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勇者ですが何か?  作者: マイケヌ・ハクション
第1章ー勇者と女騎士ー
15/38

勇者ですが何か?(15)買いに来ましたが?

「…なになに?昨日の朝、勇者として予言された少年、タロウ・ウエダ氏が勇者の村をついに旅立った…へぇ、そりゃめでたい日じゃなぁ…ん?この写真に写ってるのは…はて?誰じゃったか…」


 新聞を読んでいた武器屋の老婆は首をかしげた。


「…ダメじゃ、思い出せん!どっかで見たことある気がしたんじゃが…」


 悩んでいる老婆を見て、真向かいの武具の修理屋の店長が笑う。


「なんだい、婆さん、考え事かい?」


 店長に対し、老婆は嫌な顔をして、しっしと手を振る。


「うるさいんじゃ!早よ頼んでた修理終わらせんか!」


 ハイハイと手を挙げ、修理屋の店長は店の中へと戻っていった。戻っていく姿を見届け、老婆はまた新聞に目を落とす。


「…わしの所に勇者が買いに来んかのう…」



ー勇者ですが何か?ー(15)


 タロウとアイリーンは、訓練所の広場から少し離れたところにある、公園にきていた。公園では子供達を連れた母親たちがベンチに座り、ママ会を行っていたし、子供達もまた鬼ごっこで遊んでいた。


「…で、なんでここに来たの?」


 アイリーンの疑問にタロウは悪い笑顔を見せる。


「フッフッフ…、もちろんお前を勝たせる為さ!今から俺の作戦を発表する!………ところでテルフォン持ってる?」


「テルフォン?…持ってるけど、どうして?」


「よし!なら、俺の作戦は順調に行きそうだ!」


 ガッツポーズをした後、タロウはアイリーンにある物を渡した。


「…?何これ、イヤホン?」


 アイリーンは自分の手に渡されたイヤホンを見て首を傾げた。


「これが、作戦とどう関係するわけ?」


「…フッ、よく聞いてくれた。俺は勝たせてやると言ったが、普通に戦っても多分お前は負けるだろう…」


 タロウは後ろで手を組みアイリーンの前を右へ左へと歩きながら話を続ける。


「しかしだね、アイリーン君、そんな君でも簡単に勝つことができると思うんだ、君より剣の扱いの上手い私が教えればね」


「…あんた何かうざいわね……」


「まあ聞け、まずはそうだな……オホン、君の番号を教えてくれない…か?」


 決まり顏でアイリーンに指をさすタロウ。その指をねじるアイリーン。


「だからうざいって…!」


「いたたた!やめろ!勇者の指だぞ!?勇者の指なんだぞ!!」



「…気を取り直して、お前のテルフォンにイヤホンさして、戦ってる時身に付けとくだろ?そこに、遠くから戦ってるところを見てる俺が指示を出す。少なくとも、一応剣技習ってるし、モンスターだって、狩ったことがある。訓練しかやってない相手なんて、そうそう俺の敵じゃないぜ!」


「あんたの言い方はムカつくけど、実際あんたの方が強いのは認めるし、私たちは訓練しかまだ行ってないけど……そのやり方は汚くない?」


「汚いもクソもねぇよ、今からお前の構えから振りからって直すのは間に合わないし、そもそも、そんな簡単に直るようなモノじゃねぇ…とにかく!今回はあくまでもお前を勝たせることだけを考えた。しっかり鎧と兜付けてイヤホン隠せよ?」


