勇者ですが何か?(10)叫びますが?
第1章も始まったので、そろそろサブタイトルの〇〇ですが?系の書き方を変えていくかもしれません。縛っても良いんですが、どうしても伝えたいタイトルの限界を感じるので、大事な回やシリアス回の時は変わるかもしれません。…まぁ、いつそんな展開来るのか分かんないんですが…?
「………う、うぅ…う〜ん…」
「………起きますぜ、頭!」
「う…喉が……水…」
「…飲ませてやれ、ダルキヨ」
ダルキヨは水の入ったペットボトルを持ってタロウのところまで向かい、そのまま口を開き、中に水を突っ込む。
「ゴブ!ガブ…ゴクゴク……ブハー、あー生き返った!誰だか知らないけど、ありがとう!助かった!」
水を飲んだことで少しずつ覚醒していくタロウは、目の前にいるモヒカン男と、眼帯を付けた男に気づく。
「あんた達が助けてくれたのか?ありがとう!ほんとに助かった!」
「いやぁ良いさ、道の真ん中で倒れたままだと、悪い奴らに何されるか分からねぇからなぁ」
ーーグウウゥゥゥ
「なんだ?腹も減ってるのか?ダルキヨ、ジャーキーを食べさせてやれ」
「へい!」
「飯までもらって助かるぜ…!朝にパンを食べただけだったんだ」
そう言いながら、だんだんと意識もしっかりして来て自分たちが小屋の中にいることが分かった。
タロウと眼帯の男は丸テーブルを挟んで真向かいに座り、ダルキヨと呼ばれたモヒカンの男は奥の部屋へと向かっていた。
「…ここは…アリアーハンじゃないのか?」
「あぁ、だが街は近いさ……安心しろ、用事が終わったら解放してやる」
「解放?」
そこでタロウは気づいた。自分の両手両足が椅子に縛られていることを。
「な、な、なぁ!?なんじゃこりゃああああああぁ!!!」
ー勇者ですが何か?ー(10)
「くそ!お前ら悪党かよ!?さては…俺のこと知って攫いやがったのか!?」
タロウは眼帯の男を睨みつける。
「ふん、知っているさ、貴様の持っていたこの魔法のバッグ…」
そう言ってテーブルの上にタロウのバッグを置く男。
「あっ、いつの間に!!」
「あんな倒れようもない道で倒れる貧弱さとこのバッグで分かることはただ一つしかねぇだろ?」
「…ゴクッ、やっぱり知ってるか…」
タロウは自分が勇者だから狙われたと思って唾を飲んだ。
「それは……お前が高貴なボンボンってことだ!」
男はドヤ顔でタロウを指差したがタロウは一瞬何を言ってるのか理解できなかった。
「……は?いや、俺は…」
「持って来やしたぜ頭ぁ!」
そう言って皿いっぱいのジャーキーを持って来たダルキヨはテーブルに置いたあと、一枚だけ手に取りタロウの口元へと運ぶ。
「あ、ありがとよ…」
口に運ばれたジャーキーを食べようとしたところで、眼帯の男が止める。
「待てダルキヨ!そこでストップだ!…食べさせるな」
「へい!」
ダルキヨはタロウの口が届くか届かないかの距離でジャーキーをぶらつかせる。
「く……くそ!」
「はい?なんですぅ?ひひひ…」
「お前が気絶したのは空腹からだろう?貧弱な坊っちゃんだな…、ダルキヨの持つジャーキーが欲しければ俺たちにバッグの中身を全て寄越せ」
「何ぃ!?そんなことできるかぁ!」
(バッグの中にはブガーボールとアイコちゃんのカードが入ってる!…絶対に渡せねぇ!)
