第三話 変わり始める日々
「さて、言い訳を聞こうか?」
そう言って僕に近づきどうして僕が此処にいるのか事情の説明を求めてくる。もっとも、言い訳と言っているあたり僕を信用していないのがうかがえるが、気にせずに事情を説明する。
「はい、お父様。書庫で勉強をしている際にフロリシア家の次女、イリス・フロリシア様が迷子になったとの事でしたので、そのままにしておく訳にもいかず、パーティー会場の途中までお送りしたために此処にいる所存に御座います。」
「ならば、何故すぐに誰かに知らせなっかたのだ?」
「近くに誰もいなかった様子だったので僕が案内するしかないと思いそう致しました。」
「迷子などほおっておけば良かったのでは無いか?」
「六大貴族の娘を迷子のままシャインゼル家にほおっておけば、この家に傷がつくと考え行動に至りました。」
そうやってここにいる理由を説明していると、お父様の隣から待ち切れなくなったのかは知らないが、フィーゼル兄様が声をかけてきた。
「父上。この様な者の事は如何でも良いではありませんか。そんな事よりも俺のためのパーティーの準備をしなくてはなりませんので、急ぎパーティー会場の方に行きましょう。」
そう言って、パーティー会場に行こうとするフィーゼル兄様を見ながら僕はいくつか疑問に思うが、これを利用して書庫に戻ろうとするために動く。
「それでしたら僕は、案内も終わりましたので、もう一度書庫に戻りますのでこれで失礼いたします。」
そうやって、此処から立ち去るため来た道を戻ろうとするとフィーゼル兄様が、上機嫌になりながら僕に語り掛けてくる
「そうしろ、これから行われることは、貴様のようなクズには関係のないことだからな。何故なら母上の子ではない貴様には期待もないことなのだからな。」
そう言って一人パーティー会場に向かい立ち去っていくフィーゼル兄様の言葉を気にも留めずに立ち去ろうとすると、
「貴様の沙汰はおってまた伝える。それまで自分の部屋と書庫以外の立ち入りを禁ずる、よいな。」
「分かりました。お父様。」
そう最後に父に言われた言葉にも気にも留めずに僕は一人で魔術の練習をするために車庫に戻るのだ。
(しかし、フィーゼル兄様のためのパーティーとはどういう事だろうか?なぜ貴族が集まるパーティーなはずなのに、それがフィーゼル兄様のためのパーティーになるんだろうな?)
最後にそう思いながら。しかし、僕は知らなかった。僕もフィーゼル兄様がやったことと同じことをやらされることになる日が来ることを、そして、その日が僕の新たな悲劇の始まりの日になることを。
イリスと出会ってから一年が経ち、僕も四歳になったころ、僕のシャインゼル家での日常が変わってきた。
以前までなら、部屋に引きこもって魔術の練習をするか、書庫に引きこもってこの世界のことを勉強しながら魔術の練習をするかしかなかったが、あのパーティーの日以来、イリスがシャインゼル家を訪れて僕と勉強したり、遊んだりの日々が新たに始まってしまった。
僕はどうしてこんなにイリスに懐かれているのか分からないまま魔術の練習をする時間が減らされて不満だったために一度断ろうとしたが、その時のイリスの泣きそうな顔を見てこれは不味いと思い、なし崩しに一緒にいることを了解してしまい、一緒にいることが多くなってしまったのだ。
「ねえシゼル君?どうしていつもこの部屋にいるの?」
イリスの突然の質問に少し迷ったが僕は答える。
「魔術を使いたいからです。」
別にこれは噓ではない。僕は早く魔術を使ってみたくて今も書庫にいる。
「えぇ!魔術って七歳から習えばいいのに何で今から勉強しているの!?」
イリスの言っていることは正しい。
この世界には向こうの世界と同じように教育機関があり七歳から入れるのだ。しかし、この世界の教育機関は貴族が優遇されているため、シャインゼル家の弱点の僕は教育機関に行けない確率が高く、必要なことはこの家にいる間に覚えなければならないのだ。
「シゼル君はえらいなぁ。私なんてまだ算術に苦労してるんですよ。」
そう言ってくれるが、これは向こうの世界の樟 刹那が得ていた知識であってシゼル・シャインゼルが得たものではない。こればかりは埋めがたい差だが、イリスも向こうの世界の常識から考えて算術ができているだけ優れているのだ。
「そんな事ないですよ、イリス様。イリス様も頑張っているではありませんか。」
「それはシゼル君がいるからです。私一人だったら簡単な四則計算も難しくて解けない問題があるくらいですから。」
「ですが今ではその四則計算もイリス様だけで解けているではありませんか。僕なんて、本のとおり魔方陣を描いているのに基礎魔術も使えなせんので。」
そうやって覚えた魔方陣を描いて魔力を流してみるも、魔方陣は全く光らない。
「その歳で魔方陣を描けることもすごいですが、何故でしょうね?」
そう言って光らなかった魔方陣を見ていたイリスが、
「詠晶はどうですか?」
「それは、自分の部屋で試したことがありますが、魔力切れで倒れてしまいましたので何とも言えませんでした。」
「それならその属性の適性がないという事ですね。」
そういってイリスは頭をひねらせて考えた後に
「やはり五歳になるのを待つしかないでしょうか?」
「それはどういうことですか?イリス様。」
その時のイリス様の言葉に疑問を抱き、思わず聞き返してみる。
