勇者ですが何か?(13)折れましたが?
タロウはバッグに手を入れ、タケゾウ製作勇者の剣(兵士の剣以下の出来栄え)を取り出して上に掲げた。
バッグから出てくる所を見て魔法のバッグということに気づくアイリーン。普通のバッグではありえない光景を見て一瞬だけ目を丸くしたがすぐに険しい顔に戻り、外へと出る。
外に出たアイリーンはそのまま真っ直ぐ歩き、小屋の前の少し開けた所で止まり、振り返った。タロウは後ろから付いて来ていた。
「思いっきり来なさいっ!!この私、アイリーン・フィッシャーの強さをその身体に教えてあげる!」
タロウに剣を向けてアイリーンは言い放ったが、タロウはと言うと、しっかりと調理された料理ではなかったにしろ、ジャーキーやバナナなどを食べた満足感で眠気が来たのか、あくびをしながら頷いた。
「ふぁーあ…、そうかそうか、よろしく青髪女。俺眠くなって来たんだけど、ほんとにやるの?謝るからやめようぜ?」
あくびをし、背中を掻きながらだるそうに話すタロウにアイリーンの顔はますます険しくなる。
「覚悟しなさい!!…ハアァァァッ!!」
アイリーンはタロウに向かってダッシュして切り掛かる。その大きく振られた剣をタロウは易々と躱す。
「な?さっきも言ったけど、お前の剣は大振りで雑なんだって。避けれるから」
「うるっさい!やああ!」
「おっと…」
大雑把に振るっていた剣が、大雑把ゆえにタロウに当たりそうになる。だがそれをしっかり対処し、剣を構えて防ごうとするタロウだったが……。
ガキン!(ポキン!)
「え…?」
防いだはずの剣はギリギリタロウの体を掠め損ねる。ーーなぜ?防いだはずなのにーー
答えは簡単なことだった。剣と剣がぶつかった瞬間、タロウの剣は呆気なく折れたのだった…。
ーー伝説の鍛冶士の作りし剣(超駄作)折れるーー
「な…!俺の…え?………タケゾウ…。タケ、タケゾ〜〜ウ!!!」
ー勇者ですが何か?ー(13)
「…そんなに落ち込まないでよ…。なんか私が悪いみたいじゃない……」
小屋の隅で折れた剣を持ち沈んでいるタロウにアイリーンは気まずそうに声をかける。その声には反応を見せず、タロウはブツブツと独り言を言っていた。
「はぁ、なんでこんな奴が勇者なのよ…、ほんとに残念すぎるわね…」
アイリーンは椅子に縛られて未だに気絶している男二人を見たあと、タロウの方に近づいていく。
「ほら、立ちなさいよ。アリアーハンに行くんでしょ?私も鎧とか荷物置いてるし、連れて行ってあげるから立ちなさい」
アイリーンは腰に手を置きうなだれているタロウに声をかけたがタロウはひたすらにブツブツ言っていた。
「…あーもう!私もさっきは悪かったから、謝るからそのブツブツ言うのやめてくれない?とりあえずまずは立ちなさいって!」
そう言ってタロウを立ち上がらすために体を触ろうとするとタロウはその手を叩いた。
「ちょっ!何するのよ!」
「うるせー!!元はと言えば、お前がいきなり出てきたのが悪いんだよぉ!この馬鹿!」
突然キレられてアイリーンもまた険しい表情になる。
「いきなりキレないでよ!だいたい助けに来たってさっきも言ったのに!あんた人の話聞いてんの!?」
タロウはムクッと立ち上がり、折れた剣をアイリーンの目の前に突き出す。
「お前のせいで折れたんだぞ、俺の剣は!誰がこの剣を作ったと思ってんだぁ!?」
「…さぁ?ラクダヨ王国の見習い鍛冶士か、素人か、それかあんた自身が作ったとか?」
