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復讐を願う魂と拒絶されし者  作者: 聖天騎士
第三章 動き出した者は復讐者となり
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第三十三話 因縁の戦い

~ブライアsaid~

「ちょっと離しなさいよブライア!シゼルの所まで戻らせなさい!!」


「そうですよ!たった一人であれだけの数の人を相手にするなんてシゼル君でもできませんよ!!」


「うるせえんだよ!!シゼルに言われたんだから仕方ねえだろ!!」


 俺は今、ライラとシグレちゃんを無属性の初級魔術【フィジカルアップ】で身体能力を強化した状態で抱えながら迷宮内を走っている。

 この魔術は魔力消費が初級魔術の中でもかなりのものでそう長い事維持ができないがその代わりに身体能力を上げてくれる魔術だ。


「シゼルに言われたってどういう事よ!?」


「昨日の作戦会議の時にシゼルが今回の事を予測して俺だけに伝えていたことがあったんだよ!!」


 シゼルは今回の事を予測して俺だけに伝えた内容をライラとシグレちゃんに走りながら説明する。

 その内容はシゼルを狙ってくる貴族連中が迷宮内で手を打ってくるだろうと予想して自分が標的になっている間に俺が二人を連れてできるだけ離れるか、教師にこの事を伝えるかのどちらかをしてほしいと頼まれたのだ。


