第三十話 王都への帰還
人が死ぬ場面があるので苦手な人は飛ばして読んでください。
会談から一夜が明け、シゼルたちは副都の門の前で王都に帰る準備をしている。
「本当なら副都のいいところを案内したかったんだがな。」
「すみません、学園の野外実習があるので。」
そんな中、光野とバーゼスは別れの挨拶をしていた。
バルゼハット家で寝かされていた光野はその日のうちに目が覚め、先にエルキットとバーゼスと共に物資を絞り込んでくれたようだった。
そのために朝から急いで絞り込む必要もなく、余裕を持つことができたのでルミテスも感謝していた。
「またここを訪ねるときに案内をお願いします。」
「勿論だよ。君がまたここを訪ねるのを楽しみにしておこう。」
そう言って二人は再会を約束して握手する。
「準備できたぞ。」
二人の握手が終わると同時にシゼルが馬車に荷物を積み終わったことを知らせる。
「それではまた。」
シゼルの声を聴いた光野はそれだけ言うと馬車に乗り込んだ。
バーゼスはそんな後姿を見て、
(強くなるんだよ。)
心の中でそう語りながら副都へ戻る。
「これで後はシゼル様が私たちに協力してくださればいいんですがね。」
「協力する気はないって言ってるだろ。」
馬車を走りださせてから一時間ほどが経つとルミテスが飽きずにシゼルの勧誘話を始める。
もちろんシゼルはすべて断っている。わざわざ勇者に協力する気も王国に協力する気もないからだ。
「いったいなぜ協力してくれないのですか!」
「落ち着いてルミテス様。」
シゼルの協力が得られないことにルミテスが今にも魔術を発動させる勢いで怒っているのを光野が慌てて宥める。
そんな中でも当の本人であるシゼルは外を眺めており、全く気にするそぶりを見せていなかった。
「シゼル君、一体どうして協力してくれないんだい?」
ルミテスでは聞き出せないと踏んだ光野は今度は自分からシゼルに訊ねる。どうせまともな答えが返ってこないと知りながらも。
「副都に向かう時にも言っただろ、協力する理由がない。」
シゼルの答えを聴いた光野はやっぱりかと思った。
しかしそれだけでは納得できない人物がこの馬車には乗っていた。
「逆に断る理由があるんですか!」
ルミテスだけはシゼルの答えに納得できずにさらに問い詰める。だがシゼルは、
「お前らと関わるのが面倒なんだよ。それが理由だ。」
「たったそれだけの理由ですか。」
関わり合うのが面倒という理由だけで協力を断る理由にルミテスは意味が分からなかった。
今の人間は一人でも多くの戦力と強大な強さが必要とされているというのにシゼルは関わり合いたくないから断るというちっぽけな理由で勇者との共闘を断ると言い出した。
そのことにルミテスの中で何かが切れそうだった。しかし、
「コウノ!ルミテスを守れ!」
「え!?」
シゼルが突如として叫びだし、馬車を飛び降りると同時に馬車が急に止まりだし、そのまま光野のもとにルミテスがバランスを崩してしまい、光野が慌ててルミテスを抱える。
「一体何が!?」
「分からない、シゼル君が大急ぎで馬車から飛び降りたけど外で何かあったのかな?」
そう言って光野は外を眺めるとそこには数十人の盗賊が馬車の前を塞いでおり、シゼルがたった一人でその人数と相対していた。
~シゼルsaid~
ルミテスが切れようとしたところで俺は馬車の前方から集団の気配を感じてコウノに指示を出してから馬車から飛び降りて集団の気配も元まで駆けつけると数十人の盗賊が進路を塞ぐようにして立ち並んでいた。
「いったい何の用だと言っても答えは分かり切っているか・・・。」
「分かってんならさっさとそこをどけ、でないと痛い目を見ることになるぞ。」
