勇者ですが何か?(11)騎士の娘ですが?
「父さん、父さん!見てて!」
そう言ってまだ小さな少女は木剣を大きく縦へ横へと振った。
「ね?ブンブン鳴ってるでしょ?」
それを微笑みながらその少女の父親は頷いた。
「すごいじゃないか!父さんもそんなには振れないよ」
「それはウソよ!父さんの剣はもっとこう…バンってなってシュッてなってるもん!!」
「そうか?」
「そうよ!父さんの剣の扱い方はかっこいいわ!…私ね!大きくなったら女騎士になるの!そして父さんのいるゲンシュー王国の第六騎士団に入るのよ!」
幼いアイリーンは小さなポニーテールを揺らしながら剣をふるって見せた。そして歯を見せニシシと笑う。
「…そうか、女騎士になりたいのかぁ…その時は父さんを守ってくれよ?」
「父さんも私を守ってね!」
「もちろん!」
そう言って二人は小指を結び約束した。
「…私絶対に強くなるからね!父さんみたいに強い騎士にーー」
「ハァハァ…ハァ、やっと見つけたわ…!」
アイリーンは森をひたすら進み、遂に勇者が捕らわれてるだろう小屋の前へと辿り着いた。
「…待ってて父さん…私はこうするしかもう…近づけないと思うから」
ー勇者ですが何か?ー(11)
ゆっくりと小屋に近づき、玄関以外に窓や裏口などがあるか調べるアイリーン。
「…いたって普通の小屋ね…って言うよりも普通に、1軒のロッジハウスみたいな感じね…」
小屋を回っていると窓があることに気づく。中は白く薄いカーテンで閉じられていたが、中の光によって外から中は綺麗に見えた。
「どうなってるのかしら…」
中からは男の会話が小さく聞こえる。アイリーンはバレないように注意しながらゆっくりと窓に顔を寄せた。
見えたのはテーブルをはさみ、座りあっている眼帯の男と金髪の髪の少年だった。
「間違いないわね、勇者だ…、え?ていうか今思ったけどジャージで旅に出たの?」
勇者はテレビ局に来ていた時と同じ格好のジャージ姿だった。椅子に縛られているのが見えた。
「ふぅ…大丈夫よ、私ならできるわ、この窓から…は、ガラスの破片が刺さったら危ないから入らないけど…よ、鎧着るの忘れたし仕方ないわよね?」
アイリーンはどう入ろうかと考えながらそれを独り言に出していた。
「見たところあの眼帯は武器を持ってなさそうだし?…直接真正面からでもいいわよね、きっと!」
アイリーンは玄関の前に立ち剣を抜いた。そして深く息を吸う。叫び声を聞いた時までは暗くなった森に怯えていたが、狼の遠吠えも気づけば消え、森の中は虫の鳴き声と風で揺れる木々の音だけの空間だった。
何度かの深呼吸を繰り返しその瞬間を決意する。
「……ハァァァァァァァァア!!!」
思いっきり扉を蹴破り中へと突入するアイリーン。眼帯の男もタロウも突然のことに慌てた反応を見せる。
アイリーンはそのままテーブルの上へと飛び乗り、眼帯の男の元に向かって大きく剣を振るう。
だが、大きく振った剣はあと少しで顔を切るだろうという所で避けられた。眼帯の男は床へと崩れ落ちるように避けて、すぐに体勢を整える。
「くっ…外れた!」
「何もんだテメェ!!」
男は素手で構えた。
「えぇ!?………何!?誰!?」
タロウは縛られた身体をギシギシ言わせながら、突然の訪問者に対して疑問をぶつけた。
ーーパリンっ!
