第三十四話 落ちていく者たち
すみません、突然パソコンの画面がつかなくなったために日が空いてしまいました。
こんなことがまたあるかもしれませんがなるべく知らせられるように頑張りますので「復讐を願う魂と拒絶されし者」をよろしくお願いします。
~時雨said~
私たちがシゼル君のもとまで戻ってみると、顔や体から血を流しているシゼル君の姿と精霊を顕現させながらそのまま止めに入ろうとしている貴族が目に入り、慌ててシゼル君の目の前に光属性の中級魔術【ホーリーシールド】を張りながら駆け寄ります。
「何でここに戻ってきたんだよ!」
「そんなの決まっています!友達を助ける為です!!」
「そうよ!私たちだってシゼルに守られてるだけじゃないのよ!」
シゼル君が戻ってきた私たちを見て叱りますがライラちゃんと一緒になってシゼル君のそばに寄ります。
そうしたら、背中にも何かで切られたような傷があり、血も多く流れていました。
「今治します。癒せ。【ヒーリング】!」
「ちょっと待て、俺は・・・、」
シゼル君が何か言おうとしていますが無視して【ヒーリング】をかけます。
【ヒーリング】は体力を回復させるだけではなく、多少の傷なら一緒に直してくれるので便利な魔術です。
しかし、シゼル君の背中の傷の治りは思ったほど塞がりませんでした。
「なんで?」
「俺はの回復系統の魔術が掛かりづらい体質なんだよ。だからその程度の回復力ならあまり治らない。」
「それじゃあこの傷はどうするんですか?」
「後で時間をかけて治すしかないよ。」
どうやらシゼル君は回復系統の魔術があまり効果をなさない体質のようで回復しようにもできないようだ。
「それよりもそろそろお前の【ホーリーシールド】も耐えられないぞ。」
「え?」
シゼル君の忠告を聞いて【ホーリーシールド】を見ると、少しずつ罅が入っていました。
それを見てもうすぐ【ホーリーシールド】が破られてしまう事を悟った私は疑問に思いました。
私の使える属性の中で最も得意とする光属性の魔術が同じ中級魔術の攻撃を短い時間食らい続けただけで破られようとしていたからです。
この世界に召喚されて強くなった光野君たちですら私の【ホーリーシールド】を破るのに手こずってしまうほどの防御力を持っているはずなのに。
そんなことを考えていると光の盾にどんどんと罅が入っていきます。
「どうしてこんなにも早く?」
「たぶんフィーゼルが精霊魔術を使っているかヨシムラが魔術で壊そうとしてるかのどちらかだろう。」
「吉村君があの人たちと一緒にいるんですか!?」
「いるぞ、俺を殺すために。」
シゼル君の話によればここに集まった殆どが貴族たちでそこに吉村君と奴隷が混じっているようです。
そんなことを話し合っていると【ホーリーシールド】の前に土の壁が現れました。
「それにしてもシゼルがそこまで傷を負うなんてな。」
どうやらブライア君が【サンドウォール】を張り巡らせてくれたようです。
正直に言って気休め程度にしかならないと思いますが無いよりはましです。
「傷を負って悪かったな!俺だって右手がうずかなかったら対処できたよ!それとなんでお前は二人を此処に連れて逃げてないんだよ!」
「痛い痛い!!頼むからやめてくれ!!」
近づいてきたブライア君にシゼル君はアイアンクローを食らわせながらここまでの経緯を教えてくれました。
どうやら貴族の半数ほどを戦闘不能にした途端に右手がうずきだしたようでその原因を考えていると吉村君の魔術が当たってしまい、それにつられて他の人たちが魔術を放ってしまいどうにかしようとしたら背中から切られてしまった挙句に精霊魔術を使われ追い込まれてしまったようでした。
「そうだったのね、それで原因は解ったの?」
「それがさっぱりだ、それに俺にだけしか感じられなかったようだから他の奴から聞き出すこともできない。」
「それだったら魔術は如何ですか?」
「それはない、右手がうずきだしたときに確かめたがそんな魔術を使ってる奴なんていなかった。」
それだったらどうして右手がうずいたんでしょう?
