勇者ですが何か?(14)剣、買いたいんですが?
太陽も上がりアリアーハンの街は賑やかだった。働きに出る者、買い物をする者、旅行や観光で来た者など大勢の人で賑わうアリアーハンの街は、本当に明るい街と言えるモノだった。
そんな明るい街に似合うのか似合わないのか、大きな声が商店の並ぶ一画で響いていた。
「何ぃぃ!?剣を売らないだと!?」
「そこに書いてあるじゃろ?未成年には武器は売らないって…」
そう言って武器屋と書かれた看板の下の店のカウンターで、店員である老婆は新聞を見ながら答えた。
「いや、俺勇者なんだよね!?剣買わないと困るんだよね!?」
「勇者ねぇ…」
ちらっとタロウの方を見た老婆はため息を吐きまたすぐに新聞に顔を落とした。老婆の読んでる新聞の裏面にはタロウの拳くらいの大きさでタロウの顔写真と勇者が旅だったという内容の記事が書かれていた。
「おいババァ、裏見ろよ、裏!俺写ってるから!」
老婆は新聞を強く畳み、タロウを睨む。
「うるさいんじゃ!朝から口の悪いガキだねぇ…!!売らん言うとるじゃろが!…出てけ!!」
そう言って畳んだ新聞をタロウに投げつける。タロウも諦めて、クソババァと暴言を吐きながら武器屋を後にした。
ー勇者ですが何か?ー(14)
<アリアーハンの宿屋前・昨日>
「ここが宿屋よ」
アイリーンとともに森を抜けて無事にアリアーハンの街に到着した二人は24時間開いているレストランで飯を食べ、街の東にある宿屋へと来たのだった。
宿屋は二階建てで、一回が受付と食堂があり、二階がそれぞれの個室になっていた。
「他にも宿屋はいくつかあるんだけど、とりあえずここにしたわ」
「ありがとな、アイリーン」
「良いのよ、別に。そうだ、明日はどうするの?」
「明日?明日はとりあえず武器屋を探して、剣を買おうと思ってる、剣が手に入ったら街を散策でもして、そのあと船乗ってゲンシュー王国に向かおうかなって感じ」
それを聞いてアイリーンは顎に手を置き、少し考えて頷いた。
「……分かったわ、明日、剣を買ったらここでまた合流しましょ、街の観光なら住んでる私がいた方が良いでしょ?」
「ほんとか?それはまぁ、ありがたいけど…お前は良いの?何か用事とかないわけ?」
「ないないないない!!全然ないからっ!とにかく!明日昼過ぎくらいにまた来るから!」
「…?分かった、じゃあ、ありがとよ、また明日」
そう言ってタロウとアイリーンは別れた。
ーー現在ーー
「くそ!あのババァめ!何が未成年には剣は売らないだ!騎士見習いだって早い奴は12歳からなれるぞ!?」
道端に落ちている小石を蹴りながら宿屋に向かっていたら、鐘がなる音がした。音のした方を振り向いてみると、街の中央の方向にそびえ立つ鐘塔が吊るされた鐘を揺らしゴーン、ゴーンと大きな音を響かせていた。
「そういえば、この街、鐘塔があるんだよなぁ、アイリーンが来たら連れてってもらうか!それと剣もどうにかしてもらわないとな…」
空も晴れて、気温も暑すぎない状況でタロウは初めて来たアリアーハンの街に興奮と期待で高まっていた。
宿屋に戻ったタロウだったが、アイリーンはまだ来てないようだった。そこでタロウは受付カウンターで暇を持て余してそうな係員の元へと向かった。
カウンターに頬杖をついていた係員の男はタロウが近づいてくるのに気づき、姿勢を正した。
「お帰りなさいませ、お客様。御用事はお済みで?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど…、青い髪の女の子来なかった?ポニーテールの」
それを聞いた係員の男は知ってるそぶりを見せる。
「それはアイリーンのことですね、彼女は今日は来てませんよ?まだ、訓練の時間でしょうし」
「訓練?」
男は頷いた。
「えぇ、なんせ彼女は女騎士育成所に所属している、騎士見習いですから」
<アリアーハン・女騎士育成所『セノビカ』>
「縦ぇ!横ぉ!縦ぇ!突きぃ!……」
広い芝生の上で女性の声が響く。がっしりとした女性用の鎧を纏った女騎士の掛け声に、ヤァ!という掛け声を上げながら、綺麗に並んだ騎士見習いの少女達は、模造剣を振っていた。
縦横4列に整列した少女達、号令をかけている女騎士から見て、一番左の最後列に、青いポニーテールを揺らし剣を振るう少女、アイリーンがいた。
「…ヤァ!…ヤァ!…ヤァ!」
「アイリーン・フィッシャー!!声が聞こえんぞぉ!!」
「…ハイッ!!…ヤァ!!…ヤァ!!……」
