第四話 運命の日
魔物
向こうの世界では存在しなかった生き物でこの世界では存在する。そして、僕がこの世界で生きていくうえで二番目の障害になると考えられている存在だ。魔物の種類はゴブリンやオーク、ドラゴンまでがいる世界だ。
今の基礎魔術を一つしかしか使えない僕では、向こうの世界の体術などを使って、ゴブリンクラスの魔物しか追い返せないため多くの知識が必要なのだ。ゴブリンクラス以上の魔物と出会っても対処できるように。
以前にこの勉強をすると言った時のイリスは、大慌てで書庫から出て行ってしまうほど怯えてしまった為にイリスも前では魔物についての勉強をしない約束させられてしまったため、イリスがいない時でしかできないのだ。
そうやってイリスがいなくなった書庫で一人、属性の儀が終わるまで魔物について調べるのだった。
エミリア姉様の属性の儀が終わってさらに月日が経ち、僕が五歳を迎える日が近づいて来た頃。何時もと同じように書庫にいると、
「もうすぐシゼル君の属性の儀がありますね。」
そう言ってまるで自分の事の様に笑うイリスは僕がすごい結果になるのを疑っていなかった。
「そうですね。火属性の適性があるのは分かっていますのでそれ以外があることを祈るばかりです。」
「それはそうですが、もっと他にないのですか?」
「ありませんよ。そういうイリス様はどうだったのですか?」
僕の答えを聞いて少し渋るイリス様に属性の儀の結果を聞くと、
「私は、水属性に風属性、そして光属性の適性がありました。」
それを聞いた僕は、素直にすごいと思い、
「それはおめでとうございます。三属性の適性とは驚きました。」
「褒めてくれるのは嬉しいですが、お父様が言っていましたよ。シゼル君の方がすごい結果を残すと。」
そう言って渋るイリスは僕より先に誕生日を迎えており属性の儀を終わらしていた。
ちなみに、フィーゼル兄様は光と火属性の適性があり、エミリア姉様は光と雷属性の適性があった。
この結果からみてもイリスの才能はすごいもので将来は凄腕の魔術師か精霊魔術師になれると考えており、僕では、足元にも及ばないと考えている。
「そんな事ないですよ。今だって火属性の魔術が上達せずに一つ覚えるだけで苦労しているというのですから。」
「次は何を覚えようとしているのですか?」
「火の初級魔術【ファイヤーウォール】を覚えようとしています。」
「基礎魔術ですら七歳から習えばいいというのにシゼル君は初級魔術ですら覚えようとしているんですか。」
「ちなみに一瞬だけですが、出せました。」
「シゼル君はおかしいですよ!!!」
「そうでしょうか?」
「ええ!ぜったいにおかしいですよ!!!」
「イリスよ。そろそろ帰るぞ。それと、もう少し静かにせい。」
イリスが叫んでいるとヴェレス様がイリスを迎えに書庫の扉を開けて入ってくると。
「お父様!シゼル君がおかしいです!!」
(何の脈絡もなしにおかしいとは酷いな。)
そう思いながらヴェレス様に駆け寄って慌てふためくイリスを見ていると、
「こやつがおかしいのは今に始まった事では無いだろうが。イチイチ慌てていると切りがないぞイリスよ。」
(ヴェレス様もひどかった。)
二人からの評価に内心で傷ついていると、
「そんなことで驚いていてはお嫁にもらってくれないぞ、こやつがな。」
(なぜそうなるんだよ。)
そういきなりおかしな事を言ってくるヴェレス様に呆れていると。
「んな!お、お父様!いきなり何を言っているのですか!!!」
顔を真っ赤にしながらさらに慌てて叫びだす。
「そうですよヴェレス様。僕のような人間がイリス様と釣り合う事なんてありえないですよ。」
「そ、それは・・・。」
僕はすかさず否定的に語っているとイリスの慌てようがなくなり、今度は落ち込んでしまった。
「ん?なぜだ?我はそう思うのだが?」
「絶対に有り得ませんよヴェレス様。」
「・・・・・・・。」
さらなる否定の言葉でイリスは俯き何も言わなくなった。
「まあ良い。我はそろそろイリスを連れて帰るのでな。また遊んでやってくれ。」
「かしこまりました。」
最後にそう言ったヴェレス様はイリスを抱き上げて帰っていった。
「僕がイリス様と釣り合うなんてありえないんですよ。絶対に。」
ヴェレス様がいなくなった書庫でそうつぶやくとそのまま魔術の練習を始めた。
これ以降、イリスがシャインゼル家を訪れくことなく僕は属性の儀を迎えるのだ。その日が僕の、新たな悲劇の始まりの日になることも知らずに。
そうして迎えた僕の五歳の誕生日。とうとう僕にも属性の儀を執り行う日が来たのだ。
「とうとうこの日が来てしまったか。」
何時もの様に書庫で魔術の練習をしながらそうつぶやく。
あの日を境にイリスはこの書庫に来なくなっていた。僕はそれを不思議に思いつつ魔術の練習を続ける。そうやって練習してく内にあることを思い出す。
(そういえば今まで闇属性と無属性の魔術練習も勉強もあまりしていないな。まあ、当然と言えば当然だけど。)
そう、今まで僕はこの二つの属性に全くと言っていいほど何もしていないのだ。
「まあ、好きに忌み子になろうとは思わないけど知識としては、覚えておきたかったんだけどそれに関する本も資料もないから勉強のしようがないんだけど。はぁー。」
そう言いながらため息を吐きつつも属性の儀に備えていると、
「シゼルよ。」
書庫の扉が開けられ、アレイスターが入ってきた。
「何で御座いましょう?お父様?」
「ヴェレスから聞いたが魔術を使えるという事は誠か?」
「はい、お父様。」
「では一体、何の魔術が使えるのだ?」
「基礎魔術の【フレイム】と最近では初級魔術の【ファイヤーウォール】が数秒使えるくらいで御座います。」
「その歳でそれほどまで使えるのか。それを知っておるのは何人だ?」
「ヴェレス様とイリス様の二人だけで御座います。」
「つまり、我を入れて三人という事か。」
それだけ聞くとしばらく考えこみしばらくすると、
「ついて来いシゼルよ。これより属性の儀を秘密裏に行う。」
「かしこまりました。お父様。」
そう言って書庫を出ていこうとするアレイスターのあとに付いて行きながら
(やはりこいつは、僕に何も期待などしていなかったのだな。今回だって、おそらくはヴェレス様に言われて仕方なくやるだけだろうしな。まあ、適性属性が判るのならどうでもいいことだがヴェレス様には感謝しなければならないな。)
そう思うのだった。
そうしてつれられた場所は本敷の庭ではなく屋敷の地下室だった。なぜ本敷の庭ではなく地下室なのか疑問を抱いたが、地下室にある設備を見た瞬間にすべて吹き飛んでしまった。
(なんだこれは!?)
