第二十八話 賭けの結果
今回も光野視点から行きます。
~光野said~
『今日こそ勝たせてもらうからな、夏姫』
『そのセリフはもう聞き飽きたわよ、カズマ。』
そうして俺と夏姫が竹刀を構えている光景が突如として頭の中に蘇ってくる。
(なんで今更こんな光景を思い出すんだよ・・・。)
この光景の勝負の事は俺もしっかりと覚えている。なのに何故今更こんな光景が出て来るのか分からなかった。
そんなことを思っていると俺と夏姫が同時に駆け出して竹刀を打ち合った。
だがこの時の勝負は十秒ほどしか打ち合えずに俺が負けてしまった。
『まだまだね、面!』
『くそっ、また負けた。』
こんな状況だというのに俺は俺自身の負けっぷりに笑いそうになる。
俺自身の負けっぷりを見たらなぜか体から力が抜けそうだった。どうやらこの光景も終わろうとしているのかもな。
『ふふ、相変わらず私に勝てないのね。』
『勝てなくて悪かったな。』
記憶の光景の俺たちの会話も俺の耳からは聞き取りずらくなってきた。光景の方もどんどんと薄くなってくる。
その瞬間、
『なあ夏姫、なんでそんなに強いんだ?』
(え?)
記憶の俺がつぶやいた言葉に記憶の夏姫も驚いていたが俺自身が一番驚いた。
記憶の光景の事は覚えている、もちろん負けたことも覚えている。
だが、この後の会話の事がどうしても俺は思い出せなかった。いや、まるでこの会話の記憶だけ抜けていると言った方が正しいのかもしれない。
そんなことを思っていると記憶の夏姫は記憶の俺に笑みを浮かべながら、
『私が強いのは私の中である決め事をしていて、その決め事を貫こうという覚悟があるからよ。』
(覚悟・・・!)
覚悟という言葉に記憶の俺は何のことか分からないような顔を浮かべているが、俺はその言葉を聞いた瞬間に何かが頭の中を駆け巡った感覚を感じた。
『なんだよ覚悟って、その決め事にそこまでかける意味あるのかよ。』
『あるわよ、だってそれが私の在り方だから。』
『もっと意味解らないよ。』
ここまでの会話で俺はようやくこの会話の先の事を思い出した。
同時に俺の中で何かが動き出そうとしていた。
(この頃は意味解らなかったけど、今ならきっとあの約束の意味も分かるな。)
『今はまだ解らなくてもいいわ、だけど一つだけ約束して。』
『約束?』
『約束、私は一正以外の人に負けるつもりはないわ。だから、』
この言葉を聞いた瞬間に俺は今まで忘れていた約束をもう一度心の中で唱える。
『一正は私に勝つまで誰にも負けないで。』
(俺はもう夏姫以外に絶対負けない!)
俺の中でもう一度それを決意すると同時に記憶の光景が変わりだし、さっきまでの戦いの光景が現れる。
その光景は俺が【サンドチェーン】で右腕を拘束されて身動きが取れない場面だった。
『私は君に期待していたんだよ。だからこんな戦いの場を設けて君の力を、君の覚悟を、君の在り方を確かめようとしたんだけど無駄だったようだな。』
(この時の俺はバーゼス様が何を言っているのか全く分からなかったな・・・。)
だが今なら何かわかるような気がする。
夏姫との約束を守るために俺はもう一度体に力を籠める。彼女との約束を守り通すために。
「うおおおぉぉぉぉ!」
俺が意識を引きずり戻せば後ろに部隊の外側が見える所まで飛ばされていたがギリギリのところで【アイスソード】を舞台に突き刺して持ちこたえる。
「ほう・・・。」
『なんとコウノ選手、ギリギリのところで持ちこたえた!!』
俺が持ちこたえたことでバーゼス様は意外そうに声を漏らす。
「はぁ・・・、はぁ・・・。」
俺はなんとか立ち上がるも舞台に突き刺した【アイスソード】には罅が入っていた。恐らくあと一度振るえば砕けるだろう。
「よく持ちこたえたな、まだ諦めない様だな。」
「ええ、まだ諦めるつもりはありません。約束を果たすまでわ。」
「・・・どうやらさっきまでの君とは何か違うようだ。」
