第二十七話 バーゼス・ロンダークの実力
~光野said~
俺は今、商売区にある闘技場の控室にいる。
会談でのバーゼス様の賭けを俺は迷った末に受けることにしたからだ。
「コウノさん、本当によろしかったのでしょうか?」
「これでよかったんだよルミテス様。俺もこの世界でどこまで通用するのか確かめたかったんだ。それに・・・」
この戦いは俺にとって会談の結果を左右するだけではない。バルゼハット家に向かうまでにバーゼス様に言われた言葉の意味を少しでも見つけるためだとも思っているからだ。
「それよりもシゼル君はどこ行ったの?」
シゼル君がこの控室にルミテス様と一緒に来ていないことに疑問を感じて訊ねる。
「シゼル様ならもうすぐここにいらっしゃると思いますよ。なにやら馬車の方まで取りに行きたいものがあるとかで。」
「馬車に?一体何を?」
「お前が使う武器だよ、まさか武器無しであのバーゼスに挑もうなんて思ってないだろうな?」
そう言って一本の剣を俺に投げ渡しながらシゼル君が部屋に入ってくる。
「おっと、まさかそれだけのために?」
「まさか、一応僕の武器も取りに行ったよ。あの執事に渡した武器は偽物だし。」
そんなことを言って俺に二本の鋭利なナイフを見せてくるシゼル君についつい苦笑いがこぼれる。
「ひとまずはその武器を使えば一方的にはならないだろうしな。」
「助かったよ。会談だけと聞いていたから武器を持ってきていなかったからどうしようか悩んでいたところなんだ。」
なんて言ったて元Aランクの冒険者だからなバーゼス様は。俺が勇者としての力があったとしてもきっと油断できないと思うから。
「コウノさん、そろそろ時間です。」
「分かった、きっと勝ってくるから。」
ルミテス様にそう言って俺はシゼル君が持ってきた剣を握り締めて控室から出る。
「この試合で少しでもいいから前に進んでやる。」
二人に聞こえないようにそう決意しながら。
『会場の皆様お待たせしなした!これより元Aランク冒険者の実力者、バーゼス・ロンダーク対異世界から召喚された勇者の一人、コウノ・カズマサの決闘が始まります!!』
試合会場に出たとたんに聞こえて来る司会の獣人族らしき男の宣言と共に聞こえて来る観客の声に緊張しながらも俺は舞台に上がる。
「すごい観戦だな。」
「私は商売区を治めているが元Aランクの冒険者だ。そんな者が勇者と戦うとならば嫌でも注目を集めるよ。」
俺の呟きに反対側の入り口から笑いながら舞台に上がっってくる。
その姿は会談の時に着ていた貴族としての服装ではなく、冒険者が身にまとうような装備と立派な剣と盾を装備していた。
「冒険者が武器を持ち戦いの場に立つこの状況、もう言葉はいらん。」
そう言って武器を構えるバーゼス様の威圧に俺は一歩下がりそうになるがなんとか踏みとどまる。
(これがこの人の冒険者としての姿か・・・。)
こんな人に勝てるのかと一瞬不安になりそうになるが、いつも夏姫に挑んでは負けていることを思い出し気が楽になると俺も両手で剣を構える。
「ええ、そうですね。」
『さあ!両者の気迫も絶好調という事で決闘のルール説明が終わり次第さっそく始めましょう!』
そう言って獣人族の司会者はルールを説明する。
この決闘のルールは学園のものとは違い中級魔術までか使用可能であること、舞台の外に足がついたら負け、相手を行動不能にするか降参を宣言させるかのどちらかで決着がつくこと、相手を殺してはいけない、必ず一対一で試合をすること、上記のルールを守るのなら法律に反すること以外なら何でもアリだという事。
『それではバーゼス・ロンダーク対コウノ・カズマサ、試合開始!!』
試合開始の合図とともに俺とバーゼス様は駆け出して剣を打ち合う。
五回、十回と剣を打ち合うと、
「どうやら剣とは違う何かを心得ているようだ。振り方が独特だな。」