「じゃあ何よ、あんたはそれを聞き入れてシゼルを囮にしたって事なの!?」


「もちろん俺だって反対した!!だがシゼルがそれを許さなかったんだよ!!」


 ライラがシゼルを囮にして自分たちだけ逃げていることに切れるが、俺だってシゼルと一緒に戦ってやりたかった。

 だが、俺達じゃあ数を揃えて来られたら足手まといにしかならないと言われて聞き入れてもらえなかったのだ。


「だから俺たちにできることはできるだけ早く教師にこの事を伝えることなん・・・」


「そんなの間違ってます!!」


 俺が放とうとした言葉を遮り、シグレちゃんが叫ぶ。


「足手まといだからって友達を見捨てていい理由にはなりません!!それでシゼル君が殺されたらどうするんですか!!」


「だがあの数を相手にどうやって俺たちがシゼルの助けになるんだよ?」


「そ、それは・・・」


 シグレちゃんの言葉は正論だ、何一つ間違いなんてない。それでも俺立程度の力があったところであの数を相手にするのはいくらなんでも無謀だ。

 たとえシゼルがいたとしても俺たちが足を引っ張っていたら意味が無いのだ。

 それが分かっているのかシグレちゃんも俺の言葉に反論ができずに俯いてしまう。だが、


「それでも・・・、私はもう逃げたくないんです!!ライラちゃん!!」


「任せなさい!雷よ、痺れさせよ。【ショックボルト】!」


「てめぇ!いつの間に!」


 俺がライラちゃんとの会話に夢中になっている間にライラが俺の足に【ショックボルト】を当ててきた。

 【フィジカルアップ】のおかげで痛みは耐えきらないものではないが直撃したせいで足が止まってしまった。

 そのすきにライラとシグレちゃんが俺から離れてしまった。


「たとえ足手まといになるって解っていても、私は見捨てたくありません!!」


「それにこれ以上貴族連中の思惑通りにさせたくないしね!」


 それだけ言ってライラとシグレちゃんは俺が走ってきた道を戻りだした。

 そんな二人の後ろ姿を見てると俺も我慢できなくなって決断する。


「すまねえなシゼル・・・、約束守れそうにもない。」


 そう呟いて【フィジカルアップ】を解き、俺も二人の後を追いかける。


「シゼルに怒られちまうけどそんなこともうどうでもいい!俺だって借りばっかり作ってたまるかよ!」


「なによ、結局あんたもついて来るんじゃない。」


「俺だってあいつのダチなんだから当たり前だろ!」


「それでは行きましょう!友達を助けに!」


 そうして俺はシゼルの頼みごとを破りさっきの場所へ戻る。








 ~シゼルsaid~

 ブライアが二人を連れだして逃げてくれたおかげで俺は遠慮なく貴族たちを潰すことができるようになった。


「ここで化け物を殺すぞ貴様ら!!一気に叩け!!」


「「「「「おう!!」」」」」


 フィーゼルの掛け声とともに次々に初級魔術や中級魔術が俺に目がけて放たれる。その数は目に見える数だけでも三十ほどある。


「この数の魔術を捌けるものなら捌いてみるがいい化け物!!」


「それじゃあ遠慮なくやらせてもらう。【アイスソード】。」


 流石に三十もの魔術を素手で弾こうとは思わないために【アイスソード】を片手に持ち、俺に向けて放たれてくる中級魔術をを切り伏せ、初級魔術を片手で捌き切る。

 しかし、次々に放たれてくる中級魔術に【アイスソード】が根を上げ、その刀身に罅が入る。


「チャンスだ!!そのまま一気に追い詰めるぞ!!」


 【アイスソード】に罅が入ったことが好機だと見たフィーゼルは周りの貴族たちに指示を出し、魔術の数を増やしてくる。


「食らうがいい化け物!光よ、わが敵を、滅せよ!【ホーリーブラスター】!」


 そしてフィーゼル自身もそれに交じり、光属性の中級魔術【ホーリーブラスター】を俺に向けて放ってくる。

 もちろん俺は【アイスソード】で【ホーリーブラスター】を防ぐ。

 だが、とうとう【アイスソード】が耐えられなくなり【ホーリーブラスター】を防ぐと同時に刀身が砕け散る。


「今だ!!全員魔術を化け物に向けて一斉に放て!!」


 フィーゼルがそう言うと殆どの貴族が俺に向けて魔術を放つ。

 その数は最初に放とうとした数の二倍以上もある。


「消えるがいい化け物!!!」


「もう飽きた・・・、消えろ。【アビリティブレイク】。」


 高笑いを上げながら叫ぶフィーゼルの声に隠れて俺が【アビリティブレイク】を発動させ、俺に向かってくる魔術のすべてを打ち消す。

 その光景に貴族どもはただ呆然とすることができず、フィーゼルに至っては口を開けたまま動くことができなかった。


「所詮はこの程度。弱者が数を揃えたところで弱者は弱者。」


 俺の呟きにようやく我を取り戻した貴族たちはもう一度魔術を発動させようとするが、俺にとってはそれが致命的な隙だった。


「待ってやるわけないだろ。【アイスソード】、【ライトニングムーブ】、【ウインドカッター】。」


 その隙を利用し、もう一度【アイスソード】を片手に持ちつつ【ライトニングムーブ】で貴族どもに近づき、【アイスソード】と【ウインドカッター】で切り刻んでいく。

 流石に殺すのは後々面倒なので全員の急所を外し、動けなくするようにする。

 しかし、切り刻まれていく仲間を見て俺に恐怖する貴族が慌てて魔術を放とうとするも、そのたびに俺は【アビリティブレイク】でその魔術を打ち消していく。


「何なんだよ・・・本当に何なんだよ!さっさと死ねよ化け物!!」


 それはフィーゼルも例外ではなく俺に向けて魔術を放とうとするも直前で魔術が打ち消されてしまうために狂乱する。

 フィーゼルがおかしくなる姿を目で追いながらそろそろ半分ほど戦闘不能にしたところで異変が起こる。

 それは、俺の右手が突如としてうずいてしまい、【アイスソード】を落としてしまった。


「今の感覚は何だ・・・?」


 俺はその感覚に疑問を持ち周りを確かめる為に止まる。

 突如として止まった俺に貴族たちは疑問を持つが俺はそんなこと気にせずに周りを確かめる。が、近くからは何も感じられず、ここにいる貴族たちの仕業でもないと判断する。


(いったい今のは何なんだ?)


 突如としてうずきだした右手を眺めながら原因を考える俺は周りの貴族どもの事を完全に忘れていたために、隙を見せてしまう。

 だが、先程までの光景を見ていた貴族どもは俺に怯えきっているために手を出すことはできなかった。

 ただ一人の人間を除いて、


「今だ!【バーニングバースト】!」


「なっ!しまっ・・・。」


 右手のうずきに気を取られてしまい【バーニングバースト】に気付けなかった俺は避ける間もなく直撃を食らってしまう。


「ようやく当たったぜ、てめぇら!!さっさとやるぞ!!」


 【バーニングバースト】が放たれた方に視線を向けるとそこには吉村が貴族どもに交じってこの場にいたようで周りの貴族に攻撃を促していた。


「またお前か・・・、懲りない奴だな。」


 【バーニングバースト】を受けた個所を確かめながら吉村が此処にいることに呆れてため息をこぼす。

 そうしている間にも吉村によって促された者たちが魔術を放ち始める。どうやら吉村の不意打ちが当たったことで多少の勝機を見出したようだ。


「また面倒なことを・・・どうせ勝てないのにっ!」


 魔術を打ち消そうともう一度【アビリティブレイク】を発動しようとしたところで俺の背中が刃物のようなもので切り裂かれてしまう。


「へへへ、形勢逆転だな。」


「フィーゼル・・・!!」


 切り裂かれた原因を調べる為にその場から慌てて退くと【アイスソード】を握り締めたフィーゼルが不気味な笑いを浮かべていた。どうやら俺の【アイスソード】を使ったようだ。