シゼル君が嘘を言って得することなんてこの状況ではないですから真実なんでしょうけど原因が分かりませんでした。
「それは分かったからそろそろ離してくれ!!本気で頭が潰れる!!!」
「すまん、ワザとだ。」
どうやら今までアイアンクローを食らい続けていたブライア君がとうとう根を上げたようです。
それよりもワザとと言っているあたり相当に怒っているようですね。ですが今更逃げるつもりなんて私たちにはありません。
「それでどうするの?このままじゃ私たち全滅なんだけど?」
「はぁー、お前たちはできるだけ奴隷を相手にしていてくれ。俺は貴族たちとヨシムラをどうにかする。」
「本当に奴隷だけでいいんですか?」
「ああ、そっちの方が邪魔が入らないからな。」
シゼル君はこんな傷を負ってもまだ戦うようで少し不安ですがこの状況から逃げられるとは思っていないので私も覚悟を決めます。
「それでは私の【ホーリーシールド】が破られたらそれぞれで別れましょう。」
「それがいいだろうな。奴隷は数がそれほどいないようだったから三人なら何とかなるだろう。」
「そうなるとシゼルがどれだけ貴族を抑えておけるかにもよるんだけど?」
「勿論全員叩き潰すさ。」
どうやらシゼル君は奴隷以外の全員を相手にして勝つつもりのようでした。
「おいおい、そろそろ俺の【サンドウォール】が破られるぞ。」
痛みから回復したブライア君が私たちに警告してくれます。どうやら言い争っている時間はもう残っていないようです。
「そっちは任せたからな。」
「分かりました。」
「任せなさい。」
「やってやるぜ!」
お互いが声をかけ終わるのと同時に私の【ホーリーシールド】が破れてしまいます。
そうして私たちは十数人ほどの奴隷が集まているほうへと駆けていき、シゼル君が貴族が集まっている方へと駆けていきました。
「さっさと終わらせてやるぜ!土よ、わが敵を、縛りたまえ。【サンドチェーン】!」
私たちが奴隷を相手にしようとすると彼らはすぐに離れようとしたようですがブライア君が【サンドチェーン】を使って逃がさないようにしてくれました。
「今度は私よ!雷よ、穿て。【ボルトアロー】!」
【サンドチェーン】によって動きが封じられた奴隷たちにライラちゃんが【ボルトアロー】を使って次々に気絶させていきます。
流石のライラちゃんも無理矢理従わされている奴隷たちに【ライトニングランス】を使うようなまねはしないようで安心しました。
しかし、奴隷たちの数はまだ残っており、逃げられないと判断した奴隷たちが【サンドチェーン】を振り切り、襲い掛かってきます。
「そうはさせません!光よ、守りたまえ!【ホーリーシールド】!」
私たちに襲い掛かってこようと私が【ホーリーシールド】を使って何としてでも守り通します。それくらいしか私ができることがありませんから。しかし、
「雷よ、わが身に、力を与えたまえ。【ライトニングムーブ】!」
「え・・・?」
ブライア君の【サンドチェーン】を振り切り、ライラちゃんの攻撃を避け、私の【ホーリーシールド】すらも私の背後を取ることで一人の奴隷はナイフを握る。
しかし、背後を取られたことで私が急いで振り返って見たものはその奴隷の涙でした。
そして、ナイフを握っている手は震えており、その手が振り下ろされることはありませんでした。
そのおかげで私は距離をとることができました。しかし、どうして私にナイフを振り下ろさなかったのか疑問に思えてなりません。
「どうして私にナイフを振り下ろさなかったの?」
「・・・ごめん・・・なさい・・・。あの人を・・・助けて・・・。」
ナイフを持っていない方の手で涙を拭きながら私に誰かを助けてほしいと願う奴隷の視線の方を向くとそこには精霊を倒し、貴族と戦い続けているシゼル君の姿がありました。
「どうして君がシゼル君を助けてほしいなんて言うの?」
「私は・・・あの人に・・・見逃して・・・もらったから・・・。だから・・・、」
とぎれとぎれで言葉を紡ぐ奴隷がかぶっているフードを外すと、女の子の顔と白い髪と獣耳が目に写りました。
「今度は・・・私が助けたいんです・・・!」
その言葉で彼女が何を願っているのか理解できました。
「だったら一緒に助けましょう。」
「!!」
だから私は彼女に手を差し伸べます。
しかし、彼女は私の手を取ることはありませんでした。なぜなら・・・、