「……私、兜付けないんだけど、ていうか…持ってない」


「………は?」


「だって暑いし、見えにくくなるし、何より…お父さんも付けてないから」


 そう言ってアイリーンの目が輝きだした。


「お父さんはかっこいいのよ!一時期、若い兵士達を鍛えてたんだけどね、一人、体の大きな兵士と模擬戦をした時に…」


 熱く語り出したアイリーンは手振り身振りで、その時のことを表現し、突然の行動に困惑するタロウには構うことなく話を続けた。


「…でね、その兵士の振った剣がお父さんの頭に当たるかって時に、お父さんはその剣ごと、叩き折ってたの!そして、こうも言ったわ!『頭を狙うことは確かに良い、頭を切れば即死だろう。当然、兜で守るのが一般的だ。だが、だからこそ覚えておけ、兜を付けてない奴には二種類いることを!一つは、ただのカッコつけ,目立ちたがり屋だ!もう一つは…当たらないと自負してる者だ!自負してる奴は当然頭を狙われた時に対処できる!今の俺みたいにな!できない奴はただ実力がないか、敵が上手うわてか、運がないかだ!』ってね!」


 そう自信満々にドヤ顔で話すアイリーンに引いた顔を隠すことなくタロウは突っ立っていた。


「…お前、本気で言ってんの……?」


「…?当たり前じゃない!父のような騎士になるのよ?外見からも近づいていかないとね」


「お前じゃ多分…当たるぞ?」


「何よ!今のところ!……避けきれたことはあまりないけど……ふ、防いだことはあるわよ!」


「模造剣でよかったな!」


「うるさいわねぇ!」


 アイリーンはそう言ってタロウに拳を食らわせようとするが大振りのため、すぐに避けられてしまう。


「…だがまずいな、兜を付けないならどうするべきか……ん?」


 ふと顔を近くで遊んでいた子供達に向けると、なにやら耳に丸い形の物を付けてる子がいた。しかもタイミングよくタロウの目の前を走り去ろうとしてきたから、タロウは呼び止めた。


「ちょっと良いかい?耳に付けてるそれって……」


 タロウに呼び止められた子供は恐ろしいモノを見てるかのような怯えた顔をして叫ぶ。


「ギィヤァァァァァァ!!!怖い人だぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「えっ!?ちょ、ちょっと落ち着け!」


「な、な、なに泣かせてんのよ!」


 急に泣き出した子供に気づき、ベンチでママ会をしていた母親達が血相を変えて近づいてくる。遊んでいた子供達もまた走ってきて、タロウとアイリーンは囲まれる。


「ちょっと!息子になにしてくれたの!!?」


「警備兵呼ぶわよ!警備兵!!」


「いや、何もしてねぇって!」


 子供達が木の枝を拾いタロウの足や腰を突つく。


「やーい、やーい!な〜かした、な〜かした!警備兵に言っと〜こ〜!」


「おい!突つくな!やめろ!…ヤメロォォ!!」


「ちょっと落ち着いて!あのお母さん方も話を聞いてください!」


 アイリーンがタロウをフォローしようと子供達からタロウを庇うように間に立つ。


「ア、アイリーン!!」


 タロウは女神を見たとき、きっとこんな顔をするだろうと言うような形相でアイリーンの背中を見つめる。


「なに?あなたこの不良の彼女か何か?」


「こんな昼間から公園に来て…なにするつもりなのよ」


「僕知ってるぅ!!不良の男と付き合う女はビッチ何だって〜!ビッチ!ビッチ!」


「こら!やめなさい!ビッチなんて言葉を言うんじゃないの!…本当だとしてもまだ子供なんだからそんな言葉言っちゃダメ!」


「…ビッチ?私が…?ビッチ?」


「ア、アイリーン?」


 急にアイリーンは元気をなくし、端っこでうずくまる。


「私は、そんなんじゃない…ビッチじゃない…」


「おい、アイリーン!戻ってこい!ガキの言葉だ!」


「ガキですって!?私たちの子供をガキですって!」


「ガキじゃないやい、僕たち子供だい!」


 そう言ってまたタロウは突かれ始める。


「子供もガキも一緒だろ!?イテ、やめ…ダメだ!もうこれダメだ!!」


 タロウはもう身をまかせることにして、好きなだけやられる事にした。

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