俺が溜息を吐きながらそう呟くと盗賊の集団のボスが剣を俺の首元に向けてくる。
「悪いけどそういう訳にもいかないんだよ、面倒だけど・・・。」
「そうか、じゃあ死ね。」
俺にどく気がないと悟った盗賊のボスがそのまま俺の首元に剣を刺そうとするも、
「死ぬのはお前らの方だよ。」
「は?何言って・・・!」
俺のナイフが盗賊のボスの腕を切り落とす。
唐突に切り落とされた自分の腕を見て盗賊のボスが驚愕の顔を浮かべるが俺はそのままナイフで盗賊のボスの首を切り落とす。
あまりにも早すぎる俺の手際に盗賊のボスは何もできずに地面に倒れこむ。
その光景を見ていた盗賊たちはありえないものでも見たかのような顔をしながら呆けていた。
「次はお前らだ。」
俺が残りの盗賊たちの方を向きながらそう言うと盗賊たちは大慌てで俺に襲い掛かってくる。中には魔術を発動させるため魔方陣を描いている者も数人いる。
「所詮はその程度か。」
俺はそう呟きながら襲い掛かってくる盗賊たちの攻撃を避けながらナイフで切り刻んでいく。
そんなことをしていると魔方陣が完成しようとしており、盗賊たちも数人を残してゆっくりと下がろうとしていたが、
「手口が同じだ。【アビリティブレイク】。」
魔方陣が完成する瞬間に俺は【アビリティブレイク】ですべての魔方陣を打ち消し、足止めに残っていた盗賊たちの首を斬る。
魔方陣が突如として消えたことで慌てている盗賊たちは仲間が殺される姿を見てようやく我に返り、もう一度魔方陣を描こうとするが俺はそんなに甘くはない。
「【ライトニングムーブ】、【ウインドカッター】。」
他の盗賊に取り囲まれる前に【ライトニングムーブ】で魔方陣を描こうとしている者たちに近づき、【ウインドカッター】で魔方陣を描こうとした者たちの首を切る。
俺を取り囲もうとした盗賊たちは慌てて俺の方に振り向くがすでに遅く、俺が魔術で仲間の首を切り落としたところだった。
「くっ!こうなったら一斉攻撃だ!!」
仲間が無残にも殺されていく光景を見せられた盗賊たちは俺に一斉して突撃しようとするも、
「う、動け・・・ないだと!」
盗賊たちは全員して体が動けなかった。
「お前らはもう動けないよ、俺が魔方陣をそこに描いたから。」
「何だと!・・・こ、これは!」
俺の言葉に盗賊たちは急いで足元を見ると足が凍り付いていた。
「まさか・・・これは!」
「さようなら。」
そう呟きながら俺は馬車まで戻ると魔方陣が魔術を発動させて残りの盗賊たちを凍らせてしまう。
「永遠に凍っていろ。」
凍り付いた盗賊たちを眺めながら俺はそうつぶやく。
盗賊を退け、王都までもう少しというところでようやくルミテスが
「最後のあれは一体何なのですかシゼル様?」
「上級魔術だが。」
「なっ!・・・その歳でそこまで会得しているというのですか・・・!」
俺が使った魔術を知るとこれまでの中で一番の驚きを見せる。
「いったい何の魔術なんだい?あれが水属性だってことは分かるけど。」
「水属性の上級魔術【ニブルヘイム】だよ。」
「水属性の中でも最難関と言われている魔術をあっさりと。」
水属性の上級魔術【ニブルヘイム】は全てもものを凍らせてしまうほどの霧の冷気を発生させ、浴びたものを永遠に凍りつかせてしまうと言われている魔術だ。
水属性の適性がある者は誰しも会得しようとするがほとんどが断念してしまうほど会得が難しいと言われているためにこれを会得できたものは魔術師界の中でも特に重宝されてる。
「これは何が何でもシゼル様に協力してもらわねば。」
「だから言ってるだろ、僕は協力するつもりはないって。」
上級魔術を使えるという事で再びルミテスが俺を勧誘してくるが聞き入れるつもりはない。