「ご存じ無いのですか?アーティスタ王国の人々は、五歳の時に属性の儀をやるのですよ?」
「属性の儀でございますか?」
「そうです。アーティスタ王国の人々は自分の適性属性を知るために五歳の時に属性の儀を受ける決まりですよ。」
そう教えてくれたイリス様が驚いた顔で僕を見ていた。
「そんなに驚くことですか?」
「驚くに決まっています。どうして頭が良いシゼル君がこんな当たり前のことを知らないんですか?」
「そんなに当たり前なんですか?」
「ええ、そうです。これは貴族だけでなく平民でも知っていることです。逆に知らない方がおかしいです。」
今も驚きながら説明してくるイリスには失礼だが僕は去年からの疑問が解けたことについて考えていた。
(そうか、去年のあのパーティーの日は、フィーゼル兄様の誕生日だったからその属性の儀をやっていたのか。)
「それなら僕は、五歳になるまでに一つでも魔術を使えるようになりたいですね。」
そう言って僕は二度の人生の人生の中で初めての目標を口に出して笑っていると。
「あ!シゼル君が自然に笑ってくれました!」
その驚きは僕が属性の儀を知らなかったこと以上の驚きぶりだった。
「ようやくシゼル君の自然な笑顔が見れました。今までのシゼル君は何処か無理をして笑っていたので自然なものが見れてうれしいです。」
そう言いながらイリスも僕に笑顔を向けてくる中で、僕は自分でも驚くほど戸惑っていた。
(僕が笑顔だって、ありえない。絶対何かの間違いだ。)
そう思いイリスに否定の言葉を言おうとしたが、次にはなったイリスの一言で僕の心の中に火をつけた。
「でも、絶対に無理ですよ。何故なら、天才って呼ばれている私のお姉様だって適性の属性が判ってからでしか魔術が使えるようになりましたから。いくら勉強ができるシゼル君でも流石に無理ですよ。」
そう言い放ってきたイリスになぜか対抗心がわき、
「ならば何が何でも魔術を覚えてその記録を変えて見せましょう。」
そう言い放ちさらに魔術の練習をしようと決意していると、
「それでは、私のお姉様が勝つか。シゼル君が勝つかで勝負ですね。」
「望むところです。イリス様。」
そうやってお互いに握手を交わし、今日はいい日だと柄にもなく思いながら二人で魔術の練習をして別れた。
勝負の約束をしてから数か月が経ち、エミリア姉様の属性の儀を執り行う日。僕とイリスはいつもの書庫に来ていた。
「イリス様。例の勝負の件ですが。」
「無理だと分かり降参しますか。」
そう言って余裕の笑みを浮かべるイリス様に
「それは違います、イリス様。降参せずとも決着がつきましたので。」
「それはどういうことでございますか?」
「こういう事です。」
そう言って手のひらを広げて、
「火よ、わが手に宿れ【フレイム】!」
そう詠唱すると、
ボフゥ
そう音を立てて僕の手のひらに術式魔術の一番簡単なランク、火の基礎魔術【フレイム】を実演すると、
「・・・・・・・。」
ついさっきまで余裕の笑みを浮かべていたその顔は、驚きのあまり開いた口が閉じず、体は震え上がってしまっている。そうしている間に【フレイム】の火が消えてしまう。
「これで勝負は僕の勝ちでございます。」
そう誇らしげに語ると、
「どういうことですか!!!」
そう叫んだイリスは、いまだに状況の整理がつかず慌てていると、
「我が娘のイリスよ!そろそろパーティーの時間だぞ!」
勢い良く書庫の扉を開けて入ってきたヴェレス様に、
「お、お父様!大変です。大変なんです!!」
「どうしたのだイリスよ。そんなに慌ておって。」
未だに震えが止まらない体でヴェレス様にしがみつき、
「し、シゼル君がま、魔術を発動しました!」
「ほおぅ・・・。」
イリスが慌てている原因が僕が魔術を使ったことであることを知ったヴェレス様は慌てるどころか感心したような反応を示し、
「やはり使いよったか。だが、ここまで早いとは思ってなかったわい。」
そう語るヴェレス様は父親としてではなく、六大貴族の調子で語る。
「初めて会った時に何かなすだろうとは思っていたが、まだ五歳にもならん歳で魔術を使うとは、ネリテス以上の才能じゃな。」
「才能があるのでしたらもう少し早く使えたっかですが。」
「それだけのことを成し遂げてまだ先を目指すとは末恐ろしいのう。して、何の魔術を使ったのだ。」
「火の基礎魔術【フレイム】です。」
僕はヴェレス様に聞かれた質問に迷いなく答える。その間、ヴェレス様は僕の手に意識を集中させ、
「なるほど。相当に魔術を練習したらしいな。」
(ただ手を見ただけでそこまでわかるとは、やはり六大貴族の名は伊達ではないという事か。)
「お褒めに預かり光栄で御座います。」
「どういうことですかお父様?」
「イリスよ。こやつは我らと初めて会う前から魔術を練習し、ようやくそれが実ったという事じゃ。しかし、一体何時からやっておったのじゃ?」
「二歳のころからです。」
「そんなころからじゃは・・・。やはり末恐ろしのう。」
「二年もして使えるようになったのが一つだけですが。」
「これは、来年の属性の儀が楽しみじゃわい。」
「ところで、そろそろパーティーではないのですか。」
「そうじゃった。行くぞ、イリスよ。」
そう言ってイリスを連れてパーティー会場へと向かったのを見送り、書庫の扉を閉め、
(次は僕の番か。)
そう思いながらも僕は、イリスがいては勉強できないことを勉強するために本を取る、
「魔物大全」
そう書かれた本を。