「さすがですね、俺たちの世界ではこんな剣ではありませんが木刀という物を握っていました。」
たった少ししか打ち合っていないというのに俺に何かの心得があると睨んできたバーゼス様。
そんなバーゼス様に俺は素直に打ち明ける。なぜなら、
「ですがこれだけではありません。風よ【ウインドブロウ】。」
「むっ、これが狙いか。」
打ち合いの中でバーゼス様に接近した俺は剣から片手を離し、がら空きの体に風属性の初級魔術【ウインドブロウ】を叩きこみ吹き飛ばす。
【ウインドブロウ】によって吹き飛ばされたバーゼス様はそれほど大してダメージに放っておらず、すぐに体勢を立て直した。
「これは一本取られたな、まさかここまで早く一撃をもらうとは。」
「やっぱり決まりませんか。なら次はこれです!【アイスソード】。」
【ウインドブロウ】の一撃を受けても平然としているバーゼス様に俺は【アイスソード】を発動させて二刀流で挑む。
「ほう、次はそう来たか。ならばこちらはこれだ、炎よ【ファイヤーボール】。」
飛ばされたことによってできた間合いを詰めようとしてくる俺にバーゼス様は【ファイヤーボール】を発動させながら距離をとる。恐らく俺を近づけてはいけないと考えているのだろう。
「ですが甘いです。雷よ、我に力を【ライトニングムーブ】!」
「なに!三属性持ちだと!それに【ライトニングムーブ】まで使うか。」
俺が雷の中級魔術【ライトニングムーブ】を使ったことで三属性持ちだと気づいたバーゼス様は驚愕の声を上げる。
確かこの世界の人間は二属性が多いと言っていたからそれでバーゼス様は驚いているんだろうがどうして【ライトニングムーブ】を使うことに驚いているのか俺にはわからなかった。
【ライトニングムーブ】は自分に電光石火の速度を与える魔術だ。
俺は知らなかったが【ライトニングムーブ】は直線距離しか走れないは、速度を加減することは難しいなどといろいろな欠点が存在するため使いどころを間違えれば自滅する魔術なため好き好んで使おうとは思わない魔術だ。
だがそのおかげで俺は【ファイヤーボール】を回避してバーゼス様に接近できた。
「これでどうだ!」
「させないよ、土よ【サンドチェーン】。」
「なっ、しまった!」
【ライトニングムーブ】によってバーゼス様に接近した俺はシゼル君から渡された方の剣で切りかかろうとしたが、【サンドチェーン】によって剣を持っている右腕を束縛されてしまい切りかかることができなくなってしまった。
「さすがに【ライトニングムーブ】を使われた時は焦ったけどこうなってしまえば動けまい。」
バーゼス様が言う様に俺は【サンドチェーン】で右腕を束縛されている。
しかもその【サンドチェーン】は詠唱によって発動したものではなく魔方陣によって発動したものだ。しかもその魔方陣はさっきまでバーゼス様が立っていた位置、つまり俺の後ろにあるのだ。
「どうやら気付いているようだな、【サンドチェーン】が後ろにある魔方陣から発動されていることに。」
「こうなることを読んでいたんですか?」
「まさか、警戒していただけだよ。どんな時にも油断せずに、それが私の戦い方だからな。」
どうやらバーゼス様は事前に備えを仕掛けていたようだ。
こうなったらバーゼス様が思いつかない方法で攻撃しなければ届きそうにもない。
しかし、攻撃しようにも今の俺は右腕を拘束されており、身動きが制限されている状態だ。これでどうやって戦えばいいんだ。
「どうやらもう決着のようだな、少しは期待していたが所詮はこの程度だったか。」
「なにを・・・」
「私は君に期待していたんだよ。だからこんな戦いの場を設けて君の力を、君の覚悟を、君の在り方を確かめようとしたんだけど無駄だったようだな。」
俺はバーゼス様の言葉の意味が分からなかった。
俺の力を確かめようとしたことはまだわかる。何故なら会談の結果がこの勝負にかかっているからだ。
だが、俺の覚悟と在り方のの意味が分からなかった。
いったい何を覚悟すればいいんだ、一体どういう風に在れというんだ、そんな疑問が頭の中に渦巻いて考えがまとまらくなってきた。
「降参したまえコウノ君、もう君に勝ち目はないだろう。」
バーゼス様が剣を構えながら俺に降参を進めてくる。だが、
「俺はまだ負けていません、ですからまだあきらめません。」
俺はまだ戦うことを宣言した。
「ならばこれで終わりだ。」
俺の宣言を聞いたバーゼス様は剣を振り下ろしてきた。
試合のルール上殺されはしないだろうが当たれば負けると分かっているので俺は
「【フラッシュ】!」
「なっ!目が!」
光属性の初級魔術【フラッシュ】を発動させてバーゼス様の前で思い切り目を潰しに掛かる。
【フラッシュ】はしばらくの間何かを輝かせるだけの魔術だ。
俺はそれを自分に対して発動させ、バーゼス様の目を潰しに掛かったのだ。接近している所為もありだいぶ効いたようだ。
その所為で攻撃を中断することになったバーゼス様の隙をついて俺は魔方陣を消しにかかる。
これが発動している魔方陣の魔術を無効にする一番簡単な方法だからだ。
「いやいや、まさか四属性持ちとは。大したものだな。」
「おかげでバーゼス様の不意を打つことができました。」
魔方陣を消したところでさっきの【フラッシュ】から回復したバーゼス様が称賛を送ってくれたがまだ油断はできない。
称賛を送ってくれたバーゼス様からも油断の気配が消えているからだ。
「次は私から行かせてもらおう。炎よ。【フレイムカーニバル】。」
「【フレイムカーニバル】?」
俺はそんな魔術聞いたことがなかった。
しかし俺は周りを警戒するのをやめなかった。バーゼス様の事だから何かあると考えて。
「警戒は無意味だよ、この魔術は誰にも予想できないのだからな。」
「え?それはどういう・・・」
バーゼス様の言葉に疑問を抱いた瞬間、舞台で火柱が現れた。
「始まるよ、炎の祭りが。」
バーゼス様がそう言うと次々に火柱が現れる。
「これは一体・・・。」
「これは私のオリジナル魔術だよ。」
オリジナル魔術と聞いた瞬間に俺はようやく納得する。
確か自らが魔術を作り出した魔術の事を総じてそう呼ぶとルミテス様から聞いていたのだ。
「さあコウノ君、君はどうやってこの魔術を攻略するのだ?」
そんなことを思い出している間にも火柱は次々に現れてくる。しかし、最初の方に現れた火柱は消えていた。
しかし、圧倒的にも現れてくる火柱の方が多かった。
「だったら、手がなくなる前に攻め切るだけだ。【ウインドカッター】。」
「無駄だよ。」
バーゼス様に向けて【ウインドカッター】を放つも、当たる直前で火柱がバーゼス様の目の前に現れて俺の【ウインドカッター】を防いでしまう。
「くそ、だったら自分で攻めるまでだ。」
そうして俺は火柱を避けながらバーゼス様に接近しようとするも、
「読めているよ、君の動きは。」
「なっ!いつの間に・・・。」
俺が避けようとした方向にバーゼス様が待ち伏せており、油断していた俺は剣で切りかかられるもなんとか防ぎ、距離をとる。
「くそっ、なんで俺の動きが・・・。」
火柱を避けながらどうしてバーゼス様に動きを読まれたのか考えていると、
「丸見えだな。」
「またか。だが、」
今度は火柱の陰からバーゼス様が切りかかってきた。だがそう何度も思い通りにはさせなかった。
何故なら、切りかかってきた剣を俺の二本の剣を使って受け止めて、抑えつけたからだ。
「これならどうだ!」
「確かにこれなら私は剣を手放さなければな、だがこれで君を守る物はなくなった。土よ【ロックブラスト】。」
「しまっ・・・ぐはっ!」
俺はバーゼス様の【ロックブラスト】の直撃を食らってしまい、そのまま吹き飛ばされてしまう。
(俺・・・負けるんだな・・・。)
最後にそう認識しながら俺は意識を手放そうとしていた。