流石バーゼス様だ、俺のちょっとした変化にもすぐに見抜いてきた。
「違いますよ。俺は俺なりの答えを見つけましたから。」
「ならその答えはこの戦いで教えてもらおうか!」
バーゼス様がそう言うと火柱の勢いがさっきまでとは比べ物にならないほど激しくなった。
「君がこの【フレイムカーニバル】を突破し、私に一撃を与えることができれば君の勝ちにしよう!」
「その言葉忘れないでくださいよ!雷よ、我に力を【ライトニングムーブ】!」
「ここで【ライトニングムーブ】だと!」
バーゼス様が驚くが俺は迷いなく駆け抜ける。だが、俺の目の前に火柱が現れる。
だが俺はそのまま火柱があるのも気にせずに【ライトニングムーブ】を維持した状態で駆ける。
「このまま私の【フレイムカーニバル】に突っ込むつもりか!?」
「その通りですよバーゼス様!あなたの【フレイムカーニバル】に怯えていては俺が倒したい人に勝たないのでね!」
「無謀にもほどがある!」
無謀なことは俺だって百も承知だ。
だが俺はどうしてもこれを成功させる。俺の覚悟を貫くために。
「これが俺の覚悟だ!!」
そうして俺は火柱に自ら突っ込んだ。
火柱の炎は思っていた以上に熱かったが雷を纏っているおかげで耐えられないほどではない。
だから俺は試してみることにするここであれをできるかどうか。
「氷よ【アイスブレイド】!」
炎の中で俺は【アイスソード】を解き、新たに【アイスブレイド】を作り出す。
【アイスブレイド】は水属性の中級魔術で【アイスソード】の強化版だ。【アイスソード】よりも強度が増し、剣しか再現できなかった【アイスソード】に対し、武器系統ならどれでも再現可能となった。そのため俺は刀を模した。
そうして俺は火柱の中から飛び出し、バーゼス様の目の前に現れる。
「まさかそんな方法で私の【フレイムカーニバル】が破られるとは・・・。」
俺が火柱から出てきたことで【フレイムカーニバル】が破られたことを悟ったバーゼス様は剣と盾を構えて切りかかる。
「だが君が私に一撃を入れなければ勝てないぞ!」
「分かってます!だからこの一撃で決めてみせます!!」
そう言って俺はシゼル君から借りた剣を捨て、【アイスブレイド】で居合いの構えをとる。
「その構えは一体・・・?」
俺のとった構えにバーゼス様が疑問を漏らす。
俺はそんなバーゼス様の一瞬のスキを見逃さなかった。
「西沢一刀流、居合いの太刀、早斬り!」
そんな一瞬のスキを使って俺は夏姫から教わった西沢一刀流でバーゼス様に斬りかかる。
そしてバーゼス様も俺に剣を振り下ろしてくる。
俺とバーゼス様の一撃はほぼ同時だった。そのため俺とバーゼス様はお互いに背を向けて静まり返り、観客もそんな俺たちの雰囲気に静まり返る。
俺はその一瞬が何時間も経ったような感覚に襲われていた。正直に言ってこれが決まっていなければ今の俺に勝ち目なんてない。それだけ今の一撃に俺は全てをかけていた。
そうして待っていると、
「まさか、ここまでの成長を見せるとは・・・。」
聞こえてきたバーゼス様の声に俺は振り向くと、
「私の【フレイムカーニバル】を破るだけではなく、私の右腕にまで一撃を入れたのだ。誇ってよいぞコウノ君。」
バーゼス様の右腕の装備を切り裂かれており、その隙間から血まで流れていた。
「それじゃあ、勝負は・・・?」
「ああ。先程の言葉通り私の負けだよコウノ君。」
バーゼス様の敗北宣言に俺だけではなく司会者も観客も静まり返った。
そんな中誰よりも早くに動いたのは司会者だった。
『け、決着だ!!!バーゼス・ロンダーク対コウノ・カズマサの勝負はバーゼス・ロンダークの敗北宣言によりコウノ・カズマサの勝利だ!!!』
司会者の叫び声に我を取り戻した観客たちは次々にお互いをたたえる称賛を叫びだした。
「へへへぇ、俺の勝ちか・・・。」