そうしている間にも俺に向けて魔術が放たれてしまう。

 【アビリティブレイク】が間に合わないと判断した俺はその全てを避ける為に動き回るが背中の傷のせいで思ったように動くことができないでいた。


「くそっ!」


 放たれ続ける魔術を交わし続けるものこのままではいずれ限界が来ることを理解した俺はここで一つの決断をする。

 そのために俺は飛び交う魔術の中、立ち止まる。


「とうとう諦めたか!」


「それだったら一気に殺すぞ!」


 突如として立ち止まった俺にフィーゼルと吉村の二人は俺を殺すために周りの人間と共に一斉に魔術を放つ。


「「死ねぇぇぇぇ!!!」」


 二人の叫びが重なり合う中、俺は放たれてくる魔術にも目もくれずに魔力を集中させていた。


「もうお前らごときの魔術は効かない。」


 それだけ呟くと俺にあたりそうになる魔術を目もあけずに最低限の動きだけで躱す。


「なっ!」


「嘘だろ!」


 さっきまでの動きと全く違う俺にフィーゼルと吉村だけでなく、他の貴族までがその光景をただ見ていることしかできなかった。

 そうして全ての魔術を避け切ると俺は一息つく。


「こんなものか。」


 周りを確認しながらそう呟くと貴族たちはようやく我を取り戻し、どうすればいいのかと騒ぎ出す。

 そんな中フィーゼルと吉村だけは今にも切れそうだった。


「所詮はこの程度だったってことだよ、だからもう諦めろよ。」


 俺の憐れむような言葉を聞き、二人の中で何かが切れたような音がしたのを感じたが所詮は大したことないと勝手に判断したが、


「我と契約せし者よ!我の敵を滅するために光輝く姿を顕現させたまえ!【エンジェル】!!」


「まさかここで精霊かよ。」


 フィーゼルが唱えだした詠唱が精霊を顕現させるものだと知ると顔から一滴の汗を流しだす。

 そうして顕現した精霊はまさに天使と言っていいほどの輝きとその白い羽を広げて現れた。


「やるぞ【エンジェル】!!化け物を殺すぞ!!」


『仰せの通りに、わが主よ。』


 フィーゼルの命令を受けて【エンジェル】は手のひらを俺の方に向け、


『滅せよ、【ヘブンズショット】。』


「いきなり精霊魔術かよ・・・!」


 いきなりの精霊魔術に警戒を怠らず、さっきの様に最低限の動きで避けようとするも、


「させるかよ!【サンドチェーン】!」


「くそっ!」


 吉村の【サンドチェーン】によって足を縛られてしまい動くことができなくなったために直撃を受けるしかなくなった。

 それでもダメージを軽くするために両腕を交差させて耐え凌ぐ。


「くっ!」


 【エンジェル】によって放たれた精霊魔術を何とか耐えるも両腕からは血が流れ、俺の顔や体からも地が流れ出した。


「はぁ・・・、はぁ・・・。」


 普通の魔術ならばたいした傷にもならずに堪えられたがさすがに精霊魔術ともなるとこれくらいの傷を受けることも俺は理解していた。


「どうした?殺せてないぞ。」


「満身創痍の状態でよくもまあそんな事が言えるよなあ。」


 俺の言葉に笑いながら魔術を発動準備を整えたフィーゼルが歩き出す。


「最後に何か言い残すことはあるか化け物?」


「残念だが死ぬつもりはないな。」


「そうか、じゃあ死ね。」


 そうして俺に向けて【ホーリーブラスター】を放ってくるフィーゼルを前に魔術で防ごうとしたところで俺の目の前に現れた光の盾によって防がれた。


「シゼル君!!」


 俺の名前を呼ぶ声に視線を向ければ時雨がこちらへ駆け寄ってきていた。

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