「ふん、ならこれでどうだ?」
「…ちくしょー!!届かねぇぇ!!…ガシっ!…アムッ!」
タロウの周りの天井から糸が吊るされ、ジャーキーやパン、バナナなどがくっ付いていて、あと少しで届きそうな絶妙な距離だが、届かない…。それがタロウの食欲を刺激した。
「どうだ小僧!!バッグの中身を寄越す気になったか!?楽になれるぞ!」
「ひひ、かしらも酷いことを考えますぁ!…おい!…楽になりなって!」
「クソォぉぉぉ!!!なん……って酷い拷問なんだ!!ウワアアァァァ!!」
ガシガシと空を噛みながらタロウは叫んだが、二人の男はただ笑うだけだった。
「く、くそ…本気できついんだって!腹減りすぎて死にそうなんだよ!!せめて、せめて栄養豊富なバナナだけでも!」
「中々図太い神経してんな!…欲しいならどうすれば良いか…分かるだろ?」
ーーグルルルルゥ
「く…くそ…アイコちゃん……ブガー…」
「…だいぶ弱っているな、そろそろ止めと行こうか。…ダルキヨ!」
「へい!」
「お前の得意料理…なんだった?」
「?…カレーですけど…?」
「なっ!?カレー!!?」
タロウがカレーという言葉に目を輝かせて反応したのを眼帯の男は見逃さなかった。
「どうした?なんでお前が反応する?ん?お前は食べないだろ?…ちなみにこいつのカレーは……」
「…カレーは?」
「カレーは…」
ーーゴクッ
「カレーはっ!?」
ーーそしてトドメの一発。
「美味いぞぉ?」
「くっ……………そおおおおぉぉぉぉ!!!!!!」
「はぁ、はぁ、はぁ…」
青い髪の少女は膝に手をつき、息を整えた。
「はぁ、はぁ…見失った!…いったいどこに行ったの!?」
少女はタロウを抱えた二人を追い森へと入っていったが、バレないようにと隠れることに気を取られ、見失ってしまっていた。
「もうそろそろ、日も落ちるってのに…!私の予定を崩してぇぇ!!…とにかく!探すしかないわね」
少女はそう言ってまた走り、男たちが通ったであろう方向へと歩みを進めた。
「だいたい何なの、あの勇者は!何で、街の手前でやられてんのよ!弱すぎでしょ!?たかだか男二人に!」
少女は男二人に勇者であるタロウが倒されたと思っていた。
「ニュースで見た時点で残念だとは思ったけど…ここまでなんて!…私の野望がぁ…!」
そう言いながら進んでいると、遠くで何かを感じ少女は止まった。
「ーーー」
「……何か聞こえた?」
(何かの鳴き声のような、人の叫び声のような…気のせいかしら?)
「止まってる場合じゃないわね!進まなきゃ!」
草をかき分けながら、少女は前へ前へと進んでいった。
それからしばらく歩いたが全然見つからず、少女は木の下でへたり込んでいた。
「嘘でしょ……どこにもいないじゃない…」
太陽の光はもうほとんど見えず、夜の闇に森は飲まれていた。
「森の中だから、暗くなるのも早いし…」
ーーワオーーーーーーーン
「ひっ!」
狼の遠吠えが聞こえ少女は剣を抜いた。だが剣を持つ手は震えていた。
「だ、大丈夫よ、大丈夫。遠かったし…」
そう言いながら周りに注意を払う少女。
ーーゴソゴソ
「ひぃっ!!」
近くの茂みが揺れ出てきたのはウサギだった。
「う、ウサギか〜〜!お、驚かさないでよ!…ま、驚いてないけど…」
そう言って剣をさやへ納めていた時だった。
「くっ……………そおおおおぉぉぉぉ!!!!!!」
遠くから叫び声が聞こえた。
「ひいいいいいぃ!!!何何何ぃぃ!?」
少女は木に抱きつきガタガタ震えた。
「ひいいぃぃ…い?………あ、れ?…今の叫び声…」
どこかで聞いた声だと少女は思った。
「勇…者?」
そう言って木から離れ、ニュースのことを思い出す。
「……うん、今のは勇者の声よ…、確かあっちから聞こえた…やっと分かった!」
そう言って声の聞こえた方へと少女は走って行った。もうさっきまで怯えていた少女ではなかった。
「待ってなさい、勇者!この私、アイリーン・フィッシャーが助けてあげるわ!!」
勇者ですが何か講座
ーアイドル・アイコー
超マイナー系愛しのアイドルこと、アイコは知る人ぞ知るアイドルだ。彼女は突然アイドル界に現れ衝撃を与えた。普通、アイドルというものは、キラキラで清純で可憐というイメージで表舞台に出る存在というイメージが強いがアイコは違った。画面に映るアイコは他のアイドルに比べれば大人しく、あまり目立たないタイプだった。アイドルグループが多い中、彼女はソロアイドルとして孤立しているように見えた。それが、ある一定のファン層にはグッときたのだ。他のアイドル達がどんどん前へ出る中、一歩下がっているその姿勢。おどおどして弱々しい姿は守りたいという本能をくすぐる。そして健気に頑張って歌う姿。タロウも魅了された一人だった。
が……、それはあくまでも表向きの姿ということをファンは知らない…。彼女がアイドル界に衝撃を与えたのは、裏側だ。金のためならなんでもする。ファンからの贈り物は写メってSNSに載せれば売りさばく。売れているアイドルのスキャンダルを見つけ(或いは作り)金を巻き上げる。楽したいから、前には出ず、ファンとの交流もだるいからマイナー系を語り、人があまり興味ないことに興味を持ってるふりをする…いわゆる可愛くない正真正銘の悪魔ガールなのである。
ーーーな、なんの取り柄もない…ダメダメな私のライブに来てくれて……グス…ほんとに…うぅ…ありがとうございます!!!(…ったーく、怠いんだよ…あー歌うのかったる…、今度ワンマンライブ持ってきやがったらマネージャー潰すか…、寝室誘えばすぐ来るだろ、いつもやらしい目で見やがって…てめえらもだぞ?キモオタ共め!)ーーー
(初のワンマンライブのMCより)