観客の賞賛の雄叫びを聞いて俺はようやくバーゼス様に勝てた実感が持てたが、安心すると同時に体から力が抜けてしまい座り込んでしまう。
「やばいな、体に力が入らない。」
「魔力の使い過ぎと疲労による体力減少に体も限界だという事だよ。」
座り込んだ俺にバーゼス様が手を差し伸べてくれる。
俺はその手を握り、体を起こしてもらう。
「あれほどまでに魔力を使い、私の【ロックブラスト】をまともに受け、【フレイムカーニバル】に突っ込むという所業を繰り返せば体が悲鳴を上げてもおかしくないぞ。」
「そうしないと勝てませんでしたから。」
バーゼス様の言葉に俺は自分がやったことを改めて思い返し苦笑いを浮かべながら返す。
「参考までに聞かせてもらいたいんだが、何故君は私の【フレイムカーニバル】を自らが突っ込んで突破するという方法をとったんだい?」
「ああ、あれですか。恥ずかしい話、実は無我夢中の作戦とその場の勢いです。」
「それは何ともまた・・・。」
そうして俺はバーゼス様に俺が見た者感じたものを語る。
あの【ロックブラスト】が直撃した後から突如と思い出せた約束の事、自分の覚悟を貫くために【フレイムカーニバル】に自ら突っ込んでその覚悟を見せつけようとしたことをバーゼス様に伝える。
「あの時の光景を思い出さなければきっと俺は負けていましたけど。」
「恥ずかしがるようなことではない。つまり君は君自身の約束を守るために私と真正面からぶつかり合ったという事だろう。ならば、その行動は称賛に値するよ。」
バーゼス様が俺の行動に納得し、称賛を送ってくれる。
「これで君は少し前に歩みだしたな。」
「ええ、有難う御座います。」
バーゼス様に勝てたことで俺の迷いは少し晴れた気がするがまだ全てを拭い切れているわけではなかった。
だが、この勝負のおかげで俺はまだ戦えそうだ。
俺の目の前にいるバーゼス・ロンダークという元aランク冒険者のおかげで。
「さて、君が勝ったことで今回の本当の目的である会談の結果だな。」
「ああっ!すっかり忘れてた!!」
「はぁはぁは!まさか勝負に夢中で目的を忘れているとはこれではまだまだだな。」
勝負に夢中で会談のことをすっかり忘れていた俺はバーゼス様に笑われてしまう。
しかし、バーゼス様は司会者から声を広げるのに使っていたものを借りていた。
『今この場にいる観客のみなよ!今の勝負は会談の結果を賭けた勝負だ!内容は物資の供給についての事で勇者が勝てばこれを了承するという事だ!』
バーゼス様が今回の会談内容とこの勝負の本当の目的を語ると観客たちはいっせいに静まり返り、バーゼス様の言葉に耳を傾けていた。
『もちろん会談の結果を賭けた勝負だから俺は手加減なんてこれっぽっちもしていない!!だが、そんな中、勇者は私に勝った!!だから副都は王都絵の物資供給を引き受けようと思う!!これは副都全体の利益にもなる!!もちろん副都の民はこの会談の結果を快く受け入れてくれるよな!!』
バーゼス様が会談の結果を了承するという宣言を高らかに叫び終えると、俺たちの勝負以上の歓声があちこちから響き上がる。
その声はバーゼス様の言葉に賛同する声で不満の声が一切なかった。
「これでエルキットの奴も無理な拒否はできなくなった。会談もこれで心置きなく進むだろうな。」
「狙っていたんですかバーゼス様?」
「どうかな。」
どうやらバーゼス様は会談を進めやすくするためにあえて高らかに宣言したようだ。
だが俺はそんなことを気にしている余裕がすぐになくなってしまう。何故なら、
「コウノさん!!」
「ルミテぐえっ!」
ルミテス様が俺の勝利を祝うために慌てて舞台に駆け付け、そのまま俺に突進するかのような勢いで抱き着いてきたために舞台に倒れこんでしまう。
もちろん俺は体力をほとんど使いきっているため、今立っていることも限界だった。
あとは言わなくても分かるだろう。
俺はそのまま意識を手放してしまった。