その音にタロウが振り向くとカレーの入った皿を落としたダルキヨが奥のキッチンから出てきていた。
「な、なな、なんだテメェ!!」
驚きのあまり落として割れた皿の破片を拾いながら眼帯男と同じことを突然入ってきたアイリーンに放った。
アイリーンはダルキヨと眼帯男を交互に睨みながら、隙を見せないように剣を構え続ける。
「…私はアイリーン・フィッシャー。ゲンシュー王国第六騎士団副団長ログウェルの娘!!」
ログウェルの名を聞き、眼帯の男は目を見開いた。
「…第六騎士団、ログウェル、だと…?」
「ゲンシュー王国の第六騎士団って…、確かエイゲンさんは第八だったよな…」
「けっ!お前の親父が誰かなんて関係ねぇよ!この野郎!何しにきやがった!?」
ダルキヨは拾っていた破片をアイリーンへと投げて、突っ込んでいく。
テーブルからダルキヨの方にアイリーンも飛び、横に大きく剣を振った。
アイリーンの振った剣は、ダルキヨの顔面を捉えたが、顔に当たったのは刃の部分ではなく、面になっている部分で、殴りつける形になった。
「グヘッ!」
ダルキヨはそのまま吹っ飛ばされ、床に沈む。アイリーンは一人を倒したことで一瞬気が緩んだ。その一瞬で眼帯の男は間合いを詰めてきていた。
「お嬢ちゃん、隙を見せるのは早い…ぜ!」
アイリーンは避けきれないと悟り、反射的に剣を眼帯の男へと振り回した。おかげで、眼帯の男もそれを後ろに下がり、またにらみ合う状態になる。
しかし、今度はさっきとは違いすぐにまた眼帯の男が距離を詰めて二人の距離は縮まった。アイリーンは近づかせまいと剣を振るが、その全てをことごとく躱され、みぞおちに一発掌底を喰らって、ひるんでしまう。
「うぐ…!」
眼帯の男は追撃をしようとはせずに構えて、ニヤッと笑う。
「お嬢ちゃん、そんなに大振りしてたら当たるもんも当てらんねぇぞ?」
「っ!うるさい!!」
男の言葉にキッと睨み、激昂するアイリーン。みぞおちに片手を添えつつも剣をしっかりと持ち構える。男はやれやれと、わざとらしく手を上げ首を振り、次の瞬間にはまた、獲物を狙うような鋭い目つきで一気にアイリーンまでの距離を縮めてきた。
アイリーンもまた剣を振るい対抗しようとするがみぞおちのダメージが大きかったのか、さらに大振りに、そして雑に剣を振ってしまい、眼帯の男を潜り込ませてしまう。
「その腕じゃぁ、生きていけねぇぜ?」
そう言って、またみぞおちを狙うように今度は連続で拳をぶつける。
「カハッ…!」
みぞおちに連打を喰らい、さらには蹴りも入れられアイリーンは剣を落とし床に膝から崩れ落ちてしまう。
「ガハッ…ゲホゴホッ!……うぅ…」
眼帯の男は落ちた剣を拾い上げ、アイリーンに向かって構える。
「ログウェルの名前を聞いた時は焦ったが…どうやら心配することもなかったな。…本当に娘だとしても、こんなに弱っちいんじゃ、父親の名が廃るよなぁ?」
「……黙れ…、黙れ、黙れ!」
男の言葉に苦しそうに声を出し、涙目になりながら睨みつけるアイリーン。
「…力もないのに乗り込んできたのが悪いんだぜ?」
そう言って男は剣を振り上げた。
勇者ですが何か?講座
ーゲンシュー王国十二騎士団ー
トキヨー大陸の国々の実質頂点として君臨するゲンシュー王国の最強の騎士団の総称。ゲンシュー王国国王と、時の教会の教王により、大陸の平和と秩序を守る為に創設された大きな騎士団で、12の騎士団が存在し、それぞれの騎士団が、団長、副団長を合わせて12人で結成され、さらにその12個の騎士団を統括するゲンシュー王国十二騎士団総帥によって成り立っている。
この十二騎士団の、特に団長、副団長たちの強さは、他の国々の騎士達とは一線を画す強さで恐れ尊敬の目で見られている。
この12個ある騎士団は基本的にはゲンシュー王国国王、時の教会の教王、そして総帥によって指示を出された時にそれぞれの騎士団ごとに行動する。
ただ、騎士団ごとにそれぞれの考え方や信念などがあり、基本的には上記で記されたように指示があった時にのみ正当で強い権威を振るい、平和と秩序の為に行動するものの、実際は指示が出てない通常の時でも各々の騎士団で動いている。
勇者の旅が始まったことによって、十二騎士団もまた、本格的に大陸中の隠れた闇を探し出し粛清する指令を発令される。
ここでゲンシュー王国十二騎士団の団長、副団長の名を記そう。
・第一騎士団 団長:ハジメ 副団長:エルスター
・第二騎士団 団長:ツヴァイ 副団長:ニール
・第三騎士団 団長:トライス 副団長:サンゾウ
・第四騎士団 団長:シグワルド 副団長:ヨーラン
・第五騎士団 団長:インシア 副団長:ツミレ
・第六騎士団 団長:ロクス 副団長:ログウェル
・第七騎士団 団長:ナナコ 副団長:セブルス
・第八騎士団 団長:エイゲン 副団長:ハチヤ
・第九騎士団 団長:クニミツ 副団長:クラウス
・第十騎士団 団長:トーリン 副団長:ジュリア
・第十一騎士団 団長:レイブン 副団長:スワン
・第十二騎士団 団長:デイゼル 副団長:サン
この団長と副団長達は、一人一人が圧倒的な強さを持っており、17年前のクルシカ帝国がラクダヨ王国に侵攻した時に、第三騎士団団長のトライスが一人でクルシカ帝国の王の元へと侵攻を止めるように言って、終わらせたなど、国同士の戦争を止めるだけの抑止力にもなっているほど、畏怖されている。
さらに十二騎士団の中でもずば抜けているのが、ハジメ、ツヴァイ、エルスター、ニールの第一、第二騎士団の団長と副団長と言われている。
この最強の騎士団を国王と教王の元、集め作ったのが、ゲンシュー王国十二騎士団総帥のディバインという人物で、大陸最強の人間と言われており、十二騎士団の団長、副団長全員で互角かどうかと言われるほどの人物で、大陸を脅かす大いなる脅威の時の為の最後の要とされている。
ーーー十二騎士団に加入したものは、教会の名の下に祝福を受けると同時に、大陸の未来の為に、家名を捨て、その最後の日まで尽くさなければならないーーー
(ゲンシュー王国十二騎士団の制約より)