もともと協力するつもりなどなかったが、副都で見せられた魔術武装を見て改めて思ったからだ。
ドワーフ族が作った武器ならば魔術武装でなくとも多少の迫力を感じさせるほどのできなのに副都で見た魔術武装からは何も感じられなかった。
それに魔術武装を打てるドワーフは一族の中でも貴重で人間の領域に入ろうともしないはずだと母さんから聞かされていたためにあれが無理やり奴隷にしたドワーフに作らされたものだとすぐに見抜いた。
もし勇者に協力することになるとそう言った武具を使わされることになるだろうと俺は考えている。
俺はそう言ったものを扱いたくないために勇者と協力しないのだ。
「本当に協力するつもりはないんですか?」
「くどいぞ、僕は勇者に協力するつもりも、王国に協力するつもりもない。」
だからここではっきりさせておかなければならないのだ。
勇者と協力して戦うことを、勇者に手を貸すことを、そして、
「俺の師匠、アリス・エトワールも協力する気はないですから。」
「なっ!それはどういう意味ですか!」
母さんが協力しないと俺の口から放たれた言葉にルミテスは驚愕しながら俺に言葉の意味を求めてくる。
「そのままの意味だ、師匠は協力しないって言っていたよ。」
「そ、そんな・・・。」
俺の言葉にルミテスはショックを受ける。
しかしどれだけ落ち込もうと俺の言葉に嘘はない。しかし、
「どうしてシゼル君がそんな事言えるの?」
光野のふとした疑問にルミテスが顔を上げ、驚いた顔で光野を見る。
「聞いたからだよ、本人に。」
「聞いたってまさか・・・アリス・エトワールと会っているのですか!?」
「いてっ!」
俺が母さんと会っていることを隠さずに話すとルミテスが光野を押しのけて反応した。
「弟子が師匠に会うなんて当たり前だろう。」
「一体何処であったんですか!!」
「言う訳ないだろう。だいいち、なんで教える必要があるんだよ。」
「そんな・・・。」
母さんの居場所がわかるかもという希望も俺の言葉で簡単に打ち砕かれたルミテスはまたも落ち込む。そんな中で、
「何で君はそんなに・・・、」
「どうした?」
「・・・いや、何でもない。」
俺に向けられた呟きに光野の方を向きながら訊ねるも何も答えてくれなかった。
そんな光野の様子に疑問を感じながらも俺は外を眺める。そうしたら王都の街並みがもうすぐそこまで迫っていた。
「もう少しでこのくだらない面倒ごとも終わるんだな。」
「くだらないとは何ですか!少なくとも私たちにとってはくだらななくはないですよ!」
「落ち着こうよルミテス様、シゼル君は無理やり連れて来られたんだから。」
俺の呟きにさっきまで落ち込んでいたルミテスが怒り、光野が宥める。
そんな光景を俺は溜息を吐きながら流し、勇者の実力を図っていた。
(光野の実力は今のところ俺の脅威ではない。もしこのまま光野基準で他の奴の強さを図るなら勇者の実力も大したことはないな。そうすると俺の目的も案外簡単に終わるかもな。)
そんなことを思いながら俺は自分の右腕を眺める。
(こいつを使う日も近いかもな・・・。)
光野とルミテスに見つからないように俺は右手の甲に魔力を流す。そうすると俺の右手には、精霊と契約している証である精霊紋が浮かび上がる。
精霊紋とは精霊と契約している者の証で、必ず体のどこかにつけられるものだ。
精霊の力を扱うには必ず精霊紋の力が必要であり、契約せずに無理矢理精霊の力を使おうとすると精霊の方から拒絶されてしまう。
(待っていろよ、必ず復讐してやるから。)
精霊紋を眺めながら俺はそう心の中で呟く。
そして魔力を流されて浮かび上がった精霊紋は俺が最も得意とする闇属性の光を放っていた。




