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復讐を願う魂と拒絶されし者  作者: 聖天騎士
第二章 動きだした者は止まることを知らず
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プロローグ

 シャインゼル家での出来事から十年が経った頃

 アリス・エトワールとの修行も着実と成果を出し、魔領の森の魔物に後れを取らずに戦えるようになったシゼル・エトワールはこの十年間のほとんどを魔領の森で過ごしていた。

 アリスからすでに修行の終わりを告げられてもまだ修行を続け、魔物と戦っていた時


「シゼルは相も変わらずにまだ修行を続けてるのね。」


「師匠。魔物と戦っている時に気配を消して近づかないでください。一緒に攻撃してしまいますよ?」


「まだ決定打も入れられないようなお子様が何をほざいてるのよ。」


 アリスの言う通り、シゼルはこの十年間でまだ一度も決定打を入れられていないのだ。そのために、今も修行を続け一撃でも入れようとしているのだ。


「上級魔術ですら潜り抜けるような人に言われても仕方ないの一言だけですよ。」


「シゼルだって最近はこのあたりの魔物の攻撃を片手で弾くじゃない。」


「あれは手に魔力を込めて弾いてるだけですよ。」


「それだけの魔力制御ができてるだけでも上出来なのにまだ続けるつもり?」


「当然ですよ師匠。力はいくらあっても損ではないし、何かをなすにも力は必要だと思いますから。ところで師匠、何か用ですか?」


 シゼルはアリスが自分の元へきたことに疑問を抱く。

 修業を始めた当初はよく様子を見に来ていたが順調に進み始めたころからは様子を見に来なくなったため一人で修行していた。

 そのために支障が来ることが最近では珍しく、何かあるときにしか来ないのだ。


「そうそうシゼル。三日後から王都にある魔術学園に通ってもらうから修業は強制終了ね。あ、もちろん拒否権は無しね。」


「はぁ?」


「だから、三日後にアーティスタ王国の王都にあるアーティスタ魔術学園に在籍してもらうから修業は終わり。」


「師匠のとんでも発言には慣れたつもりだったんですが、こればかりは・・・。」


 アーティスタ魔術学園はアーティスタ王国の中でも一番の学園で魔術の才能があるだけでなく、精霊を使役できる才能を引き出す学園で在校生の中には元から精霊と契約できている者もおり、優秀な制霊術師がいる学園だ。

 しかし、精霊と契約しているのが貴族が主なので平民の在校生は差別の対象になっている。


「師匠、考え直してください。絶対に此処ににいるほうが得られるものはありますよ。それに僕は、貴族が嫌いです。」


「シゼルの考えはもう聞けませんよ。何せもう推薦状を出したんですから。」


「さすが神速のドラゴンキラー・アリス。やることがえげつない。」


 神速のドラゴンキラー・アリス。それが師匠の二つ名だ。

 師匠は冒険者をしておりブリュッセルナ大陸における五人しかいない冒険者ランクSのうちの一人だ。

 冒険者ランクはギルドという場所で冒険者登録をして依頼をこなしていくことによって上がっていくもので、討伐依頼から実地調査依頼まで幅広くあり、時には大型の魔物討伐もある。

 その中で師匠は大型の魔物の中でも一番苦戦するドラゴンを一人で大量に狩り冒険者登録をしてから最速でSランクに上り詰めた最強の冒険者でついた二つ名が神速のドラゴンキラー・アリスだ。


「使えるものは使わないとね。これもまた一つの力よシゼル。」


「それは分かりますが何故今更魔術学園に?あそこで習う程度のことはもう習い終わってますよ?」


「それはそうでしょうけど向こうでも学べることはあるわよ。」


 アリスの言葉に嘘が無いのはこの十年で嫌というほど思い知らされているが、こればかりは疑問だった。

 何故なら、この魔領の森にいたほうが人よりも強い魔物がたくさんいるために此処の方が確実に強くなりやすく、実戦経験も多く詰めることができるのに。


「シゼルの考えもよくわかるわよ。でもあなたはここで必要なことはもう十分身についてるのよ。でもあなたには目的がある、それはここにいるだけでは達成できない。そうでしょ?」


「・・・・・・。」


 アリスの言った言葉に全く反論ができなかった。

 何故なら、シゼルの目的が復讐にあることをアリスは知っているからだ。そして、ここにいてもそれが達成できないという事も自覚しているからだ。


(僕は、何をしてるんだろうな。ここの居心地が良すぎて長居をしていたな。)