「え?なに・・・どうし・・・」
突如として迷宮が大きく揺れると、私たちが立っていた場所が崩れて他の人たちと共に落ちていってしまったからです。
そして、シゼル君が私に手を伸ばす光景を見て私の意識は消えてしまいました。
~シゼルsaid~
時雨たちがこの場所に戻ってきたのは予定外だったが、貴族どもと吉村に集中できるようになったためにある意味助かった。
「やっとお出ましかよ化け物が。」
「どうだよボコボコにされる気分わよ?」
「お前らに教えるつもりはない。」
だから徹底的に叩き潰す。もう二度と俺に関われないように。だから、
「今から俺の手札を一枚見せてやるよ。」
いずれみせるだろうと考えていた手札を公開する。
「意味解らねえな!一体何をするつもりだ!?」
「関係あるかよ!【エンジェル】もう一発やっちまえ!!」
俺の言葉に吉村は叫び、フィーゼルが【エンジェル】にもう一度攻撃するように命じる。
しかし、【エンジェル】が攻撃をすることはなかった。
「おい!どうし・・・!!」
攻撃を始めない【エンジェル】にしびれを切らしたフィーゼルが【エンジェル】の方を振り向くと、炎の鎖と土の鎖によって地面に縛られ、羽の上に大きな岩が置かれ、炎と氷、土と雷の槍が刺さっていた。
あまりにもひどすぎる自分の精霊の現状にフィーゼルが言葉を失う。
「どういうことだ・・・一体いつの間に?それに誰がこんなことを?」
「全部俺だよ。」
「どういうことだ・・・」
「どういうことも何もそれが俺の手札だよ。」
そう、俺はただ魔術を使って【エンジェル】を倒しただけだ。
ただし、今の【エンジェル】が受けている魔術全てを同時に発動はしたが。
「ありえる訳ないだろ!これだけの魔術が一気に出せる訳ないだろうが!!」
「残念だがそれが俺の手札だよ。魔術の同時行使っていう方法だがな。」
まあ、フィーゼルが叫ぶ理由も分からなくはない。
魔術の同時行使は基本的にはできず、できたとしても魔術を続けて発動するだけだからだ。
しかし俺は母さんに一撃を与える為に魔術を続けて発動するだけでは届かないと何度も戦っていくうちに理解したために、魔術の同時行使という方法を編み出した。
しかし、母さんに一撃を与えることはできなかったが、母さんでも出来なかったことができたために少しだけ誇らしかった。
「だから今頃、貴族どもの殆どが倒れているぞ。」
「何だと!!」
俺の言葉にフィーゼルが慌てて自分が連れてきた奴らに目が向くと、彼らは俺が放った魔術にあたって倒されるか、慌てて逃げ惑うかのどちらかだった。無論、吉村もそのうちの一人だった。
フィーゼルがそれを見て驚いている間に俺も時雨たちの様子を覗くと殆どの奴隷が倒されており、俺が気にしている子は時雨と何か話し合っているようだった。
それを確認した俺はさっさとこの茶番を終わらせにかかる。
「これでわかっただろ。お前らごときが俺に勝つなんて無理だってことが。」
「こんなの認めてたまるか!!!!」
フィーゼルが叫びながら俺に襲い掛かって来るが今の俺にとって此奴はただのザコ同然だった。
そんなフィーゼルを眺めながら止めを刺そうとするが、またも右手がうずきだした。
「まただと?いったい・・・!」
右手がうずいた原因をフィーゼルを避けながら考えていると突如として迷宮が大きく揺れだし、俺が立っていた場所が崩れ始めて落ちていく。
「一体何なんだよ!?・・・って時雨たちの方も!」
たとえ俺が落ちたとしても助かる見込みは十分にあるが時雨たちは話が別のために慌てて確認すると時雨と奴隷の子が共に落ち、ブライアとライラが出口付近の場所に居た為に落ちるのを免れていた。
「ちっ、仕方ないか。」
現状を確認した俺は時雨を助ける為に崩れ落ちていく岩を足場にして時雨に近づいて手を伸ばす。
しかし、時雨が気を失っているようで手を伸ばしただけでは足りなかった。
「こんな時に気を失うなよな。」
それだけ呟き、時雨の手をつかみ引き寄せると今度は奴隷の子を足せるために手を伸ばすがその間を岩が通り過ぎたためにその子の手を取ることができなかった。
「・・・できることなら生きていろよ。」
奴隷の子を助けることができなかった手を眺めながら彼女の無事を願いながら俺も時雨を抱えたまま迷宮の底へ落ちていく。




