌打ちして地面に置いていた剣をとる。


「とにかく、邪魔だけはやめてね?あんたの剣は当たんないんだから、あんたは盾役でもやっといて」


「……」


 アーシャはそれだけ言い残し、訓練所の中央へと歩いて行った。それに続くように他のメンバーの二人も歩きだし、アイリーンも後に続いた。


 中央にチームごとに並び立ち、目の前の相手と見合う少女達。


「まずは、キヨミ率いる第一チーム対、アーシャ率いる第二チームの試合を始める!両チームとも正々堂々と戦うように!」


 教官の女騎士が、両チームの前で笛を構える。


「両チーム、離れよ!」


 その言葉で少女達は位置取りをする為にそれぞれ動く。リーダーであるアーシャは中央に陣取り他の二人はアーシャの左右前方にて構えた。


 アイリーンもアーシャの前へと歩みを進めたが…


「あんたは、後ろにいて!敵が来たら盾になりなさい!」


 アーシャに怒鳴られ渋々言う通りに後ろに待機するアイリーン。


「大丈夫かぁ…?あいつ…」


 タロウはその状況を眺めながら呟いた。



<アリアーハン・武器屋>


「婆さ〜ん!お〜い!」


 武具の修理屋を営む店長は、武器屋の前で老婆を呼んでいた。手には布に巻かれた長い物を持っており、何度も老婆を呼んだ。


「…あれぇ?どっか行ったのか?」


 いくら呼んでも店から老婆は出て来ず、修理屋の店長は、手に持った布に巻かれた長い物を見る。


「ハァ……修理終わったんだけどなぁ…」


 そう言って修理屋の店長は店へと戻っていった。



 一方、武器屋の老婆はどこへ行ったのかというと、実はどこにも行ってなく、ただ店にあるトイレの中で用を足す格好で爆睡してるだけであった。



<アリアーハン・北門>


 アリアーハンには北門、西門、南門と、三つの門が備えられている。

 東には大きな川が流れている為、門は無く、ゲンシュー王国や、他の国へとショートカット出来るように港がある。


 そんなアリアーハンの北門に、一人の男が入ってきてそのまま倒れた。

 門には警備兵が二人付いていて、その二人の警備兵は倒れた男の元へと駆け寄った。


「おい、大丈夫か?」「しっかりしろ」


 二人の警備兵に仰向けにされた男はいかつい体格ではあったが、ボロボロになっていた。


「うぅ…」


「どうしたんだ!?しっかりしろ!」


 「…グッ、くそ…襲われた…」


 男は苦しそうに言った。


「賊だ……街に向かって歩いていたら、突然…森の中から何人も出てきて…気づいたら、後ろにも……!た、戦ったが一人でどうにかできる数じゃねぇ……命からがら逃げてきたって…わけだ…」


 男の言葉に、顔を合わせる警備兵の二人。


「それは本当か?」


 警備兵の一人が確認する。


「嘘なんて言えるかよ…こんな状態でよ……。きつい…」


 警備兵の一人が、男をゆっくりと立たせ、肩に手を回す。


「俺が病院に連れて行く。お前は何人か呼んで、辺りを調査してくれ」


 もう一人の警備兵も頷き立ち上がる。


「気をつけて調査しろよ、本当に賊がいるなら大変だ」


「分かってる、そっちも早く連れてってやりな。あんたも安心しな、俺たちがやっつけるからよ」


 男はそれを聞いて小さく笑う。


「それは…心強い言葉だな」



 男を連れて病院へ向かう仲間を見送りながら、門に残った警備兵はテルフォンを出した。


「……こちら北門、こちら北門。手の空いている者や、近くにいるものは至急来てくれ。繰り返すーー」


 門の外は特に何か変わったものも見えず、ただ風が立てる音が少しばかり不気味に聞こえていた。

勇者ですが何か?講座


ーレベッカ・フランチェルズー

 レベッカは、アイリーンと同じように女騎士育成所『セノビカ』にて女騎士を目指す少女である。

 また、アリアーハンの街の名門貴族の家系で、街に住むものならば知らない人はいないと言われるフランチェルズ家の娘でもある。

 成績も良く、性格も真面目で、身分や成績などで人を見下したりしない、芯の通った少女であり、アイリーンに対しても見下したり、馬鹿にしたりはせず、気にかけている。

 アイリーンの父親への強い思いにレベッカは感心していて、自分は家の為に女騎士としての訓練を受けてるのに対し、アイリーンは父親の隣に立ちたいという思いで女騎士を目指していて、しっかりとした意志の強さと、違いはあれど、似ている共通点、家族の為と言うところで、アイリーンに対して、絆を深めたいとも思っている。

 しかし、周りにいるレベッカの取り巻き達により、レベッカの思いはアイリーンには通じていない。


・歳は15歳

・金髪のロングヘアー

・目の色も金


ーーー私はレベッカ・フランチェルズ。フランチェルズの名において、アリアーハンの街での暴虐は許しません!ーーー

(レベッカの言葉)

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