 アリスに言われてようやくここから出る決意を固めるシゼル。


「分かりました師匠。アーティスタ魔術学園に行きます。」


「よろしい。出発は明日でいいから今日は旅立ちの準備をしなさい。」


「僕の場合は、あの魔術で王都まで一瞬なんですけどね。」


「ほんと便利よね、転移魔術って。」


「ある意味僕のオリジナルですからね。」


 転移魔術。 

 シゼルが転移石をもとにして自作した魔術で闇の魔術を応用して一度行ったことのある場所ならば距離に関係なく一瞬で向かうことのできる魔術だ。

 シゼルはアリスに連れられて王都まで行ったことがあるために転移魔術で王都まで一瞬で向かうことができる。


「まあ、シゼルにはそれがあるからまたここに戻ってこれるでしょ。」


「そうですけど。」


「それに、魔術学園に行けばシゼルが知りたいことも見つかるかもしれないしね。」


「それを知っている師匠が言いますか。」


「さあ、明日の準備をしに帰るわよシゼル。私たちの家に。」


(またはぐらかされた。)


 アリスはそういうとシゼルから逃げるようにして立ち去る。そしてそのあとをシゼルも追いかける。

 今の自分たちが住んでいる家へ。





 二人が住んでいるのは山小屋のような家だ

 この家はアリスが作ったもので二人の十年を支えた一番の恒例物だ。


「この家ともしばらくはお別れですか・・・。」


「あら、寂しいの。」


「それはそうですよ。僕にとってはこれまでの人生の中で初めての居場所だったんですから。」


「前に言っていた前世ってやつも含めてよね。」


 アリスにはシゼルが抱え込んでるもう一人の自分、樟 刹那のことを教えてある。

 初めて手を伸ばしてくれただけではなく、強くしてくれたり家族のように接してくれた恩人に隠し事をしていてはだめだと考えてシゼルが自ら教えたのだ。


「やはり、いまだに信じられませんか?」


「信じてはいるんだけれども、シゼルの記憶によれば私と会った頃と何も変わっていない状況なのよね。前世のシゼルって。」


「そうですよ。前世でも僕に手をさし伸ばしてくれる人もいませんし、居場所もありませんでしたよ。」


 シゼルは前世の自分がどういうことになっていたモカも包み隠さず話したのだ。

 自分の目的が復讐であることを告げるには自分の原点を教えたほうが早いと思ったからだ。


「それじゃあ、学園に入るのも・・・。」


「ええ、本当なら通うのも嫌ですが目的のために我慢しますよ。」


「はぁ、これは重症ね・・・。いろいろと大変そうね。」


「なにが大変なんですか?」


「分からないの?シゼルはきっと注目されるわよ絶対に。


「なぜですか?」


「名前にエトワールがついてること。ドラゴンキラーの弟子であること。魔術が優れてること。


「納得しました。」


「分かればよろしい。」


 そう言ってたわいない話を終えて家へと入る二人。

 明日でしばしの別れとなるこの場所を惜しみながら今日を過ごすのだった。





「準備はできてるわね。」


「いつでもいいよ。」


 次の日の早朝、軽い運動を終えて家の前にいるシゼルはこの森に来てから着だした黒を主張した服を着て旅支度を済ませていた。


「さあ、これからがシゼルの目的のための本当の人生よ。悔いの残らないようにいきなさい。」


「わかってるよ、師匠。でも師匠を超えることも忘れてないからな。」


「その時を楽しみに待っているわよ。」


「ああ。」


 お互いに再開の握手を交わし、シゼルが詠唱を始める。


「我を導きし力よ、我を望みし場所へ、誘え・・・」


「どうしたのシゼル?」


 途中で詠唱をやめたシゼルに戸惑っていると、


「師匠、ありがとうな。あの時に手を差し伸べてくれて。僕を育ててくれて。強くしてくれて。」


「またいきなりだねシゼルは。体調でも壊した?」


「いいや、本心だよ。だから言わせてくれよ。」


「いったい何を・・・?」


「行ってきます、母さん。」


「ちょっ!!」


「【テレーポーテーション】!」


 最後にシゼルはそう言いたかったのだ、今までの家族の形を知らなかった自分にこんな幸せをくれた人への感謝の気持ちとこれからも自分はアリスの息子だよと伝えたかったのだ。

 そんなことを悟ったアリスは転移が終わった後もしばらく動けなかった。






 ~アリスsaid~

「行ってきます、母さん。」


 シゼルに言われた言葉が私の頭から離れなかった。

 シゼルがどうしてあんなことを言ったのかが何となく分かってしまったからだ。


「最後の言葉は驚いたよシゼル。まさかこの私を母親だなんて。」


 私みたいな女が母親を気取れるのかですら危ういというのにどうしてシゼルは私を母だなんて言えるのだろうか。


「私が母親でもやれることもないに等しいのにね。あの子ったらもう。」


 内心では嫌な感じがしないのはあの子の前では言えないけどね。


「ああいわれたらこう返すしかないじゃない・・・」


 そうやって私が出した返しは、


「行ってらしゃい、シゼル。帰って来るのを待ってるわよ。」


 転移は終わっているが、今の言葉が私の息子に届くことを願ってつぶやいた。



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