それは、部屋全体を円で囲うように置かれた『赤色』『青色』『黄色』『茶色』『緑色』『白色』『黒色』『灰色』と、別々の色をした人の大きさの玉とその円の中心に置かれたほかのものと同じくらいの大きさの透明な玉とその円の中に描かれた魔方陣のような模様。
(この屋敷の地下にこんな場所があったなんて・・・。)
自分の生まれの理由上、屋敷を自由に歩き回れず限られた場所にしかいなかった僕は、あまり屋敷のことについて知らないが、ここがほかの場所と違うことだけは、一目でわかった。
「貴様のようなクズには勿体ない場所になるが秘密裏にやらねばならんのでな。仕方なくこの部屋でやることにしたのだよ。」
僕がこの部屋に驚いている間、アレイスターは透明な玉の前まで歩いていき、ゴミを見るような目で睨みながらこの場所について説明する。
「この場所が本来の属性の儀を執り行うための場所なのだが、六大貴族である我らシャインゼル家はこの国の代表のようなものなのでその期待もまた重大なものとなり公の場での属性の儀が求められ、この場所はあまり使われてはおらん。よって私の代で使うのは貴様で初めてになるのだよ。誇りに思うがよい。」
(つまりここで本来は属性の儀を執り行うという事か。)
アレイスターの説明にこの場所のこと以外に興味を示さない僕は話を半分以上聞いてはいなかった。
「今から此処の使い方を実演するので、しっかり見ておくのだぞ。」
そう言って透明な玉に手をかざすと、突如として魔方陣のような模様に光が走り、それが一周したところで色のついた玉に変化が現れた。
「これは・・・。」
そこには『赤色』と『茶色』が弱く光り、『白色』が一番強く光っていた。
「このように透明な玉に自分の魔力を流すことでその魔力に反応してこの魔方陣が起動し、自分の適性とどれほどの強さなのかが判るという事だ。今までのパーティーで使っていたのはこれの適性しかわからないものだがな。」
そうしてしばらくするとアレイスターは透明な玉から手を放す、そうすると今まで光っていた光も消えてしまう。
「さ、次は貴様の番だ。早く終わらせろ。」
そう言ってアレイスターは僕が立っている位置まで戻って来て、僕を魔方陣の中へ押し出す。
(もう覚悟を決めるしかないか・・・。)
そう思い深呼吸をしながら透明な玉のある場所まで歩いて行き、
「やります。」
そう言って透明な玉に手をかざし、光が魔方陣を一周するのを目で追い、一周したところで結果を見てみると。
そこには八つ全ての玉に光が灯っていた。より正確に言うと『白色』が一番弱い光でその次が『赤色』『青色』『黄色』『茶色』『緑色』が『白色』よりほんの少しだけましな光を放ち、『黒色』と『灰色』がこれでもかというほど輝いていた。その輝きは先程のアレイスターの『白色』の光を簡単に呑み込めそうなほどの輝きだ。
僕はこの結果を素直に喜べなかった。何故なら。
「馬鹿な、忌み子だと。ふざけるな!貴様はどれだけこのシャインゼル家に不幸を持ってくるのだ!!なぜだ!この家をつぶしたいのか!!!いいかげんにしろ!あの腐りきった女の息子という事だけでも腹立たしいのにさらに泥を塗るというのか!!!この化け物め!!!!!」
闇と無は人間族の中では忌み子として扱われており最悪の場合、その子は人としても見てもらえなくなる。
僕の適性を見たアレイスターは今まで見てきた中で一番の敵意と悪意、そして僕を自分の出来損ないのゴミとしてではなく、本当に化け物を見るような目で見ていた。
「そうだ!貴様は化け物なのだ。そう、この我がシャインゼル家を不幸にする化け物なのだ!!化け物化け物化け物化け物バケモノバケモノバケモノバケモノバケモノバケモノバケモノバケモノバケモノバケモノ・・・」
「お、お父・・・」
「その口で我の名を呼ぶな!!!化け物!!!」
アレイスターを落ち着かせるために伸ばそうとした手は・・・
拒絶されたのだ。それも、最悪の形で
「とっとと出て行け!!!!この化け物が!!!!!!」




