第五話 決死の逃走
「とっとと出て行け!!!!この化け物が!!!!!!」
属性の儀を執り行った部屋でそう言われ、自分の部屋へ行きこの家を出ていく準備をしている最中、
「よう、シゼル。てめぇ闇属性と無属性の適性を出したんだって。所詮、親がクズなら子もクズってことだな。」
「・・・・・・。」
フィーゼル兄様がアレイスターから聞きつけたのか、属性の儀の結果を知っておりそのことで僕を何時もの様に煽ってくる。
「今どんな気持ちだよこのクズ。自分が忌み子になった気分はよぅ。てめぇの親は忌み子じゃねえ見てぇだが、てめぇはそれ以下のクズになっちまったな。」
「・・・・・・。」
「まあ、てめぇの親もてめぇを生んだってことでこれからお父様が直々に殺すみてぇだがな。残念だったな、自分の子の顔を一度も見れずに死んでいくのって。てめぇもそう思うよなぁ?。」
「・・・・・・。」
フィーゼル兄様の戯言をすべて聞き流し、何も答えずにいるとフィーゼル兄様がしびれを切らしてきて、
「なんとか言えよこの化け物が!てめぇはもう人としても見られねえんだよ!」
「・・・・・・。」
僕のことをアレイスターと同じように「化け物」と呼び、そのまま腹を蹴ってきた。だが、それでも何も示さない僕い飽きたのか、
「ちぃ、つまんねえ奴。とっとと此処から出て行けよなこの化け物が。」
最後にそう言い残し部屋から出て行った。
(言われなくてももうこの屋敷から出ていくしかないんだよ。もう、この屋敷には居場所も何も無いのだから。)
フィーゼル兄様が出て行った後にそう思いながら僕はここを出ていくための準備を続ける。
シャインゼル家の領地内の森の中、雨が降る中僕はシャインゼル家から遠くへ行くために荷物を詰めた袋を背負いながら歩いていると、僕の後を追ってくるように何人かの足音が聞こえる。
「この場合考えられるのは、盗賊かそれとも・・・。」
その足音に気付いた僕は小声でそうつぶやく。後ろの足音に気を払いながら・・・。
しかしそれがいけなかった。後ろの足跡に気を払いすぎていた僕は、前から足音を出さずに忍び寄ってくる人影に気付くのが遅れてしまった。
その人影は懐から短刀を取り出し、それを逆手に持ち僕にめがけて振り下ろしてくる。
「なっ!・・・」
その短刀をギリギリのところで回避することができた僕は慌てて離れると、後ろの足音がさらに近づいてくる。
そうして襲ってきた人影に目線を向けると、
「今のが避けられてしまうとは、運だけはあるようですね。忌まわしいことです、化け物のくせに。」
そう言いながら僕の方を睨みながら短刀を構えるその人影は、全身を黒装束で覆い、誰かわからなくしていた。恐らくは、後ろからくる足音も全員がそうなんだろうと思いながらも僕は短刀を構えている黒装束の人の声に聞き覚えがあった。
「シャルティアさん・・・。」
「ほう、私のことを覚えているとは殊勝な心掛けですよ。化け物よ。」
その声は、奴隷メイドとともに僕を育ててくれた、代々シャインゼル家に仕えるメイドのシャルティア・エルマーニであった。
「どうしてシャルティアさんが・・・。」
「薄々は気づいているはずですよね?後ろの足音を警戒していたのですから。」
「やはりあの男は僕を・・・。」
「やはり賢いですね化け物よ。その通りです。旦那様は、あなたがどこかへ行く前にこの領地内で殺すか、旦那様から頂いたこれを使ってどこかへ飛ばすようにとの事ですよ。」
そう言って、腰に掛けている袋の中から、黒い鉱石を取り出し僕にみせびらかす。
「転移石ですか・・・。」
「そうです。これを使い、いたぶった化け物を転移させろとのことですので。」
転移石
それは闇の魔力が込められている石でこの石に登録されている場所に対象者を強制的に転移させることができる石でアーティスタ王国の中では使用はおろかそれを取ることすら許されていない禁忌の石。しかし、その効果のあまりこの石に込める魔力は膨大で一度使えば砕けてしまう。
「それを使うという事は、本気という事ですね。」
「そうですね。ちなみにこれを使えばどこに転移するのかは知らないので覚悟がいりますよ。」
「どのみち死ぬしかないという事ですよね、それ。聞きますけど、魔力は十分なんですかね、それは?」
「十分ですよ。たとえ足りなくても、私の魔力がありますので安心ですよ。」
「全く安心できませんよ僕は。」
そうやって話していると後ろからついてきた足音も追いつき、全員で僕を囲むようにして散らばる。
「観念しなさい化け物。せめてもの情けでどちらが良いのか決めさせてあげるから。ここで死ぬか転移して死ぬか。」
シャルティアがそう言いながら転移石と短刀を僕に向けてくるが、僕はあることを待っていた。
「殺されると分かってて大人しく歩いているわけないでしょう。策の一つくらい用意してありますよ、シャルティアさん。」
「それはどういう意味でしょうか?」
僕の言った言葉に反応してシャルティアが回りを警戒しだすとそれは現れた。
「ブヒィィィィィ!!」
「な、何故魔物が此処に」
現れたのはオークだった。
突然現れたオークに黒装束の人達もシャルティアでさえも瞬間的に油断してしまった。
「いったい何をしたのですか!化け物!」
「僕の服にオークやゴブリンが好む匂いをつけ、それにつられてオークが現れた。ただそれだけの事です。まぁ、シャルティアさんたちが来なければ僕も危なかったですが。結果的に成功してよかったですよ。下手をすればウルフまで来てしまうので。」
「なんてことを。」
シャルティアは僕がやったことに驚きを隠せないでいた。
何故なら貴族の領地内に出た魔物は早く倒しておかなければならないからだ。早く倒さなければ領地内の民に被害が出てしまうために。実際に魔物の存在を知っていたはずの貴族が魔物を倒さなかったことがあり、それで村が滅んだことがあるためアーティスタ王国は魔物を見つけたらすぐに倒さなければならないのだ。
「こんなことをしでかすとは。しかし、つられてしまったのはオーク一匹だけですか。慌てるまでもありません。」
オークが一匹だけしか出てこなかったことに安堵するシャルティア、しかし現実は非常だった。
現れたオークの後ろからさらに新たな足音が聞こえて来るからだ。
「な、なんですかこの足音は?」
「シャルティアさん、オークの習性を忘れていますよ。オークは基本的に集団で行動します。さっきの鳴き声も仲間を呼ぶための合図ですよ。」
そうやって待っているとさらな複数のオークが現れた。
「くっ!先に魔物を倒します。化け物の始末は魔物を倒してからでも十分です。」
シャルティアがそう指示を出すと、ほかの黒装束も魔物を倒すために短刀を出し、群れのオークと対峙する。
黒装束がオークと争っている隙に僕は少しでも早くこの場から離れる。
「しまった、待ちなさい!」
それにいち早く気付いたシャルティアは魔物を他の黒装束に任せ、僕の後をつけるが、
「炎よ、わが敵を阻み、我を守りたまえ。【ファイヤーウォール】!」
「くっ!」
僕が放った【ファイヤーウォール】によって道を塞がれてしまう。そして【ファイヤーウォール】の火が森の木々に燃え移って炎の壁の範囲を広げてしまう。
「まさか火の初級魔術まで使うとは。誰か水の魔術で消化を、残りのものはオークの殲滅を続行。」
「はい。水よ、激しき流れで、わが道を開け。【アクアゲイザー】!」
そうして黒装束の一人が水の中級魔術【アクアゲイザー】を使い炎の壁を消すと、一枚の服が捨てられており、殺害対象の僕はいなかった。
「してやられました。魔物を私たちにたきつけ、自分を逃がす段取りを立てていたとは。本当に末恐ろしい化け物ですよ。シャインゼル家に生まれなければきっと凄腕の魔術師になれたのでしょうね。」
「そんなことを言っている場合ではありません。早く追わなければ。」
「分かっていますよ。ここからは、私一人で行きます。もう、策の打ちようもないでしょう。それに、魔物の殲滅に時間をかけていては取り逃がすやもしれないので二手に分かれたほうが有利でしょう。」
「分かりました。」
そう指示を出したシャルティアは一人で後を追うのだった。
「はぁ・・・、はぁ・・・。うまくたきつけたか・・・。」
荒い息をしながら僕は走る。少しでも多く距離を稼ぐために、生き延びるために。ただひたすら森の中を走り抜ける。森の木々を盾にしながら、いつ攻撃されるかわからなくてもまっすぐ走るよりかは当てずらいようにと考えて。
しかしそんな工夫も無駄になってしまう。
突如として足に力が入らなくなってしまった為に。
「ぐはぁ!いったい何が・・・?」
足に力が入らなくなったために転んでしまった僕は、恐る恐る足を見ると左足に一本の黄色い矢のような物が刺さっていた。
「しまった!これじゃあ、走れない。」
「随分手間をかけてさせてくれましたね、化け物。」
そう言って僕が走ってきた道から現れたのはシャルティアさんだった。
「あのような策を用意していたことは驚きましたが、今度は逃がしませんよ。」
「何でシャルティアさんがとは言いません。恐らく魔物は部下に任せたでしょうから。」
「やはりあなたは賢いですね。その矢が何なのかも分かっているでしょうし。本当にシャインゼル家に生まれたことが悔やまれますね。」
「ええ。この矢は雷の初級魔術【ボルトアロー】でしょう。それに、ワザと足に狙ったことも。」
「本当に何でもお見通しなのですね。ちなみになぜ外したのかもわかりますか?」
「・・・僕がどうやって死ぬかの答えを聞くためでしょう。」
「それが判っているならばなぜ逃げるなどという愚かな選択肢を選んだのか私には分かりませんね。最後に聞かせてください。なぜ生きようとするのですか?」
シャルティアは最初に抵抗された時から疑問があったのだ。
この男はどうして生きようとするのか。なぜ、自分が危険になるような方法を使ってまで生きようとしたのか。なぜ、知恵を絞って生きようとするのか。
この男の母はこの男が忌み子であると言われた時に全てを諦めアレイスターに何の抵抗もしないで殺されたというのに。自分の子に会えなくなるというのにだ。
それなのにこの男は生きようとしたのだ。貴族に逆らっても逃げ切れないと分かっているというのに。
「そんなのは決まっているさ。したいことがあるからに決まっているだろう。何もできないまま死んでいくなんて死ぬより耐えきれないことだから。それが例え無謀だったとしても、僕は生きる。ただそれだけさ。」
そう言われてシャルティアはようやくシゼルのことが分かったのだ。シゼルが見ている世界が自分たちと違うことが。
「だから諦めなかったのですか。たとえ実の親に愛されなくても、拒絶されたとしても、ただ生きたいという理由だけで。」
「ええ、そうですよ。だから最後に賭けをしました。」
「賭けですか?この期に及んでまだ策があるというのですか?」
「はい。正真正銘の最後の策ですけど。」
そうして僕が後ろに手をまわしているのをシャルティアが気付くが少し遅く、
「まさか・・・!」
「そう。あなたを殺して僕が生きる。ただそれだけの策です。」
そう言って飛びついてきたシゼルの手には屋敷のナイフがあった。
「本当に一か八かの賭けでした。シャルティアさんがほかの人たちと来ていたら僕は本当に死ぬしかなかったですから。」
「どこまでも生きようとするのですね。この化け物は。」
最後の力とばかりに振られるナイフをシャルティアは余裕でかわしていく。
「はぁ・・・、はぁ・・・。」
「もう諦めなさい。あなたでは私に触れることすらできませんよ。それに、そろそろ限界でしょう。」
シャルティアがそう言うと同時に足に限界が来たてシゼルが倒れる。
「くそっ!」
「あなたはよく頑張りましたよ。しかし、もう終わりです。最後に何か言い残すことはありますか。」
シャルティアが短刀と転移石を向けながら訊ねてくる。
「決まっているだろう。絶対生きてみせる。」
「そうですか、ではさようならですよ。」
そう言って転移石を僕の方に向けて落とすと、転移石がその効果を発動し、対象者を黒い光で包んでいく。
「絶対に復讐してやるよ。生きて必ずな。」
最後のそう言って僕は黒い光に包まれて消えていく。
「できるものならやってみなさい。果たしてそれがかなうかは知りませんが。」
黒い光が消えた場所でシャルティアがそうつぶやく。