アイリーンの掛け声は小さいわけではなかったが、女騎士は厳しい態度をとっていた。
「振りが甘いっ!!……アイリーン・フィッシャーのタメに貴様ら、もう一度最初から振れっ!!…縦ぇ!横ぉ!」
誰一人文句も言うことなく、ひたすら剣を振り続ける。鐘塔から昼の時間を示す鐘の音が鳴り響く。
「…ようし!午前はここまで!午後からは、チーム対抗戦だ、今回は縦の列でチームを組んでもらう。もちろん!負けたチームにはペナルティがある!しっかりと、自分の実力を示すように!…解散!!」
女騎士の号令で、少女たちは頭を下げ、それぞれチームの仲間たちと輪を作っていった。しかし、アイリーンの列の少女たちはアイリーンの方へは近づかず、アイリーンもまた顔に付いた汗を拭い、その場で息を整えるだけだった。
「…ほんとに最悪よね…アイリーンと一緒だなんて」
「えー、私たち3人じゃ無理くない?3対4じゃ負け確じゃん!」
「アイリーン、昨日の夜寮にいなかったんでしょ?」
「だから、先生機嫌悪かったんだぁ!」
「…ほんとに迷惑よね、親が凄いからって、なんなの?」
少女たちはアイリーンに聞こえるような声でアイリーンに対しての誹謗中傷を放ちまくる。
そんな少女たちの方を見つめると、一人の少女と目が合ってしまう。
「何?アイリーン、私たちの足引っ張らないでね」
「……分かってるわよ」
「はぁ?口動かすなら、剣振ってれば?剣撃当てれるようになってから、分かったなんて言ってくれる?」
「あはは、言い過ぎ〜」
少女たちは笑い、アイリーンの横を通り過ぎていく。さらに通り過ぎ際にはアイリーンの肩にワザと体をぶつけ、アイリーンは怯む。
「ちょっと!あんた邪魔なのよ!突っ立ってないで、剣振れっての!」
「……」
「チームが負けたら、あんたのせいだから」
そう言い捨てて、少女たちは去っていった。他の少女たちもクスクスと笑ったり、無視し、気づけばアイリーンだけが広い芝生の上で、ポツリと立っていた。
「……なかなか言われてんな」
不意に声がして、声の方を振り向くアイリーン。
「…なんで、ここにいんのよ……」
「お前が観光ガイドするって言い出したんだろ?」
広場の入り口の門柱に背を預けたタロウは言葉を続ける。
「あと、剣が買えねぇからさ…そこん所どうにかしてもらいたいんだよ、お前に折られたわけだし…」
「……」
タロウが少女たちにボロクソに言われたことを聞かれてたという事実にアイリーンは顔を下に向ける。
「…あのさ、昨日みたいに言い返せよ」
「…っ…さい…」
「昨日はめちゃくちゃ啖呵切ってたのによぉ」
「……ぅるさい…」
タロウはアイリーンの方へと歩み寄っていく。
「まぁ、お前の剣の振りが大雑把なのは俺も確かに、とは思うけどさ」
アイリーンは顔を上げタロウを睨む。
「…うるさいのよ!!あんたに関係ないでしょ!」
そのアイリーンの怒声を聞いた後、何事もなかったような感じでタロウは続けた。
「でもお前は勇者の俺を救ったし勇者の俺に勝ったんだ。だから…お前は強いよ」
「っ!」
その真面目な顔でアイリーンの目を見据えるタロウにアイリーンは狼狽える。
「で、でも!…実際、私がピンチになってあんたが助けたじゃない!勝負だって!剣が折れなかったら、歯が立たなかった!」
「でも俺の言った言葉も真実だろ?」
「それは…!っでも、私は一度もここで勝ったことがない…」
そう言って俯くアイリーンの肩に手を置くタロウ。
「俺が、お前を勝たせてやるよ」
「…え?」
タロウの言葉に顔を上げるアイリーン。
「俺に勝ったやつが、俺以外に負けるのは見たくない!…なんてな」
タロウはそう言って笑った。
勇者ですが何か?講座
〜アリアーハン〜
トキヨー大陸、勇者の村から南に行った場所にある、鐘塔が目印の中規模の街、アリアーハン。大陸の中央近くに位置し、ゲンシュー王国の王都にも近いことから、多くの人々が訪れる街である。
さらにアリアーハンは騎士を育成することにも力を入れており、特に力を入れているのが女騎士の育成である。
アリアーハンにある女騎士育成所『セノビカ』は、昔の女英雄、セノビカの名を取っている。
多くの人々が出入りをしており、確実に成長を遂げていってる街であるのだが、鐘塔だけは、昔からそのままの状態を維持している。
ゲンシュー王国第六騎士団副団長のログウェル、娘のアイリーンはアリアーハン出身。
ーーー幸も不幸も鐘が知らしてくれる、この街の発展を見守り続けている鐘がねーーー
(アリアーハンの街道インタビューにて)