「違あぁう!!この剣を作ったのはレジェンド・オブ・ブラックスミスのタケゾウだぞ!?分かってんのか!伝説の鍛冶士だぞ!?」
その言葉を聞いて、アイリーンは目を大きく開き驚いた。
「この剣、伝説の鍛冶士が作ったの!?」
「そうだ!!」
「……え?しょぼくない、この出来…。嘘でしょ?」
誰もがひどい出来の剣だというタケゾウの手抜きの剣にアイリーンも同様の感想を述べた。タロウは、そうだろそうだろと頷いた。
「嘘だと思うのは仕方ない、だが紛れもない真実なのだよ、青髪女よ…」
「そんな…嘘よ……!剣を扱う者なら一度は自分だけの剣を作ってもらいたいと思うのよ?だって…伝説の鍛冶士なんだから!」
「それは、あくまでも外の人達の声なんだよなぁ、ラクダヨ王国の中じゃ、タケゾウの元に行く理由としては剣に対するクレームを言いに行く奴くらいだぞ」
タロウがそう言うと、今度はアイリーンの顔色が悪くなっていく。そして顔に手を添えて、首を横に振る。
「それ以上言わないで!…私の夢が壊れるから!」
タロウはアイリーンの信じたくないという表情を見て笑い、立ち上がる。タロウが立つのを見て、アイリーンもタロウの顔を見る。もう悲しんだ感じではなかった。
「…まあ、どうせ街に着いたら売っぱらって剣を買おうと思ってたんだ…、ただそれまでの間の武器がないから凹んでたわけだけど…」
「なんで、凹むのよ?」
「だって勇者だぜ?勇者が武器なしでいるなんて…おかしいだろ?」
「…そうかしら?まぁ、旅してるのに持ってない状態が続くのはおかしいけど、街まですぐなんだし、それに私がいるんだから大丈夫でしょ。狼とか来ても、追い払ってあげるわよ」
自信満々の言葉を放つアイリーンに疑いの目をしながらも、バッグに折れた剣を入れて歩き出すタロウ。
「お前の剣じゃどうだろうなぁ」
「何?不満なわけ?一応あんたに勝ったのよ?」
「剣が最悪だったからな」
「とはいえ、勝ちは勝ちでしょ?戦意をなくした時点で負けだから」
二人は言い合いながら、その小屋を後にした。中に二人の男を残して。
夜の闇が広がる森を、二人は歩く。
「なぁ、今更なんだけどさぁ…」
「何よ?どうかした?」
二人で横に並んで歩いていたがタロウは不意に足を止める。
「俺、お前の名前知らないんだけど?」
「はぁ?何言ってるのよ、私小屋の中で名乗ったでしょ?聞いてないの?」
ーー…私はアイリーン・フィッシャー。ゲンシュー王国第六騎士団副団長ログウェルの娘!!ーー
「言ったはずよ?」
タロウはうーんと考えたが首を横に振る。
「だめだ、思い出せねぇ…。多分カレー食べれなくなって、全部どうでもよくなってた」
それを聞いてアイリーンはため息を吐き、まったくと言って顔を上げ、空に浮かぶ星空を見て深呼吸する。
「…アイリーン・フィッシャー……それが私の名前よ」
「そうかアイリーン、ま、ありがとう、そしてよろしくっと。…俺はタロウ・ウエダ…知っての通り予言で勇者って言われて旅を始めた者だ」
そう言ってタロウは手をアイリーンに向かって伸ばす。
「…まぁ街までよろしく、アイリーン」
「…えぇ、任せて、タロウ」
アイリーンは伸ばされた手を握り返し握手をした。
「街に着いたら私が奢るから、軽くご飯でも食べましょ」
「おっ!そいつは良いねぇ、でも良いのか?女子なのにこんな夜に食べたら太るんじゃね?」
「鍛えてるし、今日は戦ったんだから良いのよ、私も街でてからは食べてないし…お腹も空くわよ」
二人は夜の森